(2)初めての
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ダンジョン内で見つかった歪みについてはとりあえず『様子見』ということになり、本格的にヘディンダンジョンの探索を開始することになった。
本格的な探索をするということは中期や長期的にダンジョン内に潜ることになるわけで、その前にしっかりとした準備を行わなければならない。
というわけで、この日の俺はアンネリ&ヘリと別れて行動することになっていた。
ただ俺自身の準備は終わっていて、護衛として一緒に着いて来ている眷属たちも準備らしい準備をする必要がない。
そんな理由からまる一日が空いてしまったわけで、拠点に籠っているのもどうかと考えた俺はヘディンの町をうろつくことにした。
ダンジョン狙いで冒険者が多く滞在しているヘディンの町は、彼(彼女)ら狙いの商売が多く行われている。
他の町に比べて屋台が多く立ち並んでいるのもその影響によるものだ。
そんな屋台を冷やかしつつ町を歩いていたのだが、数時間も経たずしてダンジョン入口にまで来てしまったのは、これまでの行動の影響なのだろう。
そんな自分の行動に苦笑しつつも、町の中心に戻ろうとしたところで突然子供から声をかけられた。
「――なあなあ、兄さん。ちょっと話を聞いてくれないか?」
そんな声が聞こえた方に視線を向けると、一人の少年とその後ろにさらに年下と見える少年少女が立っていた。
「どうしたんだい?」
「今日はダンジョンには入らないのか?」
そんなことを聞かれて改めて三人を観察してみれば、先頭に立っている少年が補助職狙いでダンジョン傍をうろついていた子だとわかった。
「ああ。明日……か明後日には遠征に向かうからね。今日は準備と休養だ」
「そうか。……うーん。タイミングが悪かったか」
「初めて組むのに、遠征に行くのはちょっとね」
俺がそう言うとその少年はすぐに「そうだな」と返してきた。
慣れていないパーティでダンジョンの深層に潜ることの難しさを十分に理解しているのだろう。
それに釣られるようにさらに少年が語ったところによると、どうやら後ろにいる二人はこれから補助職デビューを目指しているそうだ。
そのためダンジョンの浅い層を探索していた俺たちを狙って声をかけてきたらしい。
「――なるほどね。そういうことなら俺に声をかけてきた理由もよくわかる……けれど、よく浅い層にしか行っていないって分かったね」
「それは簡単だ。毎回毎回日帰りでしか潜っていなかったからな。どんなに早く探索したとしてもたかが知れているだろう?」
「なるほどそういうことね」
少年は軽く言っているが、そもそもどのパーティがどのタイミングでダンジョンに潜っていて、しかもどれくらいの期間で戻ってきているのかを把握しているということになる。
その情報量を考えるだけでも、少年たちが普段やり取りしている内容が素晴らしいことは明白だろう。
勿論、ダンジョンに潜っている全てのパーティの情報を把握しているわけではなく目を付けたパーティだけなのだろうが、それでも生きるために行っていることい頭が下がる思いだ。
彼らがどういった基準でパーティの選定をしているのかが気になるところだが、ようやく初めて接触したばかりの状態で聞くようなことではないだろう。
そんな話を聞きながら残念そうにしている少年――トムを見て、ふと思いついたことを言ってみた。
「これから数時間くらいなら時間は作れるのかな?」
「え? あ、ああ。そのつもりで話かけたからな」
「そう。だったら条件があるけれど、今から潜るのもいいかな」
「条件?」
「簡単なことだよ。トムも一緒に潜って補助職の基本を教えるってことだ。俺は今まで一緒に潜ったことがないからね。何をどう教えればいいのかも分からないからね」
「なるほど……確かにそれもありか……」
俺の提案を受けてトムは考え込むような表情をしていたが、両脇に立っていた少年少女の期待するような視線に気づいて苦笑していた。
「兄さんが良ければそれでお願いしたい。他には何かあるか?」
「いや。ただあくまでも補助職の基本を教えるだけだから、第一層だけで済ませたいかな」
「了解。俺もそれが良いと思う」
お互いに軽い打ち合わせをして、これから数時間だけダンジョンに潜ることが決まった。
さすがに俺はダンジョンに潜る予定ではなかったので、色々と必要なものを取りに拠点に戻ってからの探索になるため、一時間後に再集合ということになる。
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一時間後、俺はいつものメンバーに加えてアンネリとヘリを連れてダンジョン前に来ていた。
何故アンネリとヘリがいるかといえば、拠点に戻ったときに二人がいてダンジョン前で起こったことを話したところ興味が出たのか一緒に行きたいと言い出したのだ。
二人とも遠征の準備は既に終えていたらしく別に断る理由もないのですぐに許可を出したが、トムたちは驚いていた。
ちなみにトムの他にいる二人の名前は、少年がオトで少女がクファという。
俺たちが近づいて来たことが分かったのか最初に気付いたトムが少し驚いた顔になっていた。
「あれ? 姉さんたちも来たんだ」
「ええ。ちょっと興味があってね。いたらだめだったかしら?」
「いや。そっちがいいんだったら俺たちは問題ないよ。基本的に後ろで邪魔にならないように動き回るだけだから」
「そう。それなら良かったわ。第一層だけなら私がいる必要もないのだけれど、お互いに初めてのことだから許してね」
「無理を言っているのはこっちだからそっちの好きにしてくれていい。むしろ安全度が上がるからこちらとしては嬉しいし」
トムの答えを聞いたアンネリは、「そう」とだけ返していた。
お互いの挨拶が終わったところで、いよいよダンジョンへと入る事になった。
その際に警備についていたヘディン領の兵士が声をかけてきたが、ここまでフレンドリーに話しかけてきたのは今回が初めてのことだった。
明らかにトムたちがいるからこその対応に、なるほどと納得してた。
「君たちは、兵士にも顔が効くんだね」
「いや。そこまでじゃないな。毎日あのあたりをうろついているから顔を覚えられているくらいだ。顔を合わせれば挨拶をするから必然的に覚えるんだと思う」
兵士に顔を覚えられるていることがいいことがどうかはよくわからないとトムは笑って話していたが、少なくとも挨拶を交わせるくらいの関係を築けているだけでも十分だと思う。
他の町だとトムたちのような子供は、顔を覚えられるどころかその辺の路傍の石と変わらないような対応をされることも多いのだから。
俺と同じようなことを考えていたのか、たまたま視線が合ったアンネリが意味ありげな表情を向けていた。
「そうか。まあ、兵士に敵意を持たれているよりも全然いいんじゃないか?」
「あー。中には馬鹿なことをして警戒される奴もいるからなー」
「やっぱりいるのか」
「いるなー。特に補助職になる前に、やばいことに手を染めたやつとかはな……」
「それもそうか」
ダンジョンがあって補助職のような仕事があったとしても、全ての貧しい子供たちが就けるわけではない。
中には後ろ暗い仕事に手を染めていく者もやはりいるのだろう。
出だしから何となく寂しい雰囲気になってしまったので、すぐに切り替えるように言ってから本格的にダンジョンを歩き始めた。
特にオトとクファは初めてのダンジョンなので、緊張していることが見て取れる。
そのことをトムに指摘すると、ハッとした様子になって少しだけ頭を下げてから彼らのフォローに向かっていた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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