(8)一時の夢

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 カールとの話し合いを終えた俺たちは、拠点に戻ってからすぐにトムについてどうするかを話し始め――ようとした。

 ただアンネリの身バレについてはあの場での軽い冗談だったのですぐに流されていたのだが、当の本人が未だに引きずっているようだった。

 勿論引きずっているといってもさすがに貴族の子女ということで、カールたちにはそんな気配は微塵も感じさせずに対応していたが。

 俺の場合はそろそろ顔を合わせている時間も長くなってきているので、何となくいつもと雰囲気が違っていると感じていた。

 そうした事情から話を詰める前に一応フォローをしておいたのだが、アンネリから漏れた本音は予想外のことだった。

 どうやらアンネリは貴族の子女であることがばれていることを気にしていたわけではなく、どこの家の者であるかまでばれていると考えていたようだ。

 さすがにこれには驚いて、さすがにそれはないと断言しておいた。

 アンネリのことを調べている相手が貴族でしかも本気で動いているならばれる可能性もあるが、冒険者たちはそこまで詳しく調べる必要はない。

 彼らにとってみれば爵位など関係なく等しく「御貴族様」なので、家の問題に巻き込まれたりしない限りはわざわざ詳しく知ろうとすることもない。

 そんな感じでアンネリに説明をすると、ようやく彼女もホッとした様子で納得してくれていた。

 

 アンネリを落ち着かせたところで本題であるトムに関しての話を詰めることになったが、こちらに関しては割と簡単に扱いが決まることになった。

「私はともかく、キラは奴隷をあまり好んでいないようだったからこちらで引き取ると決めたのは驚いたわ」

「あー、確かに奴隷は好きじゃないけれどね。ただ顔見知りが奴隷落ちしたのに、他と同じように放置することはできないかな」

「そういうこと。あなたらしいといえばあなたらしいわね」

 奴隷制度に関しては色々と思うところはあるが、この地域・世界の政治に大々的に首を突っ込んで制度そのものをなくそうとは考えていない。

 もしこれが元の世界日本であれば「卑怯者」とか色々と言ってきそうだが、同じサーバーにいるプレイヤーは大体がそんな感じだ。

 扱っているものが「奴隷」である以上は色々な問題もあるのだが、それはそれぞれで対応するべきだと考えている。

 

 ちなみにこちらの奴隷は、魔法的な何かで肉体的や精神的に縛ったりするようなことはない。

 もしかするとどこかにそうした道具などがあるかも知れないが、少なくとも俺自身は見たことはない。

 一周目の時はそうした魔道具を開発することは禁止していたので、ユグホウラではそうした道具は扱っていない。

 一応せっかくの機会なのでアンネリにも聞いてみたが、彼女もそうした道具や魔法の存在は知らないということだった。

 

「――ところで、どっちがお金を出すの?」

「俺が出すよ。いくらなんでも辺境伯家に出してもらうのは違うよね? それに辺境伯家に出してもらったそもそもの前提が崩れるからね」

「それもそうね」

 

 カールたちは何も、トムが貴族家に買われてほしくはないとまでは言っていなかった。

 それでも今回トムをはめた冒険者たちの裏にいるなにがしかの貴族家のことを念頭に動いていることは間違いない。

 それに加えて、辺境伯家から資金を出してもらうとなるとトムの所属は辺境伯家ということになり、俺にとっても精神的にあまりよろしくない状況になる。

 それなら自分でお金を出して自分で管理できるようにした方がいいだろう。

 もっとも俺が金を出すといっても元はユグホウラのものなのだが、眷属たちから反対されることはない――というよりも反対するならこの場でラックなりシルクが反対しているはずだ。

 

「となると後の問題は辺境伯家だけれど……それは任せていいかな?」

「勿論。いざという時に名前を出せるようにしておくくらいで十分でしょう?」

「そうだね。状況が落ち着いたらお礼の品を送るということも知らせておいて」

「それはいいけれど……何を送ろうとしているのか、少し怖い気もするわね」


 なにやら疑わしそうな視線を向けて来るアンネリに、おれは「それは秘密」と返してニコリと笑っておいた。

 それを見て、アンネリは益々その表情を深めたのだが、それ以上は話してもらえないだろうと諦めたのか、やがてため息を吐いていた。

 

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< Side:とある冒険者 >


 ようやくここまで来た。

 俺たちがこの町に来てすでに三年が経っている。

 来たばかりのころは、サポーターなど俺たちの足元をウロチョロしているだけの邪魔な存在だと考えていた。

 だからこそ近づかないように、時に力を使って排除していたのだ。

 それが間違いだったと気付いたのは、俺よりも遅れて町にきた有象無象共がガキどもを使って俺よりも稼ぎ始めたからだ。

 ダンジョンを探索するうえで重要な問題の一つに、探索を進めるほどにかさばっていく荷物をどうするかということがある。

 たとえガキであってもある程度の荷物は持たせることができるので、戦う仲間以外に荷物を持たせられるサポーターという存在は重要だということだ。

 

 そのことに気付いてサポーターの一人でも取り込もうと動いたが、その時には既に遅かった。

 俺や俺の仲間がサポーターに対して行っていたことは、既にサポーターの間に広まっていてろくに近づくことすらできなくなっていたのだ。

 こちらとしてはただの躾くらいで何だと言いたいところだが、奴らに言っても聞きはしなかった。

 気付いた時には、俺たちが行く場所には一人もガキどもはいないという状況になっていた。

 

 そんな状況がしばらく続いた後、ある冒険者から面白い情報が手に入った。

 なんでもあるサポーターのガキが優秀で、ダンジョンに潜るのが非常に楽になると。

 実際、そのガキを連れて潜った冒険者は、いつもよりも稼げているという実績を多く残していた。

 さらにそのガキは、仲間のサポーターを育てるのもうまいというおまけまでつく。

 

 その噂を聞いた時に、使えると思ったことはさすが俺だと思った。

 どうもこの町の冒険者の間では、サポーターを無理に独占したりしてはならないというルールのようなものがあるらしい。

 ただそんなものは俺にとっては全く関係のないことだ。

 むしろ何故ほかの冒険者がそんなくだらないルールを守っているのか、さっぱり分からない。

 

 そんな状況を利用して、俺は噂のガキを手に入れる算段をつけた。

 そのガキも中々隙を見せなかったのですぐに上手く行く状況にはなららなかったが、ついに以前から考えていた計画を使う機会がきた。

 見事にその計画は実り、例のガキはもうすぐ俺のものになるはずだ。

 今はまだくだらない審査期間だが、あのガキが奴隷になるのは間違いない。

 

 奴隷になったからといってすぐに俺のものになるわけではないが、金銭的に負けることはないだろう。

 何しろ俺たちには、御貴族様がついているからな!

 俺たちをただの駒と考えているようないけ好かない奴だが、利用しているのはお互い様だ。

 俺たちの裏に貴族が裏にいると分かれば、ガキを一時的に預けている奴隷商人も優先的に俺たちに話を持ってくるはずだ。

 

 奴隷に落ちそうになっているガキを助けようと幾人かの冒険者がこそこそと動き回っているようだが、それも無駄に終わる。

 貴族との繋がりを切ってまで冒険者を優先する奴隷商人などあり得ないからな。

 せいぜいガキの処分が決まるまであと数日、無駄にあがいて見せればいい。




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m(__)m

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