(6)合同探索の合間

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 < Side:カール >

 

「――ねえ、カール……」

「わかる。言いたいことは非常によくわかるが、直接聞くのは止めておけよ」


 それは合同探索初日の仮拠点を設置し終えた時のことだった。

 意味ありげな視線をに向けながらエルゼがそう言ってきたのだ。

 そのとある方向というのは、勿論今回合同探索に初参加となったキラがいるチームだった。

 キラのチームはどうやらまだ名前が無いようなので、暫定的にキラのチームと呼んでいる。

 身分的にはアンネリの方が上だと思うのだが、何故か彼女自身からリーダーはキラだと断言されたので「キラのチーム」となっている。

 

 チーム名についてはいいとして、今重要なのはそのキラたちが用意している仮拠点が問題だ。

 見た目はごくごく普通の馬車なはずなのに、動き始めると妙に性能が良さそうだと思ったのが始まりだった。

 どう見ても普通の馬ではなく何かの魔物であると思われる馬の能力が高いからだとその時は強引に納得していた。

 さらに昼を抜くことも珍しくないダンジョン探索中に、絶対に昼食は取ったほうがいいと力説したのもキラで、とても豪勢な食事を振る舞って貰えた。

 もっといえば、戦闘中も普通の魔法使いが使わないような魔法を使ったりして、俺たちを驚かせていた。

 

 そうした「普通ではない」細々としたことが続いたのである程度予想はできていたが、やはり彼らが作った宿泊用の仮拠点も普通ではなかった。

 見た目は確かに普通のテントのように見えた。

 ただその大きさは精々二~三人程度が寝られるくらいの大きさのはずなのに、トムを含めた七人全員が余裕で出入りしているように見える。

 しかも馬車の中から宿泊用だと思われる布団を取り出して、テントの中へと次々に運び込んでいた。

 どう見てもテントの体積と入れている物が合わないだろうと思いっきり突っ込みたいところだが、ここで突っ込むと負けだという不思議な感情が湧いて来て先のエルゼへの回答になったというわけだ。

 結果から考えればあのテントには空間拡張のような魔法がかかっていると思われるが、そんな超高級テントをこんな場所で使わないで欲しいと突っ込みたいところだ。

 

「とんでもなく金額がかかっているというのはわかるけれど、それ以上にどうやって手に入れているのかが気になるなあ……」

「俺たちが想像もできないような伝手があるんだろうな」

「伝手ねぇ……。聞いたら意外にすぐ教えてもらえそうな気もするけれど、聞かないほうがいいよね」

「確かにな。聞いたら引き返せないようなところにまで道案内されそうだ」


 以前は孤児として裏の界隈を渡り歩いてきただけあって、俺もエルゼもそういった方面には端が効く。

 その感覚から別にキラたちは、裏社会のルートを使って手に入れたようには見えない。

 それが逆に、キラたちの特異性を際立たせているともいえるだろう。

 俺たちと同じような生き方を辿ってきた『夜狼』の連中も、同じように戸惑っているように見える。

 

 仮拠点づくりをしながらエルゼとそんな会話をしていると、キラ拠点から何やらいい匂いが漂い始めた。

 質素な食事で済ますチームも多い中、彼らは食事にもこだわってしっかりと準備をしている。

 それは昼食を取った時から分かっていたことだが、匂いから察するに夜食はさらに豪華になっているようだ。

 ちなみに昼を取るようにした分、俺やラウのチームは食料がギリギリ近くなったのだが、それをキラに告げると食事は自分たちで用意すると提案された。

 ダンジョン探索ではありえないほどの豪華な昼食を見て一も二もなく頷いたのだが、反面ここまでこだわるのかと少し金銭的に怖くなってくる。

 最終的に利益の分配をするときに、どれだけ取られることになるのかと。

 

 もっといえば、今回参加しているサポーター候補たちがこの遠征でこれが普通だと思われるのがもっと怖い。

 俺が知る限りでは、遠征の際にここまで「生活」にこだわってダンジョンに潜っているパーティなど数えるほどしかない。

 その数少ないパーティがキラのところになるわけだが、これが当たり前だと思い込んでしまうと他のパーティとは組めなくなってしまう。

 むしろ朝昼抜き、夜も簡易食を混ぜた粗食というのが普通のことなので、今の状況に慣れるのは非常にまずい。

 今回連れて来たサポーターたちには、後でしっかりと釘を刺しておかなければならない。

 

「――カール、何を惚けているの? お呼ばれしたよ」

「おっと、すまんすまん。……って、こっちの拠点は?」

「もうとっくに作り終えているわよ。サポーターへの指示をしていた皆に感謝することね」

「おう。後でしっかり感謝しておくとしよう」


 いかんいかん。色々と考えていたせいで、気付けば色々と事が進んでいたようだ。

 見た感じ特に不備な無いようなので、このままキラたちが準備していた場所へと向かうことにしよう。

 このまま食いっぱぐれることになったら、皆から何を言われるか恐ろしすぎる。

 食の恨みはいつまでも残るらしいしな!

 

 

 初日の夕食は、各チームがばらばらにばらけることになった。

 さすがに十数人が一か所に集まって食事をすることはできないので、チームごとに何人かごとに分けてそれぞれのチームが混ざることになった。

 これによって各チームの間で情報交換されることも期待している。

 後でチームの皆で集まって、どんな話が聞けたのかを確認しなければならないだろう。

 俺とエルゼは、各チームのチームリーダー同士で夕食を取る事になったので、食事中の会話もこれから先の攻略に重点が置かれることになるはずだ。

 

 その予想通りに食事が始まってからの会話は、初日の反省と今後の予定についての打ち合わせになった。

 こちらから見れば余裕層に見えたキラチームも色々と反省すべき点があると言われたのには驚いたが、確かに言われてみればその通りだと思う点ばかりだった。

 これだけ事前準備が優れている上にしっかりと自己反省したうえで向上心もあるので、今後どこまでその実力を伸ばすのか少し怖くなってくる。

 そんなチームに図らずも入ることになったトムが大丈夫なのか少し心配になったが、彼ならそつなく熟していくのではないかとも考えていたりもする。

 

 そんなこんなで用意された料理もなくなり、そろそろ食事も終盤に差し掛かるかどうかというところで『夜狼』のラウが聞き逃せない会話をぶっこんできた。

「なあキラさんよ。あんな魔道具、どうやったら手に入るんだい?」

 ラウがそう言った瞬間俺は思わず身を固くしてしまったが、言われた当人はごく自然な様子でこれまでと全く変わりがなかった。

「あー。あのテントかー」

「言っておくけれど、どこかで買えることを期待しない方が良いわよ?」

 キラとアンネリ嬢の間で一瞬視線が絡みあったようだが、具体的なことを言ったのはアンネリ嬢のほうだった。

「買えないってことは、ダンジョン産かい?」

「まあ、そんなようなものだと思ってくれればいいよ」

「私が知る限りでは、あんな魔道具を作れる職人はどこにもいないはずよ。国や貴族が抱えている可能性も無いわけではないけれど、隠しておく必要性も少ないから」

 貴族の子女であるアンネリの言葉だけに説得力があるな。

 

 確かにあんな便利な魔道具が職人の手によって作ることができるのであれば、国や貴族が後ろ盾になって大々的に宣伝して売り出すだろう。

 使う素材によって量産ができないから隠しておくということも考えられるが、だとするとキラが手に入れて堂々と使っているという理由が分からなくなる。

 いずれにしてもキラがこんな魔道具を持っていることは、他に知らせるようなことはしない方がいいだろう。

 あとで仲間たちにも念入りに釘を刺しておかねばならないだろう。

 俺と同じことを考えたのか、さりげなく重要なことを聞きだすことに成功したラウが意味ありげな視線をこちらへと向けてきていた。




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m(__)m

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