(4)奴隷の扱い

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 トムの中でアンネリの実の母親が『激流』の二つ名持ちであるという事実は、貴族の一員であるという事実を上回ってしまったようで、何かが振り切ったようになっていた。

 その勢いで言葉遣いが乱れてヘリから注意をされるという流れは、既に定番化していると言えるかもしれない。

 もっともトムはサポーターとしてだけではなく、能力というか性格的にも器用なところがあるようなので、すぐに慣れてしまうかもしれないと考えている。

 それはいいとして、トムが落ち着いたタイミングで今度は俺のことについても少し話しておいた。

 ただしこちらは、あくまでもアンネリやヘリが知っているようなところまでしか教えるつもりはない。

 それは別にトムを信用していないというわけではなく、彼の身の安全のことを考えて敢えてそうしている。

 アンネリやヘリもそうだが、余計なことを知れば知るほど危険にさらされることになるので、今はまだ細かいことまで教えるつもりはない。

 というよりも、教えたところでこれから先の行動が変わるわけではないので、状況が変わらない限りはこのままでいいと考えている。

 

 そんなこんなでトムが奴隷になっての初日は、彼にとっては色々とあり過ぎた日になっただろう。

 一応当事者とはいえ、奴隷になるという本当の意味を分かっていない俺としても、さすがに色々と詰め込み過ぎたかと反省する部分もある。

 これから先は、一応俺が主となって彼のことを考えなければならない。

 ……ということまではわかっているのだが、はっきりいえば奴隷を持つなんて初めてのことなので、どうすればいいのか分かっていないというのも本音だったりする。

 

 そんな戸惑いが顔に出ていたのか、個室に入ったところでシルクが話しかけてきた。

「何か悩んでいるようですが、大丈夫ですか?」

「あ~、やっぱりそんな風に見える? いや。奴隷ってどう扱えばいいのかなってね」

「……そこまでお悩みになる必要がありますか? 奴隷ということを抜きにして今まで通りにされればよろしいかと思いますわ」

「え、いや。今まで通りと言われても、トムみたいな立場の人を使ったことなんてないんだけれど?」

「おや。本気で仰っておりますか? ――わたくし共のように接すればよろしいかと思いますわ」

「……あ。そっか。なるほど。いや、でもな~。眷属とはやっぱり違うと思うんだけれどなあ……」

「そうかも知れませんが、そこまで細かく気にされる必要はないと思いますわ。時間が経てば主様も慣れていくでしょうし、トムも同じだと思いますわ」

「時間が解決する……か。うーん。何となく場当たり的な気もしなくもないけれど、どっちも初めての経験だから仕方ないのか」


 勢いで諭された気もしなくもないが、とりあえず納得することにした。

 シルクにしても相変わらず傍に張り付いているルフも、揃ってそこまで気にする必要があるのかという態度をしている。

 奴隷なんて言葉に囚われずに自分らしくいればいいということは理解できるが、いざ奴隷を『所有する』立場になるとやっぱり色々と考え込んでしまうのだとわかった。

 それならシルクの言うとおりに、奴隷という言葉を気にせずに部下の一人を持ったと考えることにした。

 

「――ありがとうお陰で心の整理ができたよ」

「こんなことでしたらいつでもご相談に乗りますわ。ところでそろそろ交代になりますが、どうされますか?」

「交代……? そっか。次はアンネだっけか」

 眷属の女性陣は一月ごとに交代で護衛につくと決めているようで、そろそろシルクも交代の時期に来ている。

 ただ厳密に言うとまだ一か月は経っていないのだが、合同探索するとなるとギリギリ過ぎてしまいそうなタイミングだ。

「――俺としては別にどっちでもいいけれど……いや。シルクはもう顔見せが終わっているから、まずはそっちのほうがいいかな」

「了解しましたわ。では、皆にはそのように伝えておきます」

 そう言いながらウキウキした様子に見えるのは、決して気のせいではないだろう。

 探索が伸びたとしても精々数日とかになるはずなので、そこまで喜ぶような事でもないと思うのだが。

 

 勿論そんなことを口にすれば冷たい視線が飛んでくるのはわかり切っているので口にはださない。

 ついでにいえば、間違いなく伸びた分は次回にしわ寄せが行くはずなのだが、それも言葉には出さない。

 折角ご機嫌になっているのに、わざわざその気分を落すようなことをしてはいけないのである!

 ……と誰に言うでもなく力説してしまったが、とにかくご機嫌なシルクを眺めつつ床に寝そべっているルフの背を軽く撫でた。

 

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 久しぶりに広場にある温泉施設へと顔を出してみた。

「――ふーん。奴隷をね。好きなようにすればいいんじゃないか?」

 俺が奴隷を購入したことを報告して真っ先にそう言ってくれたのは、『龍な人』のラッシュさんだった。

「そう言ってくれるとありがたいんですが、他の人はどう反応するか少し怖い気もするんですよね」

「そこは気にしても仕方ないのでは? そもそも人外で領地運営とかダンジョン運営をやっていると、不可抗力でも人族を手に入れるなんて多くあるし」

『霊体な人』のハーズさんの言葉に、はたと気付いた。

「……あれ? もしかしなくても人外の皆は、普通に奴隷を扱っていたりするんですか?」


 今いる温泉は、人族と人外が同時に入れるようになっている共有温泉だ。

 余談だが、現在の温泉施設は人族用、人外用、共用とそれぞれに男女別になって全部で六ケ所に分かれていたりする。

 当初の予定と違って、今では共用が人気だったりする。

 基本的にどちらも入るというプレイヤーが多いのだが、人族プレイヤーにとっては人外プレイヤーとそこそこの時間直接やり取りができるこの場所は貴重だったりする。

 

「むしろキラのように奴隷を一人も使わずにいるほうが珍しいんじゃないか? 基本的に俺たちみたいなのは、認知されたと同時に敵認定されるからな」

「そうそう。そして何かあるたびに真っ先に送られてくるのが、探索用なのか鉄砲玉なのかはわからないけれど、奴隷の元冒険者とかだし」

「領域系も同じだよ。群れで行動しているだけで冒険者が来るのは勿論、領土とか持ったら確実に来るからどうしても防衛せざるを得ないし。キラさんはスタートが北海道だったから良かったんじゃないかな?」

 ラッシュさん、ハーズさんに続いて領域系プレイヤー(爵位持ち)を代弁したのは『犬の人』のシロさんだ。

 ちなみにシロさんは本来は犬の姿なのだが、風呂に入るためだけに人化できるように訓練したという猛者(?)である。

「なるほど。プレイヤーはあまり奴隷を使っているイメージじゃなかったんだけれど、普通につかっているんだ」

「だな。人外は特に多いだろ。嫌でも関わることになる確率が高いしな。――まあ、結論とすればあまり気にする必要はないと思うぞ」

「そういうこと。ただキラさんが、ちゃんとユグホウラの代表として表に立って、世界中で奴隷制度の廃止を訴えるなら、それはそれで面白そうな気もするけれど」

 何故か期待するような視線を向けてきたラッシュさんに、俺は「その気はない」と片手をひらひら振った。

 

 今後はどうなるかは分からないが、少なくとも今は一冒険者として活動していきたい。

 そうでなければ、わざわざ一周目を終わらせた意味がない。

『ごく普通の冒険者』と言われると既に微妙な域に突っ込んでいる気もするが、少なくとも世界中の大陸に影響力を持っているとは思われていない……はずだ。

 いずれにしても既に奴隷を抱えているというプレイヤーの話を聞くことができて、何となくざわついていた心の内を落ち着けることができたのは良かった。




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m(__)m

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