(4)サポーターと冒険者の関係

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 オトとクファに対する初指導を終えてから数時間後には、二人の手付きもおぼつかなかった当初と比べてかなりよくなっていった。

 その様子を見て、トムが感心した様子で言っていた。

「ちゃんと確認しながら作業する時間をくれているお陰か、随分と慣れるのが早いな」

「確かに早いと思うけれど、そこまでゆっくり時間を上げているつもりはないけれどね」

「いや。普通は次の獲物を狙ってさっさと移動するからな。俺たちサポーター用に獲物を残さずに自分たちでさっさと片付ける冒険者もいるから、こうやって時間を貰えるのはとても貴重だと思う」

「そうなんだね。次のことを考えたら最初はしっかりと時間をかけて教えるようにした方がいいと思うんだけれどねえ……」

 俺がそう言うと、トムは苦笑しながら返してきた。

「それは兄ちゃんに余裕があるから言えることだ。数をこなさなきゃいけない冒険者にとっては、俺たちの成長なんて待っていられないからな」

「それは分かるけれど、それなら最初から指導目的のサポートなんか入れなければいいと思うけれどね」

「確かにそうなんだけれどな。……まあ、ランクの低い冒険者が今の俺たちみたいなパターンを入れる理由なんて一つしかないだろう?」

「ああー、そっか。安いから使っているみたいな感じか」

「そういうこと」

 納得した様子で答えると、トムがその通りと言わんばかりに頷いていた。

 

 指導組のサポーターを雇うのは、何よりも安いからという理由から選ばれることが多いらしい。

 サポーターもある程度技術が身について来れば、それなりの値段で雇われることになる。

 低ランクの冒険者は、その「それなりの値段」を払うことすらできない場合が多いので、必然的に安い値段のサポーターに飛びつくことになるのだろう。

 もっともそこまでするのであれば、サポーターは雇わずに自分たちだけで処理をすればいいのではないかと思わなくもないが。

 

 ちなみにあまり稼げない低ランク冒険者を狙ってサポーターがつくことはあまり無い……と言いたいところだが、実際にはそこそこあり得るらしい。

 そもそも今の俺たちのように、それなりに稼げる冒険者がこうやってサポーターの指導役を雇うのは、完全に趣味の範囲内になるからだ。

 冒険者にとって「それなりに稼げる」というのは、中層かそれに近い階層くらいに行ける実力があることを意味しているので、そもそも駆け出しのサポーターを雇う意味がほとんどない。

 そうした冒険者が駆け出しサポーターを雇うということは、以前の俺たちのように別の目的(もしくは依頼)で行動しているか、新しいサポーターを探すための準備ということになる。


「――要するに青田買いってことか」

「青田買い……?」

 言葉の意味が通じなかったのかトムが首を傾げたが、見ると話を聞いていたアンネリやヘリも同じような顔になっていた。

「簡単にいえば、将来自分のところで雇うために唾をつけておくってことかな」

「お、おう……言っている意味は分かったが、ちょっと直球過ぎないか、兄ちゃん」

「キラ、私もそう思うわ」

「まあねえ。でも実際間違ってはいないよね? ちなみに言っておくけれど、少なくとも今は批判する目的では言っていないからね」

「……そうなのか?」

「そうだよ? だって頑張って成長できれば将来雇ってくれる可能性があるって分かっていれば、当人たちも頑張る目的になるよね? ……分かった途端さぼる奴もいるけれど」


 俺が最後に付け加えた言葉に、トムは「あー」と遠くを見るような視線になっていた。

 過去にそうした事例があったことを見てきたのだろう。

 もっともサポーターにしても冒険者にしても、魔物を相手にするという実力がものをいう世界なので少しでも手を抜けば、それ相応の報いを受けることになる。

 命を懸けて戦いを行っている冒険者の場合は、その報いが最悪の場合になったときに何が起こるかは明白だ。

 

 そういうことがあるために、サポーターという異分子を入れたくないと判断する冒険者も多いだろう。

 それを否定するつもりは全くないが、上手くサポーターを育てることができればダンジョン攻略の助けになることはこれまでの経験で十分に理解している。

 さすがに半年や一年も成長を待っていられないが、数か月程度の訓練で「使える」ようになるのであれば積極的に雇うことを考えてもいいとさえ思えている。

 ただし俺たちの場合、他の一般的な冒険者と違って特殊な事情があるため即サポーターを採用するとはいかないのだが。

 

「ところで話を聞いていると兄ちゃんたちもサポーターに興味が出てきているみたいだけれど、二人を雇うつもりはあるのかい?」

「あら。そこは俺が、とはならないんだ」

「あー。俺は今までの活動で一応当てがあるから。押すなら二人だろう?」

「そんなところまでしっかりしているのね。ただ、そうねえ。私たちにも事情があるからすぐに雇うとは言えないわね」

「事情……? そんな変なものを抱えているようには見えないんだけれど……まあ、冒険者なんてやっているんだから色々あるか」

「そういうことね。トムも変に他の冒険者のことを探るような真似をしない方がいいわよ?」

「わかっているよ。姉ちゃんの場合は、そっちから話を切りだしただろう?」

「それもそうね」

 ちゃんと相手を見て話しをしていると言わんばかりのトムに、アンネリも苦笑を返していた。

 

「それに次もすぐにと言いたいところだが、それも難しいしねぇ」

「あら。出来ればまたと思っていたんだが、それも駄目か?」

「君に声をかけられる前は、明日か明後日から中層に向けて遠征つもりだったんだよ」

「あー、それは。……確かにこいつらを連れて行くのは難しいな」

「だよね? というわけで、残念ながら次もというわけにはいかないんだよね」

「そっか。それじゃあ、こいつらの次を見つけておかないとな。……見つかればいいんだが」

「やっぱり見つけるのは難しいんだ」

「兄ちゃんたちみたいなパーティを知ってしまうとなあ……。いや『普通』の冒険者を知るためにも必要なことか」


 どうやらトムは次も俺たちのサポートを期待していたようだが、それが駄目だとするとすぐに次について考え始めていた。

 こうした切り替えの早さがなければ、補助職サポーターなんていう職を仕事として続けていくのは難しいのだろう。

 それこそサポーターを大事にしてくれるパーティを見つけて、そこで安定して続けられればいいのだがそうそう簡単にはいかない。

 そもそもサポーターをしている側も「成人したら冒険者に」と考えている者がほとんどだけに、ずっとサポーターとして雇用し続けるのは難しい。

 そうしたことからサポーターを正式に雇うパーティは少なく、ほとんどがその場限りの契約で終わるということだ。

 

 俺たちがそんな話をしている間にも、オトとクファは順調に手を進めていてしっかりと魔石や必要部位の回収を行っていた。

 既に今いる階層に出て来る魔物であれば、トムの助言は必要がないくらいにまで成長している。

 まさに習うより慣れよを地でいく教育方針だが、実際に変に座学で教えるよりもこちらのほうが早く覚えられていることがわかる。

 オトとクファもそのことが分かっているのか、できる限り今のうちに覚えられることを覚えて行こうという気迫がみなぎっている。

 

 

 そんなこんなで、さらに一時間ほど続けてからこの日の指導は終わることとなった。

 トムとしても予想以上に二人の成長が早く終わったことを喜んでいたので、こちらとしても依頼(仮)を受けた甲斐があったといえた。

 ちなみにこの日の彼らの収入は、一日分の食事を賄えるくらいの金額だった。




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m(__)m

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