(3)サポーターの指導

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 ダンジョン内における補助職サポーターの主な役割は、メインメンバーが倒した魔物から得られる金になりそうなものを回収することだ。

 これによりメインメンバーは余計な仕事が減って、周囲の警戒や戦闘といったダンジョンにおける重要な役目に集中することができる。

 ダンジョン内を攻略するパーティメンバーの数は五人から六人が推奨されているが、サポーターはその数に含まれていないことも重要だろう。

 そもそもダンジョン攻略で推奨人数が設定されているのは、戦闘時における立ち回りがちょうどいいからでありそれ以外の場面ではあまり関係ないともいえる。

 大きなクランなどが大規模攻略をする際には大人数でダンジョンに潜るが、その場合もやはり推奨人数単位で分けて潜ったり戦闘パーティ以外はサポートに回ったりしている。

 それらの理由からサポーターというのは、むしろダンジョン攻略においては重要な役目を負っているともいえる。

 とはいえやはり自分たちの稼ぎが減るからという理由や、そもそもサポーターのことを蔑んでいるなどの理由で、サポーターを攻略部隊の中に入れるパーティはそこまで多くない。

 むしろサポーターを積極的に活用しているパーティは、少ないと言った方がいい状況といえる。

 

「――――なんだけれど、やっぱり一方的に情報だけを仕入れて知った気になるのは駄目だねぇ……」

「本当にね。ここまでとは思わなかったわ」

 ダンジョンに潜って初めて起こった戦闘の後に見せられたトムの働きぶりに、俺とアンネリはそう感想を漏らした。

「兄ちゃんたち、褒めてくれるのは嬉しいんだが、まだそこまで大した働きはしていないからな」

「そうなのかもしれないけれどねえ。自分たちで魔石やら討伐部位やら取らないことでここまで楽になるとは、ちょっと予想外だったな」

「本当にね。でもより深く潜った場合を考えたら、パーティメンバー以外の安全も担保するとなるとやっぱり負担は増えるかしらね」

「それは確かにね。でも低層とか中層辺りで依頼部位を取って来るくらいだったら、むしろいた方がいいんじゃないかな?」

「そうね。やっぱり状況によるってことよね」

「……俺からすれば、いくら一番上の層だからってそこまでのんびり会話をしている兄ちゃんたちのほうが信じられないんだけれど……?」


 トムから教わって必死に倒したゴブリンから魔石を回収しているオトとクファを見ながらのんびりアンネリと会話をしていると、トムから突っ込みが入った。

 正直に言ってしまえば、ヘディンダンジョン程度の規模であればルフがいれば警戒は事足りてしまうので、ギリギリの緊張感を保つほうが難しかったりする。

 勿論舐めプをしているわけではなく、この階層であればルフの警告を聞いてから対処するだけの時間は十分にあることを知っているだけだ。

 だからこそこうしてのんびり話をしていられるのだが、そこまでの事情を知らないトムが思わず控えめに突っ込みを入れてしまったというわけだ。

 

「ハハハ。まあまあ。余裕があるのはそれなりの理由があるってことで。それよりも良いのかな? 二人が困っているみたいだけれど?」

「あっ、いけね。――時間がかかってごめん!」

「最初から分かっていたことだから気にしなくてもいいからなー。それよりも次に困らないようにしっかりと教えてね」

「あいよ!」


 頼もしい返事をしてきたトムは、すぐに動きを止めていた二人に指示を出し始めた。

 その指示の的確さを聞いていると、むしろ自分たちにとっても参考になることも多々ある。

 サポーターに特化しているトムは、どうやったら効率的に素材が取れるのかを熟知しているらしい。

 その指示を聞いて作業しているオトとクファの二人も、作業を進めるたびに効率が上がっているのが分かる。……この作業がこの先生きていくのに必要だから必死というのもあるのだろうが。

 

「これは、次も考えてもいいかな?」

「あら。随分と前向きになっているわね」

「駄目かな? アンネリが反対するならやめるけれど?」

「いいえ。むしろ賛成よ。どちらかといえば、中層以降に行ったところで実力を発揮してもらいたいかしら」

「同感。でもまあ、とりあえずは乱戦模様になった時にどう立ち回るのかが知りたいかな」

「それもそうね。……ただあなたがいる場合は、そこまで心配する必要がないと思うけれどね」


 含みを持たせて言ったアンネリだが、その言葉の通りきちんと意味がある。

 俺の戦い方の基本は、木の枝を出現させて相手モンスターの動きを止めてから仕留めている。

 中には枝を躱して突進してくる魔物もいるのだが、そのこぼれた相手はアンネリが処理しているので大した問題は発生しない。

 ちなみに枝で相手を絡めとる魔法が効かないのは中層以降だと予想していて、今のところ上層部で外れたことはない。

 勿論、タイミングがずれたとか不意を突かれた場合などは別にして、だが。

 

「どうせだったらあの二人に成長してもらおうと思うんだけれど、どう思う?」

「いいんじゃないかしら。いきなり全員を助けるのは無理だとしても、目と手の届く範囲であれば――といったところかしらね」

「そういうこと。問題は使えるようになるまで教える教師がいればいいというところだけれど――」

 

 俺の言葉に反応するように、アンネリの視線はしっかりと指示を飛ばしているトムに向いていた。

 できることならトムに指導役になってもらってオトとクファが使えるようになるまで育ててほしいところだが、それも中々難しいとも思う。

 彼には彼の生活があるので、ずっと指導役をやり続けるというわけにもいかないだろう。

 それに今まで彼が築いてきた他の冒険者との関係もあるはずで、そう簡単に移籍もどきが出来るとは思えない。

 彼らサポーターの間でも色々な規則のようなもがあるはずで、その辺りは当人たちに聞いてみないと分からないこともあるはずだ。

 

 そのあたりの細かいことを聞いてみようとトムに視線を向けると、それに気付いたのかこちらに近寄って聞いてきた。

「何? 何か聞きたいことでもあった?」

「あるけれど……とりあえず、処理が終わったみたいだから場所を移そうか。どうせなら二人が処理しながらの方がいいよね」

「それもそうか。――オト、クファ! いつまでも喜んでいる暇はないぞ! 移動するからな!」

 トムがそう声を張り上げると、二人はゴブリンの血で汚れているナイフを布でふき取りながらすぐに駆け寄ってきた。

 彼らが使っている道具類は、基本的に先輩サポーターからのおさがりだったりダンジョンで得た戦利品を使っているらしい。

 

 

 その後もオトとクファに対するトムの指導は続いた。

 トムの指導が優れているのか、二人の腕はめきめきと上がっているようで俺たちは感心するようにその様子を見ていた。

 ……のだが、トム曰く「普通はこんなにのんびりと指導できる機会なんてそうそうない」らしい。

 当たり前だが冒険者がダンジョンに潜るということは、彼ら自身の生活もかかっているわけでサポーターの成長を促すためにわざわざ待つなんてことはしない。

 中層以降に潜れる冒険者であれば多少の余裕も出てくるのだが、サポーターがそこまで行けるようになるにはやはりそれなりの訓練期間が必要となる。

 結果として上層部で訓練をせざるを得ないわけだが、上層部で狩りをする冒険者は数を稼いで生活費を得ることになるので、必然的にのんびりと指導するなんてことはできないそうだ。

 サポーターとしての理想の仕事は、冒険者たちが息を整えている間に全ての魔石を取り切るくらいが目標とされているらしく、それが出来るようになれば一人前と認められるらしい。

 それを聞いた俺たちは目を点にしていたが、それを聞いてますますサポーターの重要さを理解するのであった。




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m(__)m

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