(9)具体的な方法

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 アンネリが通信具を使ってやり取りをしているらしい「辺境伯からの名前を使っていいか」という問いの返答は「好きにしてくれていい」というものだった。

 勿論、名前を出すのは俺ではなく実の娘であるアンネリだ。

 とはいえいくらアンネリが名前を出したとしても、本気で信じてくれるかは分からない。

 むしろ確認を取るために時間がかかるのは当然だろう。

 そんなことをしている間に、トムがよろしくない冒険者に引き取られてしまう可能性が高い。

 それならば、辺境伯が背後にいることが分かるようにした方が理解されるのも早いだろう。

 今回の件に関しては、アンネリが貴族の子女であることを明かさなくても片を付ける手段がある。

 その手段があるのなら、わざわざ今後自由に動けなくなるようなことをする必要もない。

 

 というわけで今回の作戦としては、辺境伯が信用できる奴隷商人を通してヘディンの町にいる奴隷商人に繋ぎを取ってもらうちうことにした。

 俺たちが直接トムを扱っている奴隷商人と取引してもいいのだが、やはり餅は餅屋ということで本職の人間を使って交渉をした方がいいと判断したのだ。

 もし辺境伯から紹介される奴隷商人がそのままトムを扱っている奴隷商人であればそのまま交渉すればいいし、そうでなかったとしたら作戦通りに奴隷商人同士のやり取りにしてしまえばいい。

 結論からいえば、辺境伯と繋がりのある奴隷商人から紹介された奴隷商人は今現在トムがいる奴隷商人とは別の人間だった。

 

 紹介された奴隷商人の名はガイオといって、ヘディンの町だけではなく王国内にいる奴隷商人の間ではそれなりに名が知れているようだ。

 商売の内容と当人の厳つい容姿からは想像もできないが、王国内で知られるくらいには信用されているということなのだろう。

 いずれにしてもそのガイオに話をして介入してもらわなければならないということで、今俺たちはその厳つい顔つきをしたガイオを前に話をしに来ていた。

 すぐにガイオに直接会うことができたのは、辺境伯から紹介された奴隷商人の紹介状を持っていたからである。

 

「――ようこそ来てくださいましたな。なんでも奴隷の商いについての話があると書状に書かれておりましたが?」

「その通りです。今はまだ奴隷落ちしていませんが、審査ではまず間違いなく落ちると言われている少年についての取引です」

 基本的に、ガイオと話をするのはアンネリと決めている。

「ふむ。恐らく冒険者ギルド預かりになっているトムという名の少年で間違いないかな?」

「さすがですね。恐らくそれで間違いないでしょう。トムという名の者が二人でなければ」

「それならば間違いないでしょうね。――それで、皆様方は私にどうしてほしいのですかな?」

「あなたにとってはそこまで難しい話ではないと思います。あの少年を私どもの奴隷となるように手配していただきたいのですわ」

「さて。あの少年に関しては、既にどこで扱うか決まっておるようでしてな。そうそう簡単には手を出せないのですがね」

「そうですか? 少なくとも商人同士であれば話を付けられることもあるでしょう。いっそのこと競売なんかにしてもらっても構いませんよ?」


 アンネリは、やり方はいくらでもあるだろうと含ませて言いながらもう一つの書状を持ってきた鞄の中から取り出した。

 それはガイオと繋ぎを取る時に使ったものとは違って、はっきりと辺境伯の名前が記されているものになる。

 簡単にいってしまえ辺境伯が「よしなに」と言っている内容のもので、アンネリの後ろに辺境伯がいることを明示しているものになる。

 最初に渡した紹介状はそこまで書かれていなかったので、書状の中身を見たガイオは驚く顔になっていた。

 

「……辺境伯様の威を使って横取りをしろと?」

「フフフ。さすがにそんな無茶なことは言いませんわ。きちんと適正な方法を用いて、トムをわたくしどもの奴隷にしたいだけです。勿論かかった金額はしっかりとお支払いいたします」

「奴隷落ちする前の審査中であれば、他の商人が手を入れることもできると聞いていたのですが?」

 アンネリに続いて俺がそう付け加えると、ガイオは諦めたようにため息をついた。

「仕方ありませんな。辺境伯の名まで出されている以上、動かないわけにもいきません」

「それはありがとうございます。――それにしても、相手の裏にいるらしい貴族はそこまで大物なのでしょうか?」

「……ふむ。そこまでご存知でしたか。いや。かの冒険者の裏にいるのは辺境伯殿までのご身分ではないのですが、後々面倒なことになりそうなのでね」

「そういうことですか。それでしたらそのことも併せてに話をしておきます」


 最後に自分自身が辺境伯の実の娘であることを明かしたアンネリに、ガイオは今までで一番の驚きの表情を見せていた。

 アンネリが貴族家と何らかの関係を持っていることは察していても、まさか実の娘だまでは想像していなかったのだろう。

 言葉の裏にそのことは隠しておくようにという意味合いも含ませていることは、ガイアもしっかりと察しているはずだ。

 勿論ガイアの頭の中では、アンネリの立場を秘密にした上で商人として繋がりを保っておきたいという利の部分についてもしっかりと考えているだろう。

 今後俺たちが奴隷商人を使うことになるかは分からないが、それくらいの繋がりは合ってもいいだろうと事前の話し合いで決めていた。

 

「――そうですか。……交渉の際に辺境伯様の名前を出すのは構いませんかな?」

「それは勿論。ですが、わたくしのことまでは出さないようにお願いいたします」

「それは当然でしょう。ですが私が直接言わなくとも、察する者は出てくると思いますが……」

「その時はその時で構いません。そもそも知人の間には、わたくしが冒険者をしていることは知られておりますので」

「なるほど。余計な心配でしたな」

「いいえ。あなたの懸念については当然のことと思います」


 そんな会話をしながらその後は具体的な方策について話し合いを始めた。

 ただ話し合いといってもかかる金額については上限はそこまで気にしなくてもいいと言ったので、そこまで長くかかったわけではない。

 ガイオの話でも相場の金額から考えて、どこまで上がったとしても三倍程度には抑えられるだろうと言っていたので、とりあえずその十倍まで払えることは言っておいた。

 その際にガイオが呆れたように「どこぞの滅びた王家の娘でも買うつもりか」と呆れられてしまったが。

 とにかくお金の心配はしなくていいと分かったガイオは、冒険者ギルドがよほどの腐敗をしていない限りは失敗しないだろうと約束してくれた。

 

 そして会話の最後にガイオがふと何かを思いついたような顔になって、こう聞いてきた。

「――後学のために教えていただきたいのですが、あなた方がこの件をお知りになってから数日しか経っていないはずです。これらの書面はどのように用意したのでしょう?」

 ガイオが俺たちの状況をしっかりと調べていることについては、驚くこともなくなっている。

 それからガイオが疑問に思っている手紙のやり取りについては、実は狼種の魔物が大いに役立っていた。

 具体的には、辺境伯が住むモルテの町からここまでを駆けてもらったのだ。

 狼種の魔物であれば、山中を走って来れば人族に気付かれることなく数日でここまで来ることなど簡単に出来る。

 勿論そんなことは言えるはずもなく、その場は適当に言って誤魔化しておいた。

 ついでに書面の輸送方法についてはアンネリにも具体的に教えてはいないのだが、彼女は既にシルクたちが魔物であることを知っているので何となく察してはいるようである。




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