(5)初の中層

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 オトとクファの教育(?)を終えた翌々日には、予定通り中層に向けての攻略を開始した。

 ヘディンダンジョンでは第五層までが上層と呼ばれていて、第六層から第十層までが中層、それ以降が下層とされている。

 第五層までの上層は迷宮型の壁と部屋で区切られたタイプのダンジョンだが、第六層からはいきなりフィールドタイプに変わる。

 ダンジョンは階層ごとにそれぞれ別の世界に繋がっているというのが一般的な認識なのでそこまで驚くようなことではないのかもしれないが、それまでしっかりと区切られた空間から広いフィールドに抜けるとやはり驚いてしまった。

 それまで少し暗めの通路や部屋を抜けていたのに、いきなり太陽(?)が燦々と照っているところに出るとそうなるのも無理はないと思う。

 ……のだが、少し惚けた様子で太陽を見ていると、アンネリが不思議そうな顔になっていた。

「階段とかじゃなく魔法陣を使って抜けてきたんだから、フィールドになっていてもおかしくないでしょうに。キラは、変なところで一般的な感覚を持っているのよね」

「いやー。知識としては知っていたけれど、やっぱり実際に体験すると驚くよ」

 そう言って誤魔化しておいたが、実際にダンジョンを正規ルートで抜けるのは初めてのことなので、嘘は言っていない。

 一周目の時には招かれたダンジョンマスターの権限を使って最下層まで通り抜けたりしていたが、それはただの御宅訪問でしかない。

 

 俺自身の感覚が一般的なものかどうかはともかく、驚きで惚けるのはそこそこにして予定通りに第六層の探索を開始した。

 第六層は完全にフィールド層となっていて、かなりの広さのフィールドにそれぞれ代表的な魔物が散らばっている。

 フィールドだけにいるのは魔物だけではなく薬草などの植物系の採取物もとれるので、ある程度の力を持った冒険者になると必ず目指す場所になる。

 第五層と第六層では稼げる額もけた違い……とまでは行かないまでも上手くやれば倍以上にはなるので、目指さないという選択肢はないのだろう。

 ただどの階層にも言えることだが、一つ階層を上げただけで攻略の難易度が上がるので単純に稼げる階層を目指して攻略を進めればいいというわけでもない。

 

 ――というわけで早速第六層の攻略を開始したわけだが、歩き始めて十分と経たずに早速洗礼を受けることとなった。

「ワフ!」

 ルフの探知に反応があったのか、敵の接近を知らせてくれたのですぐに戦闘態勢に入った。

 ルフが本気になればかなり広範囲の先まで探知できるのだが、今は手加減してくれているのだが。

 当然だがルフが教えてくれる前に、ラックやシルクも近づいて来る魔物には気付いているはずだ。

 そんなそぶりは全く見せていないが、彼らは俺たちの成長に合わせて警戒度なんかを変えてくれている。

 

 眷属たちがいる中でダンジョン攻略をするということは、絶対防御の魔道具を持った状態で探索しているようなものだが、そこはそれと割り切っている。

 そもそも実際に命がかかっている以上は、使えるものは使っていくというスタンスだ。

 眷属たちはむしろ俺を守ることに喜びを感じているようなので、後ろめたさなんかも全くない。

 ……というよりも成長を促すためにも、今は護衛に徹しているということだろう。

 

 裏を返せば俺の成長を信じて疑っていないといったところだが、少なくとも魔物を相手にする場合はほとんど命の危険を感じることなく倒すことが出来るようになっている。

 それは単に眷属たちに守られているからというだけではなく、実感を伴って自分自身の戦闘能力が上がっていると感じているのだ。

 それは俺だけではなく、一緒に行動しているアンネリやヘリも同じだろう。

 戦闘するたびに連携力も上がっているのだから、そう感じるのは当然かもしれない。

 

 とにかく確実に成長しているのを実感しながら、俺たちは第六層の攻略を進めて行った。

 フィールドタイプのダンジョンでは俺が作れる回復薬類なんかの材料も採取できるので、俺たちにとっては相性がいい階層となる。

 出て来る魔物に対する探知も各部屋で区切られているよりは、自然に開けた場所の方が向いている。

 それもこれもルフがいてくれるからこそのことなので、その恩恵を感じつつも事前に調べておいた目標の素材採取を進めて行く。

 

 そしてこの日はそろそろ終わりにしようかという雰囲気になったところで、アンネリがこう提案してきた。

「終わるんだったらセーフティポイント探す?」

「確かにね。これ以上だらだら続けていても事故りそうか……よし、探そう」

 ゲームじゃないのにダンジョンの中にセーフティ(安全)ポイントがあるのかと首を傾げたくなるが、どのダンジョンにいってもセーフティポイントは存在している。

 

 実際のところセーフティポイントはダンジョンが敢えて作っているものではなく、魔物が生活域縄張りを守るためにできているスポットではないかと言われている。

 だとすると迷宮タイプのダンジョンにもセーフティポイントが存在しているのは何故か、という議論にもつながるのだが、そこは学者ではないので考えても仕方ないと割り切る。

 ちなみにプレイヤーのダンジョンマスターの場合は、敢えて冒険者の休憩ポイントを作って招きやすい環境を用意しているらしい。

 人族を相手にする場合、必ずどこかで休息は必要になるわけで、ダンジョンの奥まで攻略させるためにわざとそういう場を用意しているということだ。

 

 

 そしてアンネリの提案に乗るように第六層にあるいくつかのセーフティポイントのうちの一つについたわけだが、そこでちょっとした問題が発生した。

 偶然なのか必然なのかは初めて来たので分からないが、必要以上にその場所が他の冒険者でいっぱいになっていたのだ。

 ダンジョン攻略を進めていればままあることなのでそのこと自体は別に不思議でもなんでもないのだが、俺たちにとってはある深刻な問題が起こることになる。

 具体的にいえば、俺とルフを除いた他のメンバーの美形な顔立ちにより、余計な視線を集めてしまうということだ。

 

「……どうする? 俺は別の場所に移動してもいいと思うけれど?」

「ごめんなさい。そうしてもらえるかしら?」

 アンネリもヘリもこうした視線にさらされていること自体は慣れているとはいえ、さすがにその状態のまま休憩する気にはなれなかったようだ。

 しかも代替え案が用意してあると分かっているからこそ、敢えて面倒なことになると分かっている方針は選ばなかった。

 

 ……のだが、ここで余計な口を挟んでくる冒険者がいるのは、テンプレの一つと言えるのだろうか。

「おいおい。今から別のポイントに行っても陽が沈むだけだぜ。危ないからやめておきな」

 その言葉を聞いているだけだとこちらの安全を注意してくれているのだが、その顔と視線の先をたどれば何を考えているのか丸わかりだ。

 もっとも実力的には簡単にあしらえる相手だとすぐに分かったのだが、敢えて面倒ごとに踏み込むつもりもない。

「ご忠告ありがとうございます。ですが他のポイントを探す以外にも手段を用意してあるので、そちらの方法で一夜を明かすことにします」

 敢えて俺がそう言うと、その男性冒険者は不快感を隠そうともせず舌打ちをしながら自分のパーティがいるらしい場所へと歩いて行った。

 ここで無理を通そうとしなかったのは、ここぞとばかりに他の冒険者が介入してくるのが分かっているからだろう。

 少なくともこちらのほうが圧倒できるだけの実力があると見抜いたからではなさそうだった。

 

 とにかくセーフティポイントで休息をとることをあきらめた俺たちは、テントを張れそうな開けた場所を探してしばらく歩くことにした。

 その間も折角見つけた素材なんかを採取しつつ、最終的に落ち着けそうな場所を見つけたのはセーフティポイントを離れてから三十分後のことだった。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る