第4章
(1)よくわからない歪み
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
ボスクラスの敵が出現する魔物部屋については、今後も継続して監視していくことが決まった。
ただしこれまでと違ってダンジョンに潜るたびに毎回魔物部屋を攻略するわけではなく、適度に間隔を開けて攻略することになった。
適度な感覚というのが非常にあいまいな言い方だが、要は気分次第で構わないといったところだ。
そんなので依頼として大丈夫なのかと思わなくもないが、そもそも最初に受けた依頼とは違った依頼形式になっていて、しかも冒険者ギルド経由ではなくなっているのでそんな形になっているらしい。
正確にいえば、先の依頼と違って『貴族、国からの依頼』というわけではなく、辺境伯家からの個人的な依頼に切り替わっているのだ。
ヘディンダンジョンを管理しているヘディン家は、今後も別で冒険者に依頼を出していくことになるということだった。
今回の件はまず魔物部屋を攻略することがあってその先にどうなるかを観察することになるので、それなりに高ランクの冒険者を雇わなければならない。
そのため依頼料も必然的に高くなり、どれほどの頻度で依頼が出せるかはヘディン家の予算次第といったところになるはずだ。
というわけで、依頼から解放されて一旦落ち着けたところで、しっかりとこれまでのことを整理することにした。
まず歪みそのものについてだが、これ自体がいまいちよくわかっていない存在とされている。
俺と同じサーバにいるプレイヤーが送り込まれた世界では、世界中にマナと呼ばれるものが存在している。
マナがエネルギー的な何かなのか、物質的ななにかなのかは今のところ分かっていない。
とにかく世界にはマナというものが満ちているが、このマナ自体はそれだけで世界に何かの影響を及ぼすことがない――とされている。
マナが何かの要因によって『動いた』時に、初めて魔法的なエネルギー源となる。
具体的にいえば、マナをため込んで自前で魔石を作ることができる世界樹のような存在しかり、マナを使って自らを拡大していくダンジョンなんかが代表例だろう。
それ以外にも、何らかの要因によって魔石ができて、そこから魔物が生まれるといったことも上げられるだろうか。
問題はそれらの現象が起こる以外に、歪みという現象が起こることだろう。
この歪みについてはプレイヤーそれぞれで意見があって、統一した見解のようなものは未だ定まっていない。
ただ一つだけ挙げるとすれば、マナや魔力が魔法がある世界にとって必要な存在だとすれば、歪みはプログラムでいうところのバグのようなものではないかということだ。
とはいえ、もし本当に歪みがバグの一種なのだとすると、システム的に考えると随分と穴だらけではないかという(消極的)反対意見もあるのだが。
歪みがバグなのかどうかは置いておくとして、バグがあるところには結果的に人族にとってはよろしくないことが起こりやすい。
今回見つけた魔物部屋にボス的な魔物が出現するという現象も、そのうちの一つになるのだろう。
全ての歪みが最終的に魔物を生み出したりするというわけではないところが、歪みというものを考える上で色々な憶測を生み出す原因になっている。
答えが尽きない歪みという存在は、プレイヤーにとって解けないクイズの一つなのである。
さらに今回の歪みは、一つ大きな疑問が残っている。
「――どう考えてもダンジョンができる前兆だと思ったんだけれどね」
「これまでダンジョンができる前兆だと思っていた気配は、何かを召喚する前兆だったのでしょうか」
俺の呟きに反応して、ラックがそう返してきた。
「召喚とか、何か別の空間と繋がるとか、考え方は色々あるけれどね」
「別の空間……だからダンジョンができる前兆ですか」
「そういうこと。普通の空間に出来ればダンジョンができて、ダンジョンの中にできれば空間を繋いで魔物を召喚するとかね。推測でしかないけれど」
「他の方々はどう仰っておりますか?」
「他の……? ああ。プレイヤーのダンジョンマスターか。残念ながらダンジョンマスターが歪みを見れたという報告を聞いたことが無いからなあ」
ダンジョンマスターが、というよりも歪みを視ることができたというプレイヤー自体が俺を含めて少数しかいない。
もしかすると巫女とか神官的な素養が無ければ発見できないのではないかと言われているが、正確なところはわかっていない。
ユグホウラの眷属の中には歪みを視られる魔物もいると言うらしいので人族の特権ではないと思われるが、現状ではどんな条件でその能力が発現するかはまったくの不明である。
俺自身歪みを視ることができているが、何故出来るようになったのかは全く分かっていない。
「――もしかすると司祭系の魔物とかがダンジョンマスターになれば、見ることが出来るようになるのかもしれないね」
「なるほど。いっそのこと、歪みが見れている眷属にダンジョンマスターになってもらいましょうか」
「あ。そうか。そういう方法もあったか。……確かに考えてみる価値はあるな」
「我々にとってはダンジョンは攻略するものでしたが、もし必要となれば仰ってください。手配いたしますので」
ラックからの提案に、俺は「ありがとう」とだけ返しておいた。
確かにユグホウラであれば、ダンジョンマスターを人為的に作りだすことなど簡単に出来るだろう。
問題はそこまでする必要があるのかどうかだが、プレイヤーの俺としては必要なことだと断言できるが、ユグホウラとしては微妙といったところだろう。
俺が一声かければ本当にやってくれると分かっているだけに、その程度のことで『命令』をしていいのかどうかが迷うところだ。
ユグホウラにとって必要なのは、歪みを見つけたうえで『処理』ができる巫女の存在なので、歪みそのものについてはそこまで急いで知る必要がない。
そのために一体とはいえ眷属をダンジョンという場所に縛り付ける必要があるかどうは何ともいえない。
――もともと地下に好んで住む蟻種ならありかもなあ。
そんなことを考えつつ今すぐに『命令』するのは止めておくことにした。
「ヘディンダンジョン自体、特に特徴のあるダンジョンじゃないしなあ。逆にいえば、どこにでも似たようなことが起こりえるということになるのかな」
「ですが、少なくともこれまで発見されたダンジョンで、魔物部屋にあのようなボスが出て来ることはなかった……はずですが」
「そうか。ラックの記憶でも思い当らないとなると、やっぱり珍しい現象なんだろうな。でもまあこればかりに関わるわけにもいかないし、やっぱり国の調査を待つのが一番だろうね」
「そうですね。相手がやってくれるのを待つだけで十分だと私も思います」
状況によってはその調査をかすめ取ることになるのだが、そこはそれ。
こと人の命に直結するような情報を隠そうとするほうが悪いと開き直って、きちんと諜報部隊に頼んで調べてもらうことにする。
そもそも調査を続けて有益な情報が出て来るかもわかっていないので、そこまで考える必要もないのかもしれないのだが。
「よし。あの部屋については、とりあえずそれでいいや。それもよりもこれから先のことを考えないと」
「今の主であれば、中層くらいは行けそうではありますね」
「そうなのかな? でもまあ、油断せずに進んでみるよ。アンネリとかヘリとの連携のこともあるからね」
「私たちはいつも通りに見守り役ですか」
「そうなるね。というか、そうしないといつまで経ってもおんぶにだっこになるし」
それならそれで構わないという視線を返してくるラックに、俺は気付かなかったフリをするのであった。
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§
是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます