(8)歪みの発見

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 アンネリとの話し合いを終えた翌日、俺はいつもと変わらずに『不溶の雪原』へと来ていた。

『不溶の雪原』は辺境伯家が魔物狩りの禁止令を出しているからなのか、冒険者の出入りが極端に少ない。

 だからこそ癖のある俺のスキルや魔法訓練に持ってこいともいえるのだが、それ以上に有用な薬草類が採取できることが大きい。

 アンネリに薬草採取で来ていると話したのは嘘でもなんでもなくて、本当にそのために来ているといっても過言ではないのだ。

 ただし万年雪に覆われている『不溶の雪原』で薬草類を探すのには、ちょっとしたがいる。

 普通に生えている薬草を探すようにこの場所で探しても見つからないので、より冒険者が寄り付かなくなっているのだろう。

 その点森羅万象というスキルを持っている俺は、そのコツを把握しているので目的の物を見つけるのはそこまで難しくはないのである。

 もっともこの能力が森羅万象のお陰なのか、前世が世界樹の妖精だったからなのかはいまいち判断がついていないのだが。

 

 初めて薬草を見つけて森羅万象が発動をしたときのように、魔力操作で体中に魔力を満たした状態で周囲を探った。

 すると冬の植物で溢れている雪原の中に、ゲームの採取ポイントを示すような光のエフェクトのような輝きが見つけられる。

 そこへ行くと必要となる薬草が見つかるので、それを採取して薬草採取は終わりとなる。

 

 ……のだが、その採取方法には問題が一つあって、採取した薬草類をどう処理すればポーションとして役立てるのかが分からない。

 本来であれば誰かの弟子となってポーションづくりを学べばいいのだろうが、そもそも冬の植物は一周目の俺が作ったものなので人族の薬師が利用しているかが不明なのだ。

 折角何かに使えると分かっているのに利用しないというのは、生来の貧乏性が働いて勿体ないと思ってしまう。

 自ら採取した薬草を使って色々と試行錯誤しながら新しいポーションを作っているというわけだ。

 何をするにしても初めてのことだらけなので失敗も多いのだが、新しいものを作っているという楽しさはあるので続けられている。

 

 ということでこの日も実験用の薬草類を集めていたわけだが、その途中でふと視界の隅に気になるものが目に入ってきた。

「……おや?」

「主、どうかしましたか?」

 この時はたまたま隣にラックがいて、俺の変化に気付いてそう聞いてきた。

「あー、ちょっと質問何だけれど、あそこに光の柱みたいなのがあるのわかる?」

「はて……? 何も見えないのですが?」

「やっぱりか」

 恐らくそうなのだろうと思っての問いかけだったので驚きはなかったのだが、それでも俺にが見えたこと自体には驚きはある。

 その光の柱が何かといえば、プレイヤーの間では『歪み』と呼ばれているこの世界特有の自然現象だ。

 

 それぞれの世界で生きているプレイヤーがある一定の条件を超えるとと呼ばれる存在になる。

 解放者になることで、世界に満ちているマナの存在やマナから魔力へと変換する魔物やダンジョンの存在についても知ることができる。

 そういった知識の中の一つに、今目の前に見えている『歪み』のことも含まれる。

 ただし歪みについてはプレイヤー間でも未だによくわかっていない状態で、今もどういったものなのかと色々な角度で調査されている。

 

 一周目の人生だった時は、世界樹の巫女と呼ばれる者たちが歪みを見つけることができていたが、それ以外には歪みを五感を使って実感できる人族はいなかった。

 それは今でも変わらないのかとふと疑問に思った俺は、そのままラックに聞いてみることにした。

「――そういえば、今も歪みを見つけられるのは巫女たちだけ?」

「そうですね。……そういえば、妖精の中には見つける者もいるようです」

「なるほど。それはまあ、世界樹の妖精のことを考えれば不思議はないか。それ以外には?」

「さて。少なくとも私は聞いたことがありません。巫女となった魔物なんかはいますが、それ以外となると……」

 世界樹の巫女は、何も人族だけがなれるわけではないことは一周目の時にわかっていたことだ。

 特に、代を重ねた眷属に生まれることがごくまれにあった。

 生まれる頻度は非常に低いのだが、割合的には人族と変わらないだろうと考えられていた。

 

 詳しく聞けば今でもそれは変わらないようで、そうなってくると今こうして俺自身が歪みが見えているということがイレギュラーだということがわかる。

「――なるほど。主には歪みが見えていると……となるとやはり前世の影響でしょうか?」

「どうだろうね。そうだと思うけれど、実際のところはわからないな。もしかするとドルイドになれれば見えるようになるのかもしれない」

 ドルイドは元の世界では森や木々と深い関係にあったと言われているので、世界樹や精霊樹と繋がりができれば歪みが見えるようになってもおかしくはない……かもしれない。

 

 ただ少なくとも今のところはドルイドと呼ばれている存在は俺しか見つかっていないので、それを確認するのは不可能な状態だ。

「主が弟子を取ったりすると見つかるかも知れませんね」

「弟子ね。それは……いや。今は止めておこうか。とりあえず自分自身のことだけで手一杯だし」

「フフフ。そうですね」

 何故かラックは、何やらそう言いながら含み笑いをしていた。

 

 以前の経験から何か気になることがあればすぐにでも実験に飛びつく性格だということを知っているので、今回もいずれは弟子を取ると考えているのかもしれない。

 確かに気になることは気になるのでラックのその考え通りに弟子をとってみたいという気持ちもなくはないのだが、それ以上に今は自分のことで手一杯というのも本当のことだ。

 いずれは弟子を取ることも考えなくもないが、それは状況によって変わって来るだろう。

 

 とにかく今は、目の前にある歪みをどうにかできるか試してみることにした。

 といってもドルイドとしての本能(?)的なものが何か働いているのか、見つけた歪みに対してどうすればいいのかは何となくわかっていた。

 その感覚に従って腰にぶら下げていた精霊樹からもらった一振りの枝を持って、歪みに向けて軽く振ってみる。

 すると確かに存在していた歪みが、瞬きをする間もなく一瞬で消え去ってしまった。

 

 その枝を通して伝わってきた感覚によって、実際には消し去ったわけではなく歪みを吸収して世界樹の元へと送ったことがわかった。

 感覚的には、世界樹の妖精の時に行っていたことを枝を通して同じことをしているという感じだ。

 俺自身の体に何か違和感のようなものは残っておらず、本当に世界樹に歪みを送っただけということだろう。

 世界樹に送られた歪みは、その中で適切な状態の魔力へと変換されているはずだ。

 

「なるほど、こうなるわけか。となるとこの枝が必要になるのか、ドルイドになっていれば処理できるようになるのかが分かればいいんだけれど……今は無理か」

「比較対象がいないと調べようがありませんか」

「そういうことだね。とりあえず今は、俺自身が歪みの処理ができると分かっただけでいいや」

「おや。もっと調べないのですか?」

「そうしたいのはやまやまだけれど、そろそろ町に戻らないと着くころには暗くなってしまうからね」

「レオの足であればもう少しいることもできますが……中途半端になりかねないということですか」

「そういうこと」


 今からやりたいことをやってしまうと、熱中しすぎて戻るのが夜遅くになってしまいかねない。

 できれば翌日もここに来たいので、あまり夜更かしをし過ぎて寝坊するなんてことにはなりたくない。

 それなら今は検証を諦めて、明日以降に色々と確認してみることにした。




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m(__)m

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