(11)今後の方針

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 不溶の雪原から戻ってアンネリ、ヘリと別れていつもの宿屋へと戻った。

 そしてそのまま冷蔵できる収納庫から採取した薬草を取り出してポーション作りを始めた。

 不溶の雪原で採取できる薬草を使って作るポーションは他の誰にも真似できないはずなので、何かの拍子に大量消費されることになっても材料が枯渇するということがない。

 そういう意味では、誰にも真似できない技術となる。

 もっとも世界樹があるエゾには俺が一周目を生きていた時からダークエルフの里があり、そこでは冬の植物を利用した薬なども作られているはずだ。

 そのため独占技術というわけではないのだが、彼らが作る薬類が外に出ることはほとんどないだろう。

 あるとしても国内だけで消費されて、大陸に渡って来たとしてもごくわずかな量でしかないはずだ。

 そう考えると大陸の逆の端にいる今は、ほぼ独占技術といっても過言ではない。

 

 とはいえ使っている材料が違っているポーションは他の薬師が作っているので、この技術でぼろ儲け出来るというわけではない。

 そもそも人の生き死にに関わるポーションを使ってぼろ儲けする気は全くないので、他の薬師と同じように材料は秘密にしてちまちまと売っていくつもりだ。

 作ろうと思えばもっと効果が高くて安上がりに住む薬を作ることも出来るが、敢えてそれを表の市場に出すつもりはない。

 そうすることによって、他の薬師や住人の生活が脅かされる可能性があるのだから。

 

 ――そんなことを考えながら確保した薬草を使ってポーション作りを終えた俺は、別のことを考え始めた。

 それが何かといえば、なし崩し的に一緒に行動することになったアンネリのことだ。

 多少向こうが強引だったとはいえ、不溶の雪原に一緒に行くことになったことは別に今更どうこう思っていない。

 むしろあんな美人と一緒に行動できて役得だったとさえ考えている。

 

 問題なのはそこではなく、彼女の背後にいる辺境伯家であり、さらにそこから先に続くであろうノスフィン王国のことだ。

 このままアンネリとの関係が続けば、そこまで行きつくことになるのは間違いないと確信している。

 自分で言うのは何だが、これだけユグホウラのことに精通している人材を国が放っておくとは思えないからだ。

 もっといえば国にいるという守護獣が一緒にいる眷属たちの存在に気付けば、何らかのアクションをしてくるのは間違いないだろう。

 

 となるとやはりばれる前に逃げ出すのかといえば、それはそれで面白くないと考える自分がいる。

「――うーん。やっぱり中途半端は止めたほうがいいか」

「アンネリのことですか?」

 俺の呟きに反応して、クインがそう返してきた。

「だね。どうせこのままなし崩し的にこっちのことを探って来るだろうから、いっそのこと開き直ったほうが良いかなってね」

「隠れるとか逃げるとかはなしですか」

「別にそれでもいいけれど、そうなるとどこに行っても同じことが起きそうじゃない?」

 今回のことに関して言えば、たまたま珍しい存在であるアンネリがいたから起こったともいえるが、今後も絶対に起きないとはいえない。

 そして同じような問題が起こった場合に逃げ続けるというのは、折角この辺りで二周目が始まった意味がなくなってしまう。

 

「――というわけで、いっそのこと開き直ってしまったほうが良いと考えているんだけれどね。どう思う?」

「主様のお好きになさるのがよろしいかと。私どもとしては特に言うことはありませんよ」

「そうですね。加えていえば、変に縮こまっているよりも好きなように生きていく方が主らしいと言えます」

 クインに同意するように、ラックもそう言ってきた。

 さらに常に俺の傍に控えているルフも、寝そべっている状態から首だけを上げて意味ありげな視線を向けてきた。

「――ルフも同じ意見ってことか。それなら無理に隠し事をする必要もなく行くのはいいとして……そこまで好き勝手に生きていたように見える?」

「何を仰いますか。あのような最後を迎えられたあなたが何を言っても、これに関しては否定のしようがありませんよ」

 そう言いながら呆れと若干の怒りのような表情を浮かべるラックに、俺は素直に謝罪した。

 一周目の最後はあまりに急すぎてそう思われても仕方ないので、これに関しては反論のしようがない。

 

「まあまあ、ラック。それに関しては、今後ゆっくりと時間をかけて反省させればいいでしょう」

「確かに、少し性急過ぎましたか。私が言うのは今後しばらく控えましょうか」

「ええ~。これだけで勘弁……しないですね。はい。ごめんなさい」

 ラックとクインからそれぞれ非難するような視線を向けられた俺は、降参するように両手を上げながら反省の意を示した。

 足元にいるルフは我関せずという態度になっているので、こちらの味方になってくれる気配は全くない。

「ゴホン。とにかく、今後の展開次第ではユグホウラとの関係も明かしていくけれど、問題ないよね?」

「勿論ありませんが……すべてを知らせるのですか?」

 既にいつもの態度に戻っているラックに、俺は首を左右に振った。

「いんや。適当な理由付けはしていくと思うけれど……そもそも守護獣なんて存在がいる時点で、隠すなんて不可能じゃない?」


 俺の言葉にラックとクインは顔を見合わせて、確かにと頷いていた。

「となると口止めするかどうかが問題になりますが、いかがいたしますか?」

「あれ? そう言うってことは、守護獣との繋がりは切れていないんだ」

 現在各国で守護獣とされている魔物の多くは、以前ユグホウラで眷属に準ずる存在としていた魔物たちだ。

 そうした魔物に一部の領域の統治を任せていたのだが、それぞれがユグホウラから離れて独自に領域の守護をするようになっていった。

 ただ領域を守護しているといっても、守護獣がどういう形態で人族と関わっているのかはそれぞれで違っているので画一的な対応を決めることはできない。

「こちらと完全に敵対していることを公にしているところもありますが、そうでない場合は会話を行ったりもしますね」

「そうですね。特にこちらの領域に近い守護獣ほど繋がりを切らずに保っているものが多いです」

「なるほどね。とりあえず他はいいとして、今はノスフィン王国の守護獣が関係してくるか。――その辺はどうなの?」

 

 これまであまり関わることもないだろうとして聞いてこなかったのだが、今後はそうもいかないだろうということでしっかりと聞いておくことにした。

 そしてこの問いにラックとクインが交互に話をしてくれた。

 簡単に言ってしまえば、ノスフィン王国の守護獣との関係はそこまで悪いものではなく、むしろ他の守護獣と比べても良好と言える状態を保っているそうだ。

 聞けば大陸の西側にいる守護獣たちが次々にユグホウラから離れていく中、最後の最後まで独立することを選ばなかった準眷属だったそうである。

 

 だからといって今更ユグホウラに戻って来るように言うつもりもないのだが、それならそれで対応の仕方も変わって来る。

 敢えて最初から敵対的な対応をする必要もないはずで、だとすると今後についても無駄に高圧的な態度に出る必要もない。

 もっとも今の状況で相手の態度も変わって来るはずなので、その時々でこちらの対応も変えなければいけない。

 といってもそこまで深く国と関わっていくつもりはないので、むやみやたらとこちらに手を出してこないように忠告してもらうくらいだと考えている。

 

 それもこれも今後の展開次第でどうなっていくのかは変わって来るはずなので、とりあえずの方針として傍にいる眷属たちに伝えておいた。

 今後辺境伯家やその背後にいるはずの王家がどう出てくるかは分からないが、少なくとも逃げ回って肩身が狭い思いをすることになるのだけは止めておこうと決めるのであった。




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m(__)m

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