(8)歪みの扱い
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魔物部屋での歪みの発見のあとは、特に変わったところは見つからなかった。
ダンジョン探索で採取できる素材は集めて回ったが、低階層で攻略を進めていたので割と簡単に手に入るものばかりだった。
低階層とはいえ命の危険があることには変わりはないので十分に注意する必要はあるが、日帰りできる程度の階層ではよほどのことがない限りは魔物との戦闘で負けるということはない。
護衛役である眷属たちもいるということもあるが、それを抜きにしても十分に対処できる階層でしか行動しなかった。
歪みのことについては気になるが、それにばかり気を取られて戦闘がおろそかになるような事もなく、その日の探索は終えることができた。
そこはアンネリやヘリも同じで、気になることがあっても魔物が出現する場所では集中力は切らさないということはしっかりと身についているようだった。
とにかく一日の探索を無事に終えてギルドに戻った俺たちは、その日回収した魔石を売って事前に決めていた通りに分配を行った。
この辺りは旅の間でも散々繰り返されたやり取りなので、分配を巡ってトラブルになるなんてことは起こるわけもない。
そのあたりの細々したやり取りを終えて宿に戻った俺は、眷属たちに協力してもらってすぐに広場へと向かった。
プレイヤー関係の話はアンネリたちには話していないので、部屋にこもってポーション関係の作業をしていることにしている。
広場に行っている間、アンネリやヘリが不用意に部屋に入ってきたりしないようにシルクやラックにさりげなく見張ってもらう。
そして俺はルフを連れて広場へと向かい、ダンジョンマスターをやっている「龍の人」のラッシュに会いに行った。
ラッシュは龍だが人化するための魔法を身に着けているため、風呂に入るときには人用の風呂に入る……わけではなく、気分によって変えている。
事前に魔物用と人族用どちらの風呂に入っているのか他のプレイヤーに確認してから突撃すると、その情報通りに人型になって風呂を楽しんでいた。
「おー、木の人じゃないか。久しぶりに来たな。確か移動していたから来れないとか言っていたか」
「お久しぶりです。そうですね。ようやく移動も終わって落ち着いたので、来てみました。といっても今回は単に寛ぐためだけに来たわけじゃないのですが」
「おんや……? 何かあったのか? 装備目的とか?」
「いいえ。ちょっとばかりラッシュさんに確認したいことがありましてね」
「俺に……? わざわざそう言うってことは、何かあったのか」
「そうですね。――ちょっと確認なのですが、ダンジョンの中に歪みが発生するところは確認したことがありますか?」
俺がそう聞くと、ラッシュは少し驚いたような顔になってからすぐに何かを思い出すような表情になった。
時間にすれば数十秒程度の時間だったのだが、ラッシュは首を左右に振った。
「――いんや。俺が知る限りでは、ダンジョン内で歪みを見つけたという話は聞いたことがないな。勿論、俺自身も見つけたことが無いしな」
「そうですか。そうなるとやはり一度は掲示板で確認したほうがいいでしょうね」
「だろうな。個人個人に当たっていくよりも、やはりこういう場合は掲示板が役に立つ。今から行くのか?」
「いえ。折角来たので、一応風呂には入るつもりですよ」
「ハハハ。それもそうか。急かしたみたいで済まなかったな」
そう笑いながら言ってきたラッシュに、俺は「気にしないでください」と返してから手を振った。
そしてそのまま風呂に入ることにしたわけだが、ラッシュとの話はこれだけでは終わらずに、今回ダンジョンで歪みを見つけた状況も含めて色々と話はした。
ただしこの場所での話はあくまでも二人(と他に入っていたプレイヤー)の推測でしかないので、周知する意味を含めて掲示板に情報として載せることにした。
――広場にいたのは一時間程度で、その後は連れて来たルフを宿屋に送ってからハウスに戻って掲示板へと歪みについての情報を書き込んだ。
情報そのものについては風呂場にいた他のプレイヤーから口コミで広まっていたのかそこまでの驚きはなかったのだが、書き込みと同時に様々な推測が進んでいた。
今回の件で重要なところは二点あって、一つがダンジョンの中に歪みが発生していたということ。
そして、もう一つがその歪みがダンジョンと同じ反応を示していたということだ。
そもそもプレイヤーにとってのダンジョンとは、世界中に散らばっているマナを吸収して、それを魔石として魔物を発生させる世界のシステムの一つだと考えられている。
マナの吸収はダンジョン内で自然に発生している分も含まれているが、大半は侵入者を撃退することによって得られるようになっている。
ダンジョンに限らず、世界樹のような領土ボスも同じことなのだが、マナはその場にあるだけでは意味がないものでダンジョンなり領土ボスなりに吸収させて『動かす』ことが重要なのだと。
それらのことからダンジョンの中に別の(?)ダンジョンができる兆候があるというはどういうことなのか、と掲示板ではここ最近ではなかったほどに盛り上がっていた。
風呂場で話を聞いていたプレイヤーも最初に書き込むことは自重してくれていたのか、俺が書き込んだ後は色々な推測が書かれていった。
それらの推測で一番あり得ることだろうと指示されていたのは、たまたま自然発生しただけでこのまま消えてしまうのではないかということだった。
そもそもダンジョン内に歪みが発生することじたい新発見だったりするのだが、実はダンジョンが気付かない間に処理していたのではないかというのが根拠にある。
ダンジョンが領土ボスと同じように歪みの処理をしていたということ事態も初めて確認される現象なのだが、そのこと自体は「あってもおかしくはない」という認識だ。
むしろ領土ボスが歪みの処理をしているのに、ダンジョンボスは違っているというのがおかしい――と考えるプレイヤーもいたが、それについてはいままで見つかっていなかったことも含めてもう少し慎重に考えるプレイヤーが多いようだ。
ちなみに魔物部屋で歪みを見つけたことについては、「たまたまだろう」ということで落ち着いている。
これに関しては俺も同意見で、他のプレイヤーも反対するような意見はなかった。
初回の攻略で敢えて魔物部屋に入ったことについては幾つか言われたが、そこについては似たようなプレイヤーがいたことで有耶無耶になっている。
そしてダンジョンの中にダンジョン発生前に歪みができていることについては、やはり「起こってみないと分からない」ということになっている。
何しろプレイヤーにとってもダンジョン内で歪みが見つかること自体初めてのことなので、それがダンジョン発生前の歪みともなるとなおさら分からなくなるということなのだろう。
むしろこれから先何が起こるのか、しっかりと見張っていて欲しいと言われたほどだった。
こちらにはアンネリという同行者がいるのでそうそう好き勝手に動き回れないのだが、あの歪みがどうなるのかは知っておきたいので、どうにか理由を作って今後の観察を続けておきたいところだ。
そんなこんなで掲示板が落ち着いた頃に宿にもどると、すでに時間は深夜を回っていた。
警戒していた眷属たちに礼を言ってその日はそのまま眠ったのだが、翌日アンネリから「あの魔物部屋で何が起こっているのか経過観察したい」と言われた。
どうやら俺が広場やらホームに戻っている時にアンネリもしっかりと上に報告をしていたらしく、そこから見届けるようにと言われたらしい。
その提案自体はこちらにとっても渡りに船だったので、すぐさま了承をして今後も見守っていくことが決定するのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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