(4)到着

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 アルムクヴィスト領を発ってから半月ほどが経って、ようやく目的地があるヘディン領へと入った。

 通常の馬よりも足が速いレオがいるにも関わらずこれほど時間がかかったのは、折角の機会だからということで遠回りをして各地を見て回ったからだ。

 アンネリと因縁がある例の貴族を躱すために、直線に近い道程で行けるはずのパルパ領を避けて通ったという理由もあるのだが。

 それだけの期間、馬車という密室に近い環境で一緒にいればアンネリやヘリとの関係もどんどんと遠慮がなくなっていっていた。

 これから先どれくらい一緒にいることになるのかは分からないが、変によそよそしい態度で四六時中一緒にいることのなるので、お互いにとってもいいことだろう。

 俺自身も勿論そうだが、彼女たちもそのことを理解したうえで敢えて距離を詰めようとしていたきらいもあるのだろう。

 旅程の後半にもなればそうした打算的な関係も薄れてきて、ごく自然に接することが出来るようになっていったのはある意味でこの旅で一番の収穫だったかもしれない。

 狭い空間の中で長い間一緒にいれば当然のように発生する小さな喧嘩などもあったが、仲直りした後は気まずさがずっと続くようなこともなく普段通りに戻れたのも大きいのかもしれない。

 

「――あれがヘディンの町か」

「そうよ。ヘディン領唯一の町で、ヘディンダンジョンからの資源によって栄えている冒険者のための町ね」

「こんなことを仰っておりますが、お嬢様はヘディンに来るのは初めてでございます」

「ヘリ!!」


 旅の間にヘリがこうしてアンネリを茶化すようになったのも、大きな進歩の一つといえるだろうか。

 それはそれとして、話をしている間も近づいて来る町を見ながらアンネリが教えてくれた知識を復習がてら確認することにした。

「ヘディン子爵が治めている子爵領は、ほぼこの町とダンジョン近辺の土地だけで、町への検問が領の検問も兼ねているんだっけ」

「その通りよ。土地の狭さから子爵に収まっているけれど、ダンジョンから得る利益を考えれば伯爵になっていてもおかしくはないわね」

「数世代前のヘディン子爵は、昇爵を断ったんだっけ」

「そうよ。ヘディンが多く抱えるのは冒険者で、騎士の力も多くはダンジョンに向けられるためのものだからという理由だったらしいわ」

「なんかそれ、国同士の戦いにうちの騎士の力は当てにしないでくれと言っているみたいだけれど?」

「みたい――じゃなくてまさしくそう言っているのよ。戦が起こっても騎士の多くは送れない代わりに、昇爵は辞退するって」

「それが許可されるってことは、やっぱりダンジョンから得られる利益は国にとっても大きいってことだろうね。中級クラスのダンジョンでもそれほどってことは、よっぽと儲かるんだろうな」


 この世界でダンジョンは三種類ないしは四種類に大きく分けられている。

 階層が十以内で収まっているダンジョンが初級ダンジョン、三十以内は中級ダンジョン、五十以内は上級ダンジョンだ。

 そして五十以上になると特級ダンジョンとされているのだが、今のところそこまで到達した冒険者なり騎士なりはいないので、今のところ正式に特級ダンジョンだとされているダンジョンは存在していない。

 もっとも一周目の時に特級に当たるダンジョンは見つけていたのであることは知っているのだが、今のところそれを証明する手段がないので敢えて口に出して言ったりはしない。

 

 そんな会話をしつつも馬車はどんどんとヘディンの町へと近づいて行った。

 さすがに無人で動く馬車というのは怪しすぎるので、既に御者台に座っている。

 一応検問では馬車の中身を確認されることがあるので、検問用に質素な感じにモードを戻している。

 この切り替え機能があるので、豪華な馬車も遠慮なく使うことにしたのだ。

 

 貴族の子女であるアンネリがいるので貴族用の門を通ることもできるのだが、今回は敢えて通常の門を使って通ることにした。

 これはアンネリ本人があくまでも一冒険者として行動したがったためで、俺から何かを言ったということではない。

 そのアンネリにしても何が何でも隠したいというわけではなく、子爵家が何らかの形でかかわって来ることがあるようであれば、遠慮なく身分を明らかにするつもりのようだ。

 これについては俺が口出しするようなことではないので、好きなようにすればいいと考えている。

 

 ――というわけでちょっとした検問も滞りなく終わって、ヘディンの町へと入ることができた。

 町の造り自体は同じ国ということもあって、モルテの町と大した違いはない。

 ダンジョンがすぐ傍にあるヘディンは冒険者が多いことでも有名だが、モルテの町も辺境ということもあってか冒険者はそこそこ多かったのでそれも見慣れた光景だったりする。

 敢えて上げるとすれば冒険者狙いの屋台が多く立ち並んでいることがモルテの町との相違点といえるが、これも数の差で違いがあるくらいで大きな違いとは言えない。

 

 ヘディンの町はさすがに冒険者の町だけあって、ピンからキリまで様々な形態の宿屋が揃っている。

 ただ今回宿泊箇所として選んだのは宿ではなく、賃貸の一軒家だった。

 ダンジョンを攻略すると長期間町に滞在する冒険者も多く、パーティ単位で寝泊まりできる賃貸物件も豊富に用意されている。

 そうした物件は冒険者ギルドで多く取り扱いされていて、初めて町に来た冒険者も気軽に選択できるようになっている。

 

 勿論冒険者のためだけに用意されているものではないのだが、冒険者が優先して借りられるのはさすがに冒険者ギルドを謳っているだけある。

 もっとも商人ギルドは店舗用の職人ギルドは工房用の物件を扱っているので、どこのギルドに所属していると有利ということは無い。

 ヘディンの町で賃貸物件が多いのは、この町に多くの冒険者が出入りするためでそのための物件が多く用意されているだけだ。

 商人や職人が、それによって不便を被っているというわけではない。

 

「――で。無事に借りれたのはいいとして、家具はどうする?」

「勿論、買うか借りるかすればいいじゃない」

「ああ。どっちもあるんだ」

「勿論。買う場合は新品と中古どちらもあるけれど、新品は出来上がるまでに時間がかかったり、中古は無いものがあったりするけれどね」

「なるほどね。――今思ったけれど、馬車で使っていた家具も使えなくはないな。移動させるのが若干面倒だけれど」

「あら。あの家具も使えるのね。てっきり固定式だと思っていたわ。――どうするの? どう考えても馬車の中のものの方が品質は高いわよ?」


 アンネリに問われて考え込んだが、ここでヘリが助言めいたことを言ってきた。

「馬車のものを使うのは構いませんが、高価すぎて目を付けられるかもしれません。この家に他の者を招くことがあれば、ですが」

「なるほど。確かにそういう欠点もあったわね」

「お客様……招くことなんてあるかな? いや。あるか」

「なんでそこで私を見るのよ」

「いや、なんとなく? どちらかといえば、人見知りするのは俺の方じゃない?」

「キラと私で比較すればそうでしょうけれど、あなたも別に人見知りというわけじゃないでしょうに」


 貴族の一員として社交の経験もしているアンネリは、適度に距離を保ったまま会話をするという能力が高い。

 冒険者同士の場合は距離が近づきすぎるという問題も発生するのだが、そうしたやり取りを適当に躱すことが出来るのは一種の才能と言っていいだろう。

 そう考えると変に仲良くなってトラブルに巻き込まれやすいのは、俺の方かもしれない。

 どちらにしても、何があるのか分からないということで部屋に入れる家具は一般的に売り(貸し)出されているものにしようと決めるのであった。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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