(9)情報の扱い

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 特殊な歪みをダンジョン内で発見した翌日。

 この日は当初から休日だと決めていたので、ゆっくり目に起きてからリビングへと向かった。

 そしてリビングのソファで、既に身支度を整えたアンネリがのんびりと飲料を口にしながら寛いでいた。

「――おはよう。珍しく随分とゆっくりね」

「今日は休みだと聞いていたからね。まずかったかな?」

「いいえ。休みの日くらいは好きにすればいいと思うわ。――ところで、昨日のことだけれど……」

「辺境伯に報告したら何か言われたのかな?」

 先んじてそう確認するとアンネリが貴族の子女という顔になって頷いた。

「ええ。できることならどう変化するのか、確認してほしいということだったわ。指名依頼という形でギルドから請け負うのもありだそうよ」

「指名依頼ねえ……そんなことをしたらこっちが注目されそうな気もするけれど?」

「確かにね。でも貴族からの直接依頼ということで、既にひも付きになっているということまで伝わると思うわよ?」

「なるほどねえ。確かにそういう考えもあるか」

 依頼を出すのが辺境伯になるのか、あるいはヘディン家からになるのかは決まっていないそうだが、貴族からの直接依頼はそれを出すだけのある程度の信頼関係があるということを示していることになる。

 

 例の部屋の監視を続ける前提で話を進めているが、これは既に俺自身の中で決めていたことだ。

 それをどうやってアンネリに話すかを決めかねていたのだが、彼女から提案してくれたのならそれに乗らない手はない。

 国や貴族に隠すつもりは全くないので、むしろそれを依頼にしてくれるのであればありがたく受けようと考えている。

 ただあの部屋を攻略するには眷属たちの力が無ければならないので、そこに関しては毎度俺自身が「お願い」をしなければならないだろう。

 

 ただしその「お願い」だけで一々眷属たちに動いてもらうのも何かが違う気がするので、彼(彼女)らのために少しばかり交渉することにした。

「依頼がどうなるのかはいいとして、例の部屋で出てきた魔石は全部ラックたちに渡すということでいいかな?」

「それは……確かに、それくらいで済むのであればこちらからお願いすべきでしょうね。父に話してみるわ」

 さすがにアンネリも魔物部屋を眷属たちの力なしに簡単に攻略できるとは考えておらず、俺の提案はあっさりと受け入れられた。

 

 もともとダンジョン攻略の際の依頼では、中で討伐した魔物の素材は冒険者のものになるという考え方である。

 それを考えれば魔物部屋にいた魔物の魔石を全てもらうというのは、何らおかしな話ではない。

 ただし依頼料の中に魔石の料金まで含まれている場合など、依頼の条件によっては全ての素材を渡すこともあり得るので、全てが当てはまるわけではない。

 そのため今のうちから話が違うということの無いように、しっかりと詰めるべきところは詰めておくべきなのだ。

 

 ちなみに今話をしているのはあくまでもチーム内の話であって、貴族との依頼の内容についてはまた別の話だ。

 貴族との契約(依頼)は、これからアンネリがしっかりと話を詰めてくれるはずだ。

 アンネリもチームの一員として動いている自覚はあるので、しっかりと搾り取れる分は搾り取ってくれるはずだ。

 それが今後のチームの活動に繋がると分かっているので、実家や他貴族相手に変な手加減などはしないだろう。

 

「他に何かあるかしら?」

「いいや。魔石が確保できれば後は好きに交渉してもらっていいよ。チーム内での分配は今まで通りでいいんだよね?」

「そうね。貴族が相手だからって、そこを変えるつもりはないわ」

「だったらこっちから言うことはないかな」


 一応最終確認として聞いてくれたので、いつも通りで問題ないことを確認しておいた。

 アンネリとしても貴族の実家が関わっているだけに、いつもよりも慎重になっているのだろう。

 そんなことを考えていると、アンネリがふと何かを思いついたような表情になって言った。

 

「それにしても、随分とあっさりと認めてくれたわね」

「ああ。俺がダンジョンの情報を隠す方向に動くと思っていたのかな?」

「そうよ。珍しいことではないでしょう? 冒険者によっては利益を独占するためにしばらくの間黙っておくなんて」

「確かにね。でもまあ、アンネリも同じ考えだと思うけれどさすがにこれを黙っておくのはちょっとね……」

「ダンジョンの中に新たにダンジョンが生まれる可能性があるなんてこと、冒険者としては情報としてさっさと売ってしまったほうがいいということかしら」


 まさしくその通りの考えを言ってくれたアンネリに、「そうだね」とだけ返しておいた。

 歪み云々の話は別にして、アンネリが言った通りにダンジョンの中にダンジョンが生まれるかも(?)という話は、黙っていても何もおいしいことなどない。

 逆にギルドなりに話をしたところで、何を言っているんだというような顔をされることになるだろう。

 それならばアンネリという特殊ルートを使って「上」に知らせてしまったほうが、世間的にも個人的な気持ちとしても安心できる。

 

 今のところ実際にあの歪みによってダンジョンが発生するかは確定していない。

「恐らく」ダンジョンができるであろう歪みでも、領土ボスに吸収されたりいつの間にか消えてしまったりすることもあり得るからだ。

 そんな段階でギルドが評価してくれるかは微妙なところで、そういう意味では国なり貴族に動いてもらうというのはありだと考えている。

 それはギルドがそういった情報を集めていないということではなく、あくまでもこちらとの信頼関係があるか無いかの問題でしかない。

 

 ギルドとの信頼関係があれば、こちらが推測の段階でも話を聞いてくれるだろう。

 ただしヘディンの町に来て数日しか経っておらず、ギルドランク自体もさほど高くない精々中堅どころのパーティの話はあまり重要視されることはないだろう。

 これで何度もダンジョンに潜っていて実績もしっかりと積んでいるのであれば、多少荒唐無稽な話であっても聞き入れてくれる可能性はある。

 ただでさえ魔物部屋に突っ込んで何をやっているのかと呆れられるような状況なので、さらにその先にある「ダンジョンの中にダンジョンができる可能性」なんて話は受け入れてもらえるかは微妙なところだ。

 

「――ところで話は変わるけれど、パーティ名はどうするの?」

「あ~、やっぱりその話になるか。正直なところなんでもいいのだけれど」

「私も人のことは言えないけれど……適当よね」

「始まりが始まりだからなあ。固定パーティとしてこの後もずっと続くかどうかは……ってこともあるからね」

「そうなのよねえ……。指名依頼とかだとパーティ名はあった方が良いのだけれど、とりあえず無しのままで詰めておくわ」

「いっそのことアンネリへの個人依頼ということでも……」

「それは駄目よ。あなたの手柄を食い物にするつもりはないわ」


 少し食い気味に言われてしまったので、俺は素直に「ごめん」とだけ返しておいた。

 アンネリのことを信用しているのは、こういうところがあるからだ。

 他の貴族なり冒険者であれば、こちらのことを全く気にせずに自分だけに有利な条件で話を進めることも珍しいことではない。

 むしろアンネリの場合は、自分が貴族との繋がりがあって交渉できているのだからと言える立場にある。

 それを言わずに、しっかりとこちらの利益を考えてくれているからこそ、今まで大きなストレスもなく続けられているのだ。

 万が一アンネリがそうした立場を笠に着るような言動をしていたならば、いつでも解散ができるように準備をしていたはずだ。

 

 とにかくパーティ名については相変わらず保留としたままで、この件についての話は終わった。

 そのあとは、今後のダンジョン探索についてどうするかなどの話も出たが、基本的にはこの町に来るまでに計画していた通りに進めて行こうということで落ち着くのであった。




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m(__)m

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