(6)急展開

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 今回のダンジョン遠征に掛けた日数は三泊四日で、ダンジョンの階層でいえば八層まで進むことができた。

 行こうと思えばもっと奥に行けたのだが、そもそもより深い層を目指していたわけではなくフィールドタイプの階層に慣れることを目的としていたので、むしろ八層まで行けたのは予想外だったと言うべきかもしれない。

 辿り着けた階層も含めて多くのことに問題は起きなかったのだが、唯一起こった問題といえば初日に起こったことと同じようにセーフティポイントでの休息が難しかったことだろうか。

 ある程度予想はしていて準備もしていたので実害があったわけではないのだが、それでもやはり色々なところで美人は損をすることもあるのだろう。

 もっともそれ以上に恩恵を受けることもあるので、『隣の芝生は青く見える』ということなのだろうが。

 セーフティポイントがまともに使えなかったのが自分たちのせいだということはアリシアたちもしっかりと自覚しているので、その件に関しては最後まで恐縮していた。

 とはいえ、こちらにもシルクがいたりするのでアンネリやヘリにだけ責任があるわけではない。

 そもそもセーフティポイントで休息することを選ばなかったのは、起こりそうな面倒を一々警戒するのも嫌だからという俺の考えが反映されたからでもある。

 

 今回は敢えて馬種のレオたちは連れて行かなかったが、今後は一緒に行くことも検討している。

 中層に行くまでの行程でわかったことなのだが、馬だけであればどこを通ってもすれ違うだけの道幅は存在していた。

 フィールド層になっている中層は言わずもがなだろう。

 それを考えると足が速くなる馬を使わない手はないということになった。

 

 ダンジョンを攻略している冒険者の中にはクランのような団体を作っている者たちもいて、馬車を使って下層まで攻略を目指している。

 一パーティだけで馬車を使って攻略するのは珍しいだろうが、荷物のことを考えて敢えて選択する冒険者もいるだろう。

 上層を攻略するだけならわざわざ道が狭くなる馬を使う必要もないのだが、中層で攻略を続けることを考えればいないよりはいた方がいい。

 ただし下層以降がどういう形式のダンジョンになっているのかは、いまだわかっていないことも多いので絶対馬が必要というわけではないのだが。

 

 馬の問題もあったが、それ以外にもなんやかんやと問題点が見つかり、次回以降の改善すべきところも色々と検討している。

 それを考えるといきなり目指すのではなく、今回は三泊四日でいけるところまでと決めて置いたのは良かったと思える。

 そんなこんなで予定通りに中層での活動を終えてダンジョン入口に戻ってきたのだが、ここでちょっとした問題が起こった。

 問題というよりも厄介ごとと言うべきか……今まで一度も話した覚えがないとある冒険者から少し焦った様子で話しかけられたのだ。

 

「一応確認するが、キラで間違いないか?」

 そう話しかけてきた男冒険者の傍には、何故かオトとクファがいた。

 二人がいる以上は隠しても意味がないし、何よりも隠す必要性も感じないので素直に頷いた。

「そうですが、何か?」

「――攻略後で疲れているだろうが、済まない。急ぎで話したいことがあるんだ。時間をくれないか?」

「それはここではできない話?」

「そうだ。……いや、知っている者は知っているが、あまり大っぴらには話したくはないな」

「そう。――どうする?」

「オトとクファを見る限り大事みたいだし、いいんじゃない? ただせめて荷物を置きに一度は拠点に戻りたいけれどね」


 アンネリの言葉に冒険者は「構わない」と頷いていた。

 俺たちがダンジョン戻りだということはわかっているだろうし、その荷物が重いということも理解できているのだろう。

 問題は話の内容だけれど、どうもこの場所では話せないというような雰囲気を出している。

 オトとクファがいることも関係しているようなので、いきなり突っぱねる必要も感じられない。

 

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 拠点に戻って荷物を置いてから指定された場所に向かうと、そこにはオトとクファはおらず女性の冒険者が一人いた。

「……オトとクファは?」

「ああ。あいつらがいるとどうしても話が感情的になりそうだったからな。別の仲間に見てもらっている」

「感情的……?」

「ああ。それは話せば意味が分かるからとりあえずは座らないか?」

「そう。わかったよ」

 ちなみに今いる場所は男冒険者であるカールの拠点で、オトとクファは別の部屋にいるらしい。

 

 各々が用意された椅子に腰かけたのを確認してからカールが肝心の話を切り出した。

「面倒な前置きは抜きにして話すが、トムが奴隷に落ちた。より正確にいえば、奴隷に落ちる前の審査をしている段階だが、落ちるのはほぼ確実だ」

「……は?」

「……それは……」

 唐突過ぎる展開に、俺もアンネリもすぐには反応できずに惚けてしまった。

「そうなる気持ちはよくわかる。あいつはサポーターの中でも上手くやっていた方だったからな。だが、ダンジョン内で嵌められてしまえば、いかにあいつでも逃がれられんということだろうな」

 ため息交じりに告げられた言葉に、何となくこの数日間の展開が予想できた。

「馬鹿なことをする冒険者についてしまいましたか。彼なら上手く逃れられたと思うのですが?」

「あいつ一人だけならそうだったんだろうがな……」

 カールはそう言いながら、オトとクファがいるはずの部屋に視線を向けた。

 

 その仕草だけで俺とアンネリは大体の事情を察した。

 オトとクファが自分たちだけで動いたとは思えないが、何らかの流れでサポーターをゴミ扱いするような冒険者に目をつけられたのだろう。

 その二人をかばうために、トムが自ら動いたのだろう。

 

 そんな推測を俺とアンネリで交互に話すと、カールが「まさしく」と頷いていた。

「あいつも上には恵まれていたからな。自らもそうあろうとしていたんだろうが……目をつけられた相手が悪すぎた」

「相手が……? その言い方だと単に仕事で失敗しただけではなさそうね?」

「あいつ一人ならどんな相手でもそれなりにうまく立ち回れるさ。それくらいの実力はある。だが最初から嵌めるつもりで動かれれば、いかにあいつでもどうしようもない」

「……オトとクファを連れようとした時点で計画的だったと?」

「事実はよくわからない。だが二人から話を聞く限りでは、そう思えてならない」

 聞けばオトとクファは無理に仕事相手を探そうとはせずに、トムから聞いた冒険者だけを相手に交渉をしていたようだ。

 だが、問題の冒険者がほぼ無理やりに近い形で二人を同行させようとしていたところに、トムが間に割って入ったとのことだった。

 その状況だけを見ればただの偶然とも取れなくもないが、その後のダンジョン内でのことを聞く限りでは限りなく黒に近いグレーといえる状態だそうだ。

 

「――それにしても奴隷になるのに猶予期間があるのですね」

 話を聞いている途中で俺が思わずそう聞いてしまったが、これにはカールが驚いた様子でアンネリを見ていた。

「ごめんなさいね。彼は余所から来ているので、時々こうして変なところで常識が無かったりするのよ」

「……そうか。あんたも中々苦労していそうだな」

 何やら不名誉なことを言われてしまったが、カールだけではなく同席している女性冒険者も同じような顔になっていたため文句を言うことはできなかった。

 ここで何か言ったとしても、無駄な抵抗になるということは後ろに控えているはずのシルクの雰囲気からも察せられた。




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※初レビューがつきました。

 ありがとうございます。



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m(__)m

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