(5)補助職

§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§




 ヘディンの町に到着するなり住居を借りられたのは良かったが、家具なども揃っていないのですぐにそこで住めるというわけではない。

 そのため家具類が揃うまでは宿屋に宿泊することにして、様々な準備を進めることにした。

 一番は家具探しや発注で時間が取られたりしていたのだが、ダンジョンの情報集めなども並行して行っている。

 さすがに、いきなり突っ込んで初見で攻略という蛮勇を行うつもりはない。

 それに関してはアンネリやヘリも同じようで、それぞれ分かれて情報収集を行っていた。

 男くさいイメージがある冒険者だが、魔法が男よりも女の方が適正が高いと言われていることもあって、実際のところはそこまで極端に男のほうが多いというわけではない。

 俺が見た感じでは大体三割から四割の間ほどが女性冒険者として活動しているように見える。

 アンネリやヘリは、そうした女性冒険者から情報を仕入れているようだった。

 

 そんなこんなで生活基盤が整えられて賃貸住居への引っ越しも無事に終わったあとは、いよいよ集めた情報を使ってダンジョン攻略開始となった。

 ……のだが、何故かダンジョン入口前を十人近い子供たちがうろうろしているところを見つけて首を傾げることになった。

「何故にあんなところに、子供が?」

「あら。知らなかったの? あの子たちは補助狙いの子たちよ」

「補助?」

「主に魔石運びとか、少し技術がついている子だと解体なんかもしたりするかしら。大体は将来を見越してダンジョンに慣れようって考えている子たちね」

「……それって大丈夫なの? 変なパーティとかに当たったら使い潰されたりしそうだけれど」

「……そうね。だからあの辺りに立っているのは、ほとんどが孤児になるわ。多少なりとも生活に余裕のある家庭の子だと、親が直接ギルドに依頼を出すこともあるわね」

「なるほど。そういうことになっているのか」


 そもそもが子供だけに大きな荷物を運んだりすることもできないので、補助職に期待されているのは本当にサポート的な役目である。

 料理ができれば途中途中の食事を作ったり、採掘ポイントがあれば採掘を手伝ったりなどもある。

 簡単に言ってしまえば、パーティの手を煩わすような細かい作業を行うのが補助職となる。

 ただしやはり懸念したように、おかしなパーティに当たって使い潰されたりといったこともないわけではないそうだ。

 

「ただその辺りはあの子たちも分かっているみたいでね。それぞれ持っている情報を使っているみたいよ。初見のパーティには絶対加わったりしないとかね」

「それは……商魂たくましいというべきか、身の安全を確保するための知恵というか。絶対ではないにせよ、行き当たりばったりではないのは安心材料かな」

「そうね。本当ならギルドが介入したりするべきなんでしょうけれど……お金のことを考えるとね」

「ああ。手数料分上がって誰も利用しなくなるか」


 ダンジョンに潜るパーティが補助職を雇うのは、ひとえに安く使うことができるためだ。

 冒険者ギルドできっちりと依頼として出されているならともかく、自らの力で稼ぐことを考えているパーティにとっては余計な出費はできる限り抑えると考えるものだ。

 ギルドを通して雇うとなると、どうしても税金分だったり手数料だったりで値段が高くなるため子供たちにとっても冒険者にとってもお互いにメリットが少なくなってしまう。

 その結果として、ダンジョン前で直接声をかけてもらうのを待つという形態になっているそうだ。

 

 そもそも子供の補助職は、稼ぎが欲しい子のために設けられている非公認の仕事という側面が大きい。

 行政側としても将来の冒険者を育成する手間が省けるとして、黙認しているというのが現状だ。

 ダンジョンが危険な場所であることには違いなく、普通の親であれば余程のことがない限りはこうした子供たちに混じることは許さないだろう。

 逆にいえば、この場にいる子供たちは経済的に困窮していることが確定している子たちともいえる。

 

 あまりにまじまじと子供たちを観察し続けていたせいか、アンネリが何やら含みを持たせた視線を向けてきた。

「興味があるの? 私たちはここに来たばかりだからまだ雇うのは難しいと思うけれど?」

「いや。そういうわけじゃないんだけれどね。どんな事情があるにせよ、たくましく生きているなと思ってね」

 事情が事情だけにもっと必死さがありそうなものだが、実際に冒険者に声をかけている子たちは時折笑みさえ浮かべて呼子をしている。

 少なくとも笑顔を浮かべる余裕があるくらいには、補助職という仕事は実入りがあるようだった。

「ダンジョンに潜れれば昼食は冒険者持ちというのが一般的みたいね。あの子たちにしてみれば、一食必ず食べられるというのは大きいでしょう。それにプラスして小遣い的なものをもえらえるのだからね」

「なるほどねー。危険だからとかそれ以前の問題として生きていくために必死というわけか」

「それもあるし、将来のことを見越せばね。先輩冒険者と仲良くなれば、実際に冒険者になったときにおさがりの武具をもらえたりすることもあるようだしね」

「そうか。武器なんかはどうやって用意するのかと思っていたけれど、そういう仕組みもあるんだね」


 長い月日の間に生まれたシステムなのだろうが、日本的な価値観でいえば非人道的だと眉を顰めそうなやり方であってもここでは必要なことだということがわかる。

 いずれにしても、今の俺たちはここのダンジョンに初めて潜る冒険者ということで子供たちには注目されてもいない。

 その子供たちから視線を外して周りを見てみれば、同じように子供たちに声掛けされずに真っすぐダンジョンに向かって行く冒険者も一定数いた。

 それを見て、確かにしっかりと選別はしているようだと納得したところで、俺たちは初めてのダンジョンへと潜った。

 

 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦

 

 ヘディンダンジョンは、第一層が古き良き迷宮・迷路型タイプのダンジョンとなっている。

 ただ迷宮・迷路型で壁があるといっても、馬車がすれ違うくらいの広さがあって最初に受けていた印象よりも広く感じた。

 魔物もそれくらいの広さが無ければ活躍できないからどの迷宮型タイプのダンジョンもそうなっているという都市伝説めいた話があるらしい。

 ちなみにダンジョンマスターとなっているプレイヤーによれば、そのあたりのことは完全にマスターの好みで分かれているそうだ。

 魔物が支配しているダンジョンではなく、自然発生したままのダンジョンの場合がどうなっているのかはよくわかっていない。

 世界樹や守護獣のようにきちんとした意思のある魔物がダンジョンマスターに収まっている場合は、プレイヤーのダンジョンマスターと同じことになっているはずだ。

 ヘディンダンジョンは未だに最下層が確認されておらず、今のところダンジョンマスターがいるのかどうかさえわかっていない。

 

 ――というのが一般的に言われていることで、実際にはユグホウラの眷属たちが攻略を進めて最下層まで確認したことがあるそうだ。

 その結果によれば、今のところヘディンダンジョンの最下層にいるダンジョンボスはシステマティックに出現している魔物で、意志ある魔物がダンジョンマスターをやっているということはないらしい。

 その時はあくまでも調査が目的だったので、調査隊の誰一人としてダンジョンマスターになることを望まなかったようだ。

 その話を聞いた時にはそうなったらそうなったで面白そうだと思ったのだが、それを一言でも漏らせば張り切ってダンジョンマスターを目指す眷属が出そうなので、心の中で留めておくことにしていた。




§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§


是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る