(2)打算まみれのパーティ編成

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「――というわけで、パーティを組んでもらえませんか?」

 そう言いながら目の前で頭を下げてきたアンネリを見て、俺は内心で『そうきたかー』と唸っていた。

 アンネリは、前回一緒に不溶の雪原へ行った時の俺の言動をしっかりと辺境伯へと報告していた。

 その結果、守護獣が自ら辺境伯の元へと出張って来る事態になったそうだ。

 そして守護獣から幾つかの助言をもらった辺境伯は、どうにか俺との繋がりを保てないかとアンネリへ打診したそうだ。

 

 それらのことに関しては特に問題ない。

 むしろそうなるだろうと予想して色々と話をしたのだから、むしろ思惑通りといったところだろうか。

 問題なのは辺境伯から打診されたアンネリがどう行動するのかが分からなかったところなのだが、こうして直接的に頭を下げられるというのは想像の範疇になかった。

 色仕掛けしてきたり、辺境伯の娘という立場を使って仕掛けてきたりというのは予想していたのだが、一応(?)平民であるはずの俺に頭を下げるというのは考えていなかった。

 身分社会でもあるこの世界で、妾の子であるとはいえ貴族の地位にいるアンネリがこうも素直に平民である俺に頭を下げるなんてことはするはずがない――と思い込んでいたともいう。

 ついでにいえば、これで駄目なら仕方ないという気持ちも態度の端々に漏れてきているために、何となくこちらが悪いことをさせている気にさえなってきた。

 

 そんな気分を振り払うために、今一度アンネリとパーティを組むことに対するメリットデメリットを考えることにしてみた。

 まず一番に思いつくのはアンネリから様々な情報が漏れるだろうということだが、そもそもこれに関してはパーティを組もうが組むまいが大した違いはない。

 守護獣が直接動くような人物だということで、辺境伯は勿論のこと王家でも様々な手を使って俺に対しての情報収集を始めているだろう。

 アンネリがいることでさらに細かいところまで伝わってしまうこともあるかも知れないが、結局のところ普段の行動から気を付けなくてはならないという点では同じである。

 いっそのことアンネリを巻き込んで、表に出していい情報と出さない方がいい情報をフィルターしてもらうというのも一つの手段とすることができる。

 

 となると懸念点のほとんどが解決するわけで、残るはメリットになってくる。

 というわけで、改めてアンネリをじっくりと観察してみた。

 その特徴的な胸元をさらに超えて伸びている銀髪は、いわゆる姫カットと呼ばれる髪型にされていて冒険者をしている割にしっかりしすぎるほどに手入れがされている。

 さらにその綺麗な髪に負けないほどの――というよりもむしろ男性のほとんどはこちらに目が行くのではないかと思われるご尊顔は、まさしく人外の美しさを持っているクインに負けないほどに整っている。

 

 男が十人いれば十人とも振り返るであろうご尊顔に対して、すらりと伸びた手足を含めた体は見事な八頭身。

 元の世界にいたグラビアアイドルが裸足で逃げ出しそうな大人な体つきも、決して顔の印象を壊すようなことになっていない。

 そうさせているのは青い色をした強い意志を感じる瞳だろうか。

 ――まあ、ごちゃごちゃ言ってしまったが、はっきり言ってしまうとこんな美人と一緒に行動できるのであれば、こんなに嬉しいことはない。

 

 とまあ欲望丸出しの感想になってしまったが、実際のところ恋愛云々なんてことは全く考えていない。

 むしろ今の時点で手を出すようなことになれば、その後ろに控えている辺境伯や国家が面倒なことになるだろう。

 そんな面倒を乗り越えることができれば――なんて思わなくもないが、今のところは希望的観測でしかない。

 ――と、ここまで考えたところでふと『こんなことまで考えるということは、パーティを組む前提で考えているじゃないか』と思い至った。

 

 どうせ行動を監視されるのであれば、アンネリと一緒に行動していたほうがまだましだ――という言い訳まで考えたところで頭を下げたままのアンネリに告げた。

「構いませんよ」

「そうですよね。やはりこんな図々しい……って、はいっ!?」

「いやだから、パーティを組むのは良いですよ、と」

「え、ええっ!? だだ、だって、どう考えても私は辺境伯の監視でしかないわよ!?」

「いや。それを言っている時点でもうダメダメだから。というか、それを考えた上での結論だから」

「ええー……」

 戸惑いと猜疑心が混じったような視線を向けられて、思わず言い訳のように続けて言った。

「だってどうせ監視からは逃れられないでしょう? だったら最初から情報元に目に見える範囲にいてもらったほうがいいかなと」


 情報元という言葉に苦笑したアンネリだったが、それでも一応納得はしたのか苦笑して頷いていた。

 俺が普通ではないと理解しているアンネリは、どうせ監視から逃れられないということも分かっているのだろう。

 俺の簡単な言葉で、こちらが言いたいことを理解してくれたようだった。

 この理解力の速さもこれから先、何かが起こった時に色々な助けになってくれるはずだ。

 

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 そんなこんなでアンネリがパーティに加わったわけだが、正直なところ何か変わったことが起こるわけではない。

 今まで通りに不溶の雪原まで出向いて薬草採取をして、借りている作業場でポーションを作って売ったりするだけだ。

 

 そんな行動を一週間も続ければ、アンネリが少し退屈したような顔になってこう言ってきた。

「本当に、全く同じことの繰り返しだけね」

「それはそうだよ。何を期待していたんだい?」

「いやほら。秘密の討伐をしたりとか、高価なアイテムを作ったりとか」

「わざわざ騒動の種になるような行動はしたりしません」

「えー。つまんないの」

「つまんないと言われてもねー。――ああ、そうか。一つやって起きたいことはあったかな」

「なになに?」

「一度でいいからダンジョンに行ってみたいとは考えていたね」


 もともと計画していたことの一つを話すとアンネリは「ダンジョンかー」と言いながら何かを考えるような表情になった。

「そうなると領内にはないから別の領に行くことになるかな?」

「そうだね。別の領というか、別の国に行くことも考えていたけれど?」

「……一応助言だけれど、それは止めておいたほうがいいわ」

「その心は?」

「この国にいる限り守護獣様のお言葉が王家にまで届いているでしょうけれど、他の国は違うから」

「それかー。でも、それを言うと他の領も似たような状況じゃない?」

「それもそうだけれど、少なくとも他領の影なんかは王家の影が牽制してくれるはずよ」

「なるほど、それもそうか。となると行くとすればノスフィン王国内にあるダンジョンか」


 ノスフィン王国にあるダンジョンの数は全部で三つだが、そのうちの一つは隣の領にある。

 ただ大きな問題が一つあって、それを思い出した俺は思わずアンネリとジト目で見た。

「本当はパルパ領にあるダンジョンに行こうと思っていたんだけれどね」

「うっ。いやそれは……ハイ。ご迷惑をお掛けいたします」

 そう言いながら素直に頭を下げてきたアンネリに、俺も冗談だと言って右手を軽く振った。

 

 パルパ領は例の美男子の実家がある領で、アンネリがそこに向かえばひと悶着が起こることが想定できる。

 そのため何もせずにパルパ領のダンジョンに向かうのは得策とは言えない。

 となると残り二つのうちのどちらかに向かうことになるのだが、どうせだったら両方行ってみればいいのではないかというラックの言葉に、俺とアンネリは顔を見合わせて頷くのであった。




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m(__)m

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