(6)魔物部屋

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 大小様々な大きさの部屋と一定の幅で作られている通路の組み合わせでできている第一層には、そこまで強い魔物は出てこない。

 とはいえ相手は魔物なので経験の少ない冒険者であれば、簡単にその命を刈り取られてしまうだろう。

 第一層は多くの冒険者が出入りしていることもあって、ほとんどが解明されている。

 この第一層は某ゲームのようにフロアの入れ替えが自動で起こるということも無いので、一度探索されたところが大きくその姿を変えるということは起きない。

 余談だが、ダンジョンによっては、定期不定期に限らずフロアの中身が変わってしまうところも存在している。

 ヘディンダンジョンの第一層はそうした不思議系ダンジョンではないので、冒険者ギルドで売り出されているマップを見ればどの場所でどの魔物が出現するか分かるようになっている。

 であれば第一層は簡単に攻略できるのかといえば、そうではないのがダンジョンというところだ。

 単純に第一層に出てくる魔物を倒せる実力が無ければ攻略など不可能だし、罠などの対処法も知っていなければ肝心のお宝を手に入れることもできないのである。

 

 というわけで特に攻略を焦る必要のない俺たちは、ゆっくり第一層を回っていた。

 ここらで出てくる魔物であれば余裕を持って対処できるため、ダンジョンの雰囲気になれるという意味で丁度いい階層なのだ。

 普通のフィールドとダンジョンでは連携の仕方も変わって来るところがあるので、それを確かめるためにも必要なことである。

 ちなみに第一層に出てくる魔物はモルテの町周辺でも出てくる魔物なので、個人の戦いそのものに戸惑うということはほとんどなかった。

 

 そんな状態でダンジョンに潜ってから二時間ほどが経っていた。

 そろそろどこかで休憩を取ろうかという雰囲気になっていたその時、ギルドで購入した地図を見比べていた俺はふとあることに気付いた。

「――ここの扉を開けた先は魔物部屋か」

「ちょっと待ちなさい。まさか入ろうなんて言わないわよね?」

 俺が何かを言うよりも先に、アンネリから鋭い突っ込みが来た。

 魔物部屋はいわゆるモンスターハウスで、大量の魔物が部屋の中にひしめいている罠の部屋だ。

 ダンジョン探索している冒険者で、そんな危険地帯にわざわざ入り込もうとする者はいない。

 

 鋭い突っ込みをしてきたアンネリに、俺は苦笑しながら首を振った。

「さすがに自分で自殺行為をしようなんてことは考えないよ」

「そう。それは良かったわ。……自分で?」

 俺の言葉のトーンから違和感に気付いたのか、アンネリは不思議そうに首を傾げていた。

「そう。俺は入らないよ。だけれど――ラック、ルフ、どう思う?」

「それは、私たちであれば問題ありませんが、よろしいのでしょうか?」

 俺の問いにラックがすぐにそう答えてきたてアンネリを見た。

 

 ここであからさまにアンネリを見てしまえば何を言いたいのかすぐにばれてしまうのだが、ラックはそれを理解したうえで敢えてやっている。

「まあ、今更だろうからいいんじゃない?」

「そうですか。それなら問題ありません」

「それじゃあ、お願――「じゃないわよ!」――おおう」

 半ば呆然とした様子で俺たちのやり取りを見ていたアンネリが、盛大に突っ込みを入れてきた。

 

「アンネリ。言いたいことは分かるんだが、本当に彼らなら大丈夫だから黙って見ていてくれないか? それに今なら周りに冒険者がいないからちょうどいいんだ」

「これまでの旅であなたの同行者が強いというのはわかっているけれど、それでもさすがに魔物部屋に入るのは……」

「まあまあ。俺も当人も大丈夫だと言っているんだから、とりあえず今は信用してもらうしかないかな。それに、一度確認できれば後は信用してもらえるだろう? ここは第一層だしね」

「でも……シルク?」

「あなたの常識に照らし合わせれば信じれられないというのは分かりますわ。でもここは私たちを信用してもらえないかしら?」

「……シルクがそう言うのなら」

 

 ここに来るまでの旅で一定以上の信頼を得てきたのか、アンネリがシルクの言葉にようやく頷いていた。

 だったら俺の言葉は信用できないのかと言われそうだが、そういうわけではない。……と、思いたいところだ。

 アンネリがシルクのことをより信用することになったのは、シルクが旅の間に魔物の一種であることを打ち明けてからなので、俺がすぐにそこまでの信頼を得るのは難しい。

 今の俺自身は魔物でもなんでもなくごく普通のヒューマンでしかないので、種族的に秘密があるわけではない。

 アンネリがシルクを魔物の人化した状態だと分かっても信用しているのはこれまでの行動の結果なのだが、そこに至るまでに紆余曲折があったからこそ今の状態があるともいえるかもしれない。

 

 しぶしぶという感じでアンネリが納得したところでヘリもそれ以上は何も言わなくなり、俺は視線をラックとルフに向けた。

「それじゃあ、お願いね」

「出来る限り早めに終わらせますので少しお待ちください」

「無茶はしなくてもいいからね」

「この程度の相手に無茶をすることなどありません」

「それもそうか」


 そんな軽口を叩きながらラックとルフは扉を開けて魔物部屋に入った。

 入り口付近にいる魔物が出てくる可能性もあったのだが、今回そんなことは起こらずに二人(一人と一匹)は部屋の中へと消えて行った。

 

 ――そしてラックとルフが部屋に入ってから五分が経ったか経たないかの頃。

 扉が開いて、ラックが出てきた。

「お待たせしました。もう大丈夫です」

 大量の魔物を倒したはずなのだが返り血のようなものは一切見当たらず、普段通りの姿のままのラックに俺は軽く「ご苦労様」とだけ返してそのまま部屋の中に入――ろうとしたところでアンネリの声に止められた。

 

「――ちょ、ちょっと待ちなさい! こ、こんなに早く終わるものなの!? ほ、本当に?」

「ラックたちにとっては数が多いだけの弱い魔物だからねえ。大方大技の魔法を一発使って生き残ったのを処理しただけで終わったんじゃない?」

「その通りです。特に素材にこだわっているようではありませんでしたから」

「そうだね。魔石以外は、特に必要なものもないかな」

 俺とラックのやり取りにアンネリは「そんな簡単に」と呟いていたが、やがていつもの調子を取り戻していた。

「こんな機会もないでしょうから、はやく確認しに行きましょう!」

 ――開き直ったとも言えそうだが。

 

 そんなやり取りがありつつも、俺たちは魔物部屋だった場所へと足を踏み入れた。

 ……と、たいそうな気分で入ったのはいいのだが、部屋自体は第一層にある他の部屋と何の違いもなかった。

 部屋の片隅ではルフがせっせと倒した魔物から魔石を回収しているが、それ以外には特に変わったところもない。

「罠部屋だから宝箱なんかもあるかと思ったけれど……ないみたいだね」

「そうね。拍子抜けといえば拍子抜けだけれど、もしあるとすれば他の冒険者が見つけているんじゃない?」

 魔物部屋が危険であることには違いないのだが、もし宝箱があるならリアルラックを狙って攻略しようとする者もいるだろう。

 魔物部屋はそれぞれの階層に出てくる魔物しか出てこないので、第一層ならばいくら数が多くても高ランク冒険者であれば攻略できるはずだ。

 それこそラックとルフがやったように、入るなり高位魔法で薙ぎ払ってあとは残った魔物を処理すればいいのだから。

 それにダンジョン攻略を進める際に、最初の一度は確認のためか事故で入ってしまうこともあるはずで、それらの結果からも宝箱などは期待できないということはわかる。

 

 とにかく魔物部屋だからといって特に変わったことは無いということがわかった。

 ――と、結論付けようとしたところで、ふと視界の片隅に違和感のようなものがあることに気付いた。

 その違和感に視線を向けると、その正体が何であるのかすぐに分かった。

 

 ――うん。なんで歪みがこんなところに出来ているのかね。




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m(__)m

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