(7)歪み発見

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 歪みというのはマナに何らかの不具合があって、世界に何かの影響を与えることになる現象。

 ――と、プレイヤーの間では認識されている。

 それが正解かどうかは、今のところはっきりとわかっていない。

 歪みを放置するとダンジョンができたり魔物(正確には魔石?)が生まれてきたりすることが分かっているが、それだけが歪みの起こしている現象かどうかまでは確認できていないのだ。

 むしろそれ以外にも何か色々なことが起こるのではないか――というのが、プレイヤー間での認識である。

 もっともこのプレイヤー間というのは、あくまでも俺と同じサーバーにいる百人ほどで話されている内容なのだが。

 歪みのことがマナとセットで運営からお知らせされているということで、切っても切れない関係だということはわかっている。

 同時にそれらの歪みが、世界にとっては必要な存在であるということもだ。

 

 こんな感じで分かっていることや推測されていることなど様々ある歪みだが、ダンジョンの中に発生するという話は聞いたことがなかった。

 同じプレイヤーの中にはダンジョンマスターをやってうん十年というつわものもいるが、そうしたプレイヤーもダンジョン内で歪みを見たという話はしていない。

 もしそんな現象が確認されれば、真っ先に掲示板なりに報告されているはずだ。

 それくらいに歪みのことはわかっておらず、同時に今後のプレイヤーとしての行動に何らかの影響を与えるとも考えられている。

 

 そんなことを考えていた俺の目に、不思議そうな顔をしてこちらを見ているアンネリが映った。

 ヘリも同じような顔をしているが、それを見れば彼女たちには歪みが見えていないことがわかる。

 いや。普通のフィールドを移動しているときから見えないことはわかっていたのだが。

 とにかく見えないものを説明するのは非常に手間がかかるので、少し考えてからシルクに聞いた。

 

「この部屋、魔物が復活するのはどれくらいか分かる?」

「そうですわね。大体一時間から二時間ほどでしょうか」

「そっか。あまり時間がないというわけだね。……さて、どうしてもんか」

 腕を組んでから歪みを睨みつけた俺に対して、アンネリとヘリはお互いに顔を見合わせていた。

 

 こうして俺が眷属たちに相談する時には、二人には何かユグホウラのことが関わっていると思われているので、内緒の話をするのにはちょうどいい。

 それに時間がないということも、あまり細かいことを話している暇がないということを暗に示しているつもりだ。

 その意図が通じたのか、アンネリとヘリは何か言いたげにしながらもこちらを問い詰めて来るようなことはしてこなかった。

 勿論、後から聞いて来ることはあるだろうが、それくらいは構わない。

 

 とにかく今は、限られている時間を利用して歪みを調べることにした。

 といっても歪みに対して特に何かができるというわけではなく、まずは近づいて観察することにする。

 下手に歪みに触れると歪み自体が世界樹に送られてしまう可能性があって、折角の珍しい現象を確認することが出来なくなってしまう。

 そのため今は触れようとはせずに、できる限り見た目だけで色々な情報を集めなければならない。

 

 無意識のうちに腰にある精霊樹の枝を触ってしまうのは、これまでの間に身に着いてしまった癖のようなものだった。

 ただしその癖によって精霊樹の枝に触れた瞬間、何かの違和感ようなものを感じた。

 その違和感は、目当ての薬草を探している時なんかに感じるようなもので、俺の中では勝手に「虫の知らせ」と言っていたりする。

 ことわざとは違った意味なのだが、一番しっくり来る言葉なので使っている。

 

 その虫の知らせに従って今度は括っていた枝を取り出して手に取ると、その違和感の正体が何であるかに気が付いた。

「……シルク、ラック。ちょっと確認なんだけれど、あの辺りにダンジョンが出来る気配ない?」

「え……? ……あ」

「ありますね」

 俺が枝で指した方向に視線を向けた二人が、数秒の時間を置いてからそう答えてきた。

 やはり目の前に出来ている歪みは、ダンジョンができる前の兆候だったようだ。

 

 そのこと自体は別にいい。

 ダンジョンができる前に歪みができるという現象は既に確認されているので問題はないのだが、それがダンジョンの中にあるというのが問題になる。

「……ダンジョンの中にダンジョンができるって、どういうことだと思う?」

「幾つか考えられることはありますが……たとえば転移陣の罠ができるとか」

「何か強力な魔物が生まれるということも考えられますわ」

「たしかにどっちもありそうだけれど……ここで議論していても答えは出ないか」

 何しろ初めて見る現象なので、結果がどうなるのか起こってみないと分からないところがある。

 

 本当であればこのまま観察を続けて結果がどうなるのかを見てみたいところだが、今いる場所のことを考えるとそんなにのんびりはしていられない。

 こんな話をしている間にも、この部屋が魔物部屋に戻るまでの時間が減ってきているから。

 そこまで考えた俺は、きっぱりと諦めることにした。

 このままずるずるとここで考えていても仕方ないと割り切ることにしたのだ。

 

「よし。こんな怖い部屋からはさっさと脱出しようか」

「よろしいのですか?」

「十分や二十分で変化するならいてもいいけれど、どうやらそんな都合よくはならないみたいだしね」

「そうですか。畏まりました」


 今受け答えをしていたラックやシルク、ルフがいれば俺たちを守りながら魔物部屋を攻略することも可能だろうが、そこまでする必要もない。

 それよりは、プレイヤー間でこの情報を共有したほうがいいだろうと判断した。

 もっとも掲示板にこの話を投げたとしても、有益な情報は出てこないだろうと考えているが。

 出てきたら出てきたで、ラッキーだと思えばいいだろう。

 

 ――というわけでさっさと魔物部屋から出たわけだが、安全圏に来たことで今度はアンネリとヘリから注目されることになった。

「どういうことかしら?」

「うーん。何というべきか……ダンジョンの中にダンジョンができそうな気配があったから驚いていた?」

「いや。疑問形で言われても分からないのだけれど? そもそもダンジョンが出来そうだなんてことがわかるの?」

 普通はダンジョンができる気配など分からないので、アンネリの疑問も当然である。

「いやー。そこは俺も不思議だったんだけれどね。シルクやラックも確認できたから間違いないみたいだね」

 アンネリやヘリは、シルクやラックは魔物が変化した姿だということは知っている。

 それを利用してごり押すことにしたのだが、どうやらそれで納得してくれたようだった。

 

「ダンジョンの発生が分かる……か。それが知られたら色々なところから引く手あまたでしょうに」

「あ。やっぱりそう思う? 色々と面倒になるから黙っておくけれど」

「ハア。あなたに関して知らせなければならないことがどんどん増えていくわね」

「この辺りにはドルイドはいないみたいだから仕方ないんじゃないかな?」

「そもそも、そのドルイドが何であるか、あなた自身もよくわかっていないところがどうしようもないわね」


 ため息交じりにそう言われてしまったが、これに関してはどうすることもできない。

 プレイヤーの間でもドルイドになっている者はいないので、何ができるかなど細かいことは全く分かっていないのだから。

 そもそも何ができて何ができないのかはっきりわかっているのであれば、出来る能力スキルだけを伸ばしていけばいい。

 残念ながらそんな都合よくはいかないと分かっているので、アンネリに対する返答は「俺もそう思う」というものになるのであった。




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m(__)m

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