(11)やきもき辺境伯 その2

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< Side:辺境伯 ヨエル・アルムクヴィスト >


「――ふむ。とりあえずは安心……ではないか。収まるべきところに収まったというべきか」

『そうですね。ただ今回の変化が一回限りのものなのか、あるいは永続的に起こるかなどは今後も調べておく必要がありそうです』

「それはそうだろうな。だが、継続的に調べるには場所が問題になるな……」

『ずっと私たちに依頼するのはおやめくださいね』

「わかっているよ。となると、また子爵と相談しなければならないな」

『私たちから離れるのであれば、子爵にお任せするというのもありですからね』

「そうだな。だが、できればあと何回かは様子見をしてほしいのだが……」

『それも問題なさそうです。キラも気になるので様子見がてら見に行くと言っておりましたので』

「ふむ……」


 奇妙な動きを見せていたらしい魔物部屋に、普通ではありえないランクの魔物が現れたというのは別に構わない。

 いや。第一層に出てくる魔物と考えれば問題だらけなのだが、そもそも対象となっている場所が魔物部屋だけに低ランク冒険者が入ることなどあり得ないので問題はそこまで大きくない。

 中には情報を全く集めずに魔物部屋に突貫する冒険者もいるだろうが、それは最初から問題だらけの行動をしているだけなのでそこまでこちらが注意喚起する必要もないだろう。

 となると問題は今後件の魔物部屋が今後どんな変化を見せるかなのだが、それもアンネリのパーティが観察してくれるのであればある程度の結果は出るだろう。

 できれば変化のパターンを見つけるところまで継続して調査してほしいところだが、一か所に縛られることを嫌う冒険者なので難しい。

 本音を言えば領地に戻ってきて欲しいという願いもあるのだが、それを強要すれば反発されることが予想される。……主に、アンネリから。

 

 普通は逆じゃないかと言いたいところだが、そもそもアンネリは貴族という枠に縛られることを嫌って冒険者になっている。

 その決意は学園に入る前からの筋金入りなので、今さら変わることなどないだろう。

 一体誰に似たんだと言いたいところだが……以前独り言のように呟いたそのセリフを聞きとがめた執事長に「ご両親に、でしょう」と言って笑われてしまった。

 その言葉を否定できない自覚があるだけに、その時は適当に笑って誤魔化してしまったが。

 

 アンネリが冒険者をやり続けることに関しては既に諦めているからいいとして、今の会話で少し――いや、かなり気になることがあった。

 例の冒険者の名を呼ぶときに、明らかにいつもと声色が違っている気がした。

 いや。明らかに違っていた。

 恐らく当人は気付いていないのだろうが……できれば気付かずにそのままでいて欲しいところだ。

 

 とはいえ以前の時と同じように、下手にこちらから突けばそれが後押しになってしまう可能性があるので、こちらも気付かなかったフリをしておくしかない。

「――それにしても、フロアボスような魔物の出現を事前に知ることが出来る能力スキルか。一体何が見えているのだろうな」

『お父様……』

 私を呼ぶアンネリのその声が、思ったよりも低音になっていたので思わず動揺してしまった。

「な、なんだ……?」

『彼のことを詮索するのは無用と仰ったのは守護獣様ですよ? お父様は我が家をお取り潰しにされたいのですか!?』

「い、いや、すまん。その通りだったな。聞かなかったことにしてくれ」

 慌ててそう謝罪したものの娘の変わりように、必要以上に動揺してしまった。

 

 その理由は、件の冒険者が身近に感じて来てしまっているのでつい詮索するようなことを言葉にしてしまったこと。

 そしてもう一つは、アンネリが怒りの感情を私にぶつけてきたことだ。

 貴族の令嬢として学園でいい成績を収めたアンネリは、不用意に怒りの感情を表に出すことはしない。

 気を許した家族が相手なら別なので私に怒りの感情を見せたこと自体は別にいいのだが、問題はその内容だ。

 アンネリが怒りを面に見せたその理由に例の冒険者が関わっているからというのは、私が穿ちすぎだからだと思いたいところだ。

 

『全く……お父様はご自身が意識せずに呟いたことでも周りが勝手に動き出すという事実を、もう少し重く受け止めたほうがよろしいかと思います』

「本当にな。これだけは昔から言われていることだが、どうしても直すことができないでいるな」

『よくそれで今まで問題が起きませんでしたね』

「起きそうになったことなら何度もあるさ。そのたびに周りに助けられてきた。……いや。自慢にはならないか」

『お父様? 何かあったのですか?』

 つい弱気なことを言ってしまった俺に、アンネリが「娘」に戻って心配そうに聞いてきた。

「いや。心配させて済まないな。特に何かあったわけではない。ただこれからお前も、これから先失敗することがあるかも知れないから言っておきたかっただけだ」

『そうですか』

 とっさに出た誤魔化しの言葉だったが、アンネリは特に不自然に思わず納得してくれたようだった。

 

 その後は挨拶のような言葉を交わして、アンネリとの通信を終えた。

 これからは子爵との話し合いが待っているのだが、その前に一度心を落ち着かせるための時間を設けたのは言うまでもない。

 ……だがな、執事長。

「辺境伯といえども実の娘を相手にすると普通の父親になるのですね」というのは余計な一言だと思うぞ。


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< Side:ヘリ >


「全く、お父様ときたら……」

 辺境伯様との通信を終えられたお嬢様アンネリ様が、独り言のようにポツリと呟かれました。

 その声色でどうやら私との会話を望まれていると察して、新しく入れた飲み物を差し出しながら応えました。

「周りから恐れられる辺境伯といえども、お嬢様には甘いですから」

「甘いというか、無防備過ぎない? いくら周りに信用できる者しかいないとはいえ、不用意にあんなことを言うなんて……」


 どうやらお嬢様は、辺境伯様がキラ様のことを詮索しようとしたことを気になされているようです。

 ですが私に言わせれば、あれはお嬢様の言葉でつい出てしまった言葉のように感じました。

 娘に甘いと有名な辺境伯様らしいといえばらしいのですが、どうやらお嬢様の微妙な気持ちの変化に気付かれていらっしゃるようです。

 勿論私もそのことには気付いていますが、辺境伯様と同じようにこちらから何かを言うつもりはありません。

 

 恐らく辺境伯様も気付かれているようですが、今のところお嬢様のお気持ちは明確な恋愛感情にはなっておりません。

 ですがご家族は別にして、ここまで気を許せる異性ができたというのも私が知る限りでは初めてのこと。

 そのためついつい感情的になることもありますが、お嬢様はそのこと自体にも気付かれていらっしゃらないようです。

 今は定まっていないそのお気持ちがどうなるのか……いえ、やはりこちらから下手に突くのは止めておきましょう。

 

 辺境伯様からは「変な虫がつくことの無いように」とは言われておりますが、お嬢様が自覚されれば私も全力で応援していきましょう。

 それは辺境伯様からの命に反することになるかも知れませんが、私はあくまでもお嬢様のお付きですから。

 ――それにしてもお嬢様が本気になるところを見ることができれば、それはそれで面白いことになりそうだと思う私もおります。

 

 そんなことをお二方に気付かれないようにシルク様とお話しさせていただきましたが……あちらはあちらでどう考えているのかよくわからないところがありますね。

 ……いえ。勿論、こんなことを実際に口に出して言うつもりはありません。

 辺境伯様のように、お嬢様から叱られたくはありませんから。




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m(__)m

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