(3)お誘い

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「――ところで、カールはトムの扱いを確認するために来たのかな?」

「それもある。ないとは思ったが、あまりにひどい扱いにならないか探りに来たというのもあるからな。だが本題は別だ」

「本題ね……どういう内容かな?」

「そこまで警戒されるような内容じゃない。トムのためにも一度ダンジョンに合同で潜らないかと思ってな」

「合同探索か……。トムのためというのは?」

「そういえば、お前たちはトムと一回しか潜っていないんだっけな。――合同探索だとサポーターにも色々と教えることが出来るし、今思いついたがお前たちにも役に立てると思うぞ」

「具体的には?」

「サポーターの上手い使い方とか、サポーターへの指示の出し方とか。上げればきりがないな」


 カールは既に、自分が孤児出身であることを話してくれている。

 ということは、トムと同じようにサポーターを経てから冒険者になっているはずで、その経験もトム以上にあるのだろう。

 とはいえあくまでも憶測でしかないので、俺は視線をトムに向けて聞いてみた。

 

「ということらしいけれど、どうなのかな?」

「は、はい! えーと。カール兄は、俺たちの代表みたいな立場だから色々と教わることは沢山あると思う……います」

「なるほどね」

「あとは、お前たちがサポーターをちゃんと使えるかの確認もあるかな。必要のないパーティは、とことん必要としないからなあ……」

「そうなんだ」

「ああ。その場合は貸し出すなりするようにすればいいさ。トムであれば、喜んで借りるパーティは多いはずだ。まあ、オトやクファの話を聞く限りでは大丈夫そうだが」

「むしろ大丈夫じゃない場合があるほうが不思議なんだけれどね」

「あー。わかりやすいところでいえば、リーダーのワンマンタイプのパーティとかだな。あの手のパーティは、リーダーが少しでもイラついたりするとすぐに崩壊するからな」

「自分の思い通りに作業しないと、無駄に手を出したりする……か」

「それが余計にサポーターの手を遅くしたりするんだが、それにすら気付かなかったりするからな」


 よくよく聞いてみれば、なるほどと納得できる話だ。

 ただ将来的にサポーターが当たり前にいるような状況になれば、そんなパーティも減るかも知れない。

 もっとも今のところサポーターの有用性に気付いているパーティはそこまでではないので、一気に広まるということもないはずだが。

 そもそもサポーターをやっているのが将来冒険者を目指す子供たちなので、そこまで数が多くないというのも問題なのだろう。

 

「――サポーターの数が増えないとどうしようもないか」

「なんだ。今より増やすつもりなのか?」

「増やすというか、使えると理解されていけば自然と増えていくと思うよ」

「そうかあ? ずっとサポーターを続けようなんて奴が増えるとは思えないんだがな」

「それは単に、実入りが少ないからじゃないかな? そこそこ食っていけると分かれば、続けて行こうと考える人がいてもおかしくはないよ」

「冒険者は引退しても、サポーターとしてなら続けられると考える元冒険者がいてもおかしくはないわね」

「……そうか。引退したあとのことを考えればあり得るか」


 アンネリが付け加えると、カールは真剣な表情になって考え始めた。

 今のところサポーターは貧しい子供たちの収入源として機能しているためかなり安く雇われているので、わざわざサポーターになろうと考える者は少ないだろう。

 ただサポーターの有用性が理解されて収入が安定するようになれば、職業として目指す者が出てきてもおかしくはない。

 もっともサポーターが「銭あさり」とか「ただの荷物持ち」と揶揄されているうちは、地位向上なんて夢のまた夢だろう。

 

「とりあえずサポーターの将来はゆっくり考えればいいか。それよりもアンネリ。合同探索についてはどう?」

「別にいいんじゃない? 色々とためになることも多そうだし」

「だよね。というわけだからカールさん。よろしくお願いします?」

「何故そこで疑問形になるんだよ。トムの指導ついでにオトとクファの二人も連れて行きたいんだが、いいか?」

「それは勿論」

「それじゃあ、細かいことは皆で集まってから決めるとするか」


 とりあえず合同探索することだけを決めておいて、日程などの細かいことは後日集まって決めることになった。

 今の時点でカールのパーティが一緒に行くことは決めているが、できればもう一パーティも加えて探索したいそうだ。

 そのもう一パーティも元サポーターをやっていた仲間たちだそうで、前々から合同で探索ができないかを話していたらしい。

 折角の機会なので、経験がほとんどないと言っていい俺たちと一緒に潜って、どういう反応をするのか確認したいとのことだった。

 

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 カールがいなくなったあとは、トムに俺たちのことを教えることになった。

 何も知らないままでいてもらってもいいとも考えたのだが、それよりはある程度のことは知らせておいたほうが良いと事前に話し合っておいたのだ。

 

「トム。こちらに来て座りなさい」

「は、はい!」

「フフフ。そんなに緊張していては、これから先もたないわよ。特にダンジョンに潜っているときなんかわね」

「今は奴隷になったばかりだし、仕方ないんじゃない? ダンジョンに潜るまでに慣れてもらうしかないよ」

「それもそうね。トムはこれから色々と覚えてもらうことがあると思うけれど、とりあえず今のうちから知っておいてほしいことがあるのよ」


 そう前置きをしたアンネリは、自分自身のことについて話し始めた。

 一言でいえば辺境伯の実の娘であることを明かしたわけだが、ある程度予想はしていたのかトムはただ黙って聞くだけだった。

 ただそのトムが驚いたのは、アンネリが母親の名前を明かした時だ。

 

「――私の母はね。ヘディンここで冒険者をやっていたらしいわ。父が修行と称してダンジョンに潜っていた時にであったみたいね」

「へー。そこまでは知らなかったな。なんというか……血は争えないってところか」

「どういう意味かしら? ……って、トム、どうしたの?」

 俺にジト目を向けてきたアンネリだったが、すぐにトムの様子がおかしいことに気が付いた。

「あ、あの。アンネリ様のお母さまのお名前は……」

「ああ。ヒルダというのよ。ヒルダ・アルムクヴィストね。もっとも元は孤児だったらしいから、家名がつく前はヒルダだけだったみたいだけれど」

 アンネリがごく普通に母親の名前を言うと、何故かトムが口をパクパクとさせて指を指してきた。

「も、もしかして激流の……っ!?」

「トム。気持ちはわかりますが、それは駄目です。いかに驚いても、人に向けて指を指すなどもってのほかです」


 すかさずヘリから教育的指導が入って、トムは慌てた様子で腕を下ろしていた。

 それでも驚きは残っているようで、アンネリを尊敬のまなざしで見ていた。

 

「確かにお母様は『激流』で呼ばれていた冒険者だけれど……ああ、そうか。元孤児ということも知っているのね」

「は、はい! 俺たちの間では伝説みたいな存在になっています!」

「あらまあ。お母様が聞いたら……昔のことよとかいって笑いそうね。とにかくその冒険者で間違いないわ」

「なんというか……アンネリが冒険者をやっているのは、必然だという気がしてきたね」

「そうでしょう? お父様は無駄に諦めが悪いと思うのよ。私は」

 

 辺境伯がいればどんな反応をしたのか見てみたかったが残念ながらこの場にいるはずもなく、確認することはできなかった。

 アンネリの両親の馴れ初めまで聞いていなかった俺としても中々面白い話だったが、トムにとってはそれだけではすまなかったらしい。

 未だに驚いた様子で、惚けたままになっている。

 さすがにそろそろ戻ってこないとまたヘリからの教育的指導が……ああ、ほら注意された。

 とにかく早いところ今の環境に慣れてもらうためにも、今は多少強引にでも驚きに慣れてもらうしかない。




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(余談)

美人なアンネリのお母さまで貴族に見初められるくらいなので、ヒルダも当然のように美人です。



是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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