(7)合同探索②

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 < Side:キラ >

 

 無事にフィールドタイプの層となる中層に行くことができた探索隊は、広々とした草原の中を進んでいた。

 ただし広々といっても馬車が通ることができるルートは限られているので、そこまで自由に動けるわけではない。

 これはダンジョンではなく、普通の街道を通る場合でも同じなので今更ともいえる。

 当たり前のことだが、ダンジョン内は街道のように分かりやすく目印などがされているわけではない。

 そのため馬車が通れるルートを見極めるためには、何よりも経験がものをいうことになる。

 もっともこれはまだ他のチームにはばれてはいないと思うのだが、眷属のレオはどこが通れるのかをしっかりと判断できているが敢えて教えてはいない。

 どうやって通れるルートなのかを判断するのかきちんと教えてもらえるので、ありがたくその時々の判断を聞いているのだ。

 眷属のレオがいなくなるとは思えないが、何かの都合でいなくなった時のことを考えれば聞いておいて損はないはずだ。

 

 ヘディンダンジョンの中層は第六層から始まるが、今回の合同探索ではまずは第六層にあるちょっとした空間を利用して仮拠点を作ることになった。

 そもそも今回の探索は、トムを含めたサポーターの訓練が含まれているので、まずは中層の中でも比較的攻略が簡単だと言われている階層で行うらしい。

 第六層に出て来る敵であれば、『朝霧の梟』や『夜狼』が負けることはまずないらしく訓練をするのにもってこいの場所らしい。

 第六層で出て来る敵に負けないという意味では俺たちも同じなので、まずはやり慣れているらしいカールたちにお任せすることにしている。

 ダンジョン内を馬車で進むということは、当然のように探索中であっても馬車や拠点の護衛をする必要があり、そのための知識や知恵もサポーター諸君に教える必要がある。

 そうしたことを知らずに長期遠征に出かけたりすると足手まといになりかねないので、きちんとこうした場を設けているらしい。

 話を聞いてここまでするのかと感心するしきりだが、カールたちは「自分たちが兄貴分から教わったことを教え返しているだけだ」と笑っていた。

 

 勿論サポーターだけではなく、ダンジョン内を馬車を使って探索する際の注意点や他の冒険者とトラブルになりづらくするための方法など、ただ攻略を進めて行くだけでは分からない部分もしっかりと教えてもらえた。

 これは自分たちだけで攻略を進めていれば絶対に知りえなかったか、もしかすると実際にトラブルになったりする可能性があっただけに、かなりありがたかった。

 そんな重要な知識を教えてくれたカールは「トムをあの状況から救ってくれた礼だ」と言っていたが、さすがにそれだけだと気が引ける。

 何かちょうどいいお礼がないかと考えていた時に、ちょうど休憩に入ったオトとクファが近寄ってきた。

 

「ねえねえ、お兄ちゃん。聞きたいことがあるんだけれど、いいかな?」

「勿論いいけれど、サポーターのことだったら俺たちよりもトムに聞いたほうが良いと思うよ、クファ」

「ううん。違うの。聞きたいのは、お兄ちゃんが使っている魔法のこと」

「魔法……? どの魔法のことかな?」

「あのね、魔物を捕まえる時に使っている枝の魔法!」

「ああ、あれね。あれがどうかした? 枝じゃなくて根っこなんだけれど、それは似たようなものだしいいか」

「あっ、あれ根っこだったんだ。それで、知りたいのはそのことじゃなくて、お兄ちゃんがあの魔法を使うと緑にペカーって光るのはなんで?」

「緑……って、えっ!? クファ、あれが見えているの?」

「うん! 見えてるの! 私だけじゃなくて、オトも同じだって。でもね、他の子たちは見えないみたいなの。だから何でかなって」


 クファの隣に立っているオトを見ると、無言のまま頷き返してきた。

 二人の様子を見る限りでは嘘をついているようには見えない。

 そして枝根動可の魔法を使っている時に、ゲームのエフェクトのように緑色に光っているのは間違っていない。

 ただし全ての人が見えるわけではなく、ごく一部の者たちにはそう見えているというだけのことだ。

 より具体的にいえば、俺が知る限りでは世界樹の巫女としての素養がある者だけということになる。

 クファは女の子なのでまだ分かるのだが、問題なのは男の子であるはずのオトにも見えているということだ。

 世界樹の巫女は今のところ女性にしか見つかっていないはずだが、オトにも見えているということはその前提が崩れているということになる。

 

 そこまで考えた俺は、ふとある事実に思い至った。

 ――俺だって男じゃないか、と。

 何を今更な事実ではあるのだが、つい自分のことは無意識のうちに除外してしまって今まで気付いていなかった。

 となると男でもあの魔法のエフェクト(もどき)を見るための何かしらの条件があるということになる。

 ただし世界樹の巫女が女性しか見つかっていなかったのはたまたまで、ごくまれにでも男にも同格の存在になれる可能性もある。

 俺自身の今の状況を考えれば、感ではあるが思い当ることは無いわけではない。

 

 ダンジョンの中だというのにそんなことを長々と考えていると、ここでアンネリが少し呆れた様子で話しかけてきた。

「あのね。色々と考え込んで行動するのはあなたの美点の一つだと思うけれど、さすがにダンジョンの中では自重したほうが良いと思うわ」

 言外にシルクたちがいるにせよと続いていることを察して、俺は素直に謝った。

「いや、ごめん。ちょっと意外だったからついね」

「そんなに意外なことだったの? 私にも見えていたから普通だと思っていたのだけれど?」

「えっ!? ……初めて聞いたよ?」

「だって、初めて言ったもの。皆何も言わないからごく当たり前に見えているものだと思っていたわ」

 ここに来て新たな事実が発覚して、思わず天を仰いでしまった。

 さすがにアンネリに世界樹の巫女としての素質があるなんてことは、考えてもいなかった。

 

 とにかく今はダンジョンの中なので、本当に素質があるのかどうかはしっかりと確認しないといけないだろう。

 ただしアンネリはともかく、オトとクファは俺たちのチームに所属しているというわけではないので、どこまで教えていいのかが判断がつかない。

「……うーん。困ったな」

「なんだ。そこまで悩むようなことだったのか?」

 俺が腕を組んで悩んでいると、こちらの様子を伺っていたらしいカールが話に加わってきた。

「いや。オトとクファに関係する話なんだけれど、誰にどう相談したものか悩んでいてね」

「なんだ。一応話は聞いていたが、そこまでややこしいことでもないと思ったんだが?」

「まあね。あの魔法を使った時に緑に光ること自体は間違っていないから、クファが言っていることは正しいんだよね」

「そうなのか? 俺には見えなかったから、てっきり見間違いか何かと思っていたんだが」

 

 カールが意外そうな顔になったところで、少し声を落してアンネリとカールだけに聞こえるように言った。

「――もしかすると二人にはちょっとだけ特殊な才能がある……かもしれない。さすがにダンジョン内では確認する余裕がないとしても、今後どうしたものかと思ってね」

「……それは確かに悩みどころだな。今はあの二人も光が見えるのは錯覚じゃないと納得しているからいいが……折角の才能を潰すようなことはしたくないか」

「そういうこと。だから今回の探索が終わってからしっかりと確認するとして……問題は誰に相談すべきかってね」

「そうか。それだったら孤児院の院長に言うべきだな。探索が終わったら俺が繋ぎを取るよ」

「済まないね。ありがとう」

 カールが二人の保護者的存在との橋渡しをしてくれると言ってくれたので、とりあえず今は二人のことは先伸ばしにすることになった。

 

「――あのー。私は?」

「アンネリはどっちにしても聞きたがるだろうから、探索が終わって宿に戻ったら教えるよ」

「そう。それならそれでいいわ」




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m(__)m

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