(7)報告
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< Side:アンネリ >
最初はどこにでもいるようなごく普通の冒険者だと考えていた
そもそも私のことをしっかり辺境伯令嬢だと認識していたこともあり色々と警戒しながら話を進めようとしていたのが、あちらが持っていた手札は一部私の手に負えないものも含まれていたのだから。
何よ。我が家が監視用に置いている影の存在にしっかりと気付いているって。
しかも気付いていながら、しかもそれを放置して冒険者としての活動をし続けていたとか。
自由を売りに冒険者は、基本的に監視の存在が明らかになれば嫌悪の表情を浮かべることも珍しくない。
それを考えれば、彼――キラの行動は影にとっても傷のつかない方法を取ったといえるわ。
それが良いか悪いかは別にして、影の存在からすぐにどこかの貴族家がいることを察して、やましいことをしていないことを証明するために影を利用したのだから。
影にとってみればいいように利用されたともとれるが、彼らにとってはそれが仕事でもあるのでそのことで文句を言うことはないのでしょう。
思えば彼と普段から一緒にいる男女も、どこか普通ではない雰囲気を纏っているように感じられるわ。
特に直接話をしていた時に一緒にいた女性――クインは、ほとんど黙っていたにも関わらず色々と見透かされているようにも見えたの。
何故そんな『雰囲気』を彼女から感じたのかはわからないが、少なくとも学園に通っていた時にいた貴族の子女からは感じたことのないものだった。
ごく普通にギルドや町中ですれ違う時には感じなかったその肌感は、普通ではないと感じるには十分すぎるほどの感覚だったわ。
辺境伯家のお膝元の市中にそんな特異な存在が紛れ込んでいたことは、私にとっては非常に興味が惹かれる出来事だった。
この件に関しては、すぐにでもお父様に知らせた方が良いだろうと考えて、町はずれにある屋敷へと向かったの。
私が辺境伯家令嬢であることは知られないようにしているので、町の住民には見つからないように注意を払って。
知られたくないという事情があるからこそ学園を卒業してからはあまり家に寄り着かないようにしていたのだが、今回に限ってはそんなことは言っていられないわ。
辺境伯家令嬢であるにも関わらず一介の冒険者をやっている私は、お父様に見初められた妾の子。
ただよく話に聞くような貴族家内部のどろどろした関係はなく、むしろ正妻のお義母との関係は良好ではある。
お母様とお義母の関係が非常に良いものなので、そもそも関係が悪くなるはずもないというべきだろうか。
そんな関係があるからこそ、お父様と対面した時には笑顔でこう言われてしまったの。
「――もう少し家に帰ってきてもいいんじゃないかな、アン」
「無理を言わないでください。あまり頻繁に戻るとそれだけ見つかりやすくなるではありませんか」
「だったらいっそのことうちの子だと公表したほうがいいんじゃないかい?」
「それだと折角の隠れ蓑が活かせなくなります。――そんなことはどうでもいいのです。今回はお知らせしたいことがあって戻ってきました」
「学園を卒業してから中々家に寄り付かなくなっている娘がわざわざ戻ってきてまで報告したいことか。ちゃんと話を聞こうか」
最後の言葉を言い放った後のお父様の顔は、父親のものから辺境伯当主のものになっていた。
もしここで私がどうでもいい内容の話をしたとしても怒りはしないだろうが、それでも残念だと思われてしまうだろうか。
ただしお父様からの評価を下げたくない私としても、今回の報告に関しては興味を引いてもらえるはずだわ。
「先ほど『不溶の雪原』に出入りをしている冒険者に接触してきたのですが、その冒険者についてになります」
「へえ。そう言うということは、無用な狩でもしていたのかい?」
「そうではありません。実は――」
そう前置きをしてから私が感じた印象も含めて会話の内容を話すと、お父様の顔は完全に為政者のものになっていた。
「――なるほど。確かにアンがわざわざ言いに来るだけのことはあるね」
「お父様もそう思いますか」
「影からの報告がないから『不溶の雪原』内での討伐は確かにしていないようだけれど……さすがに色々と不可解すぎる。この件は私に預けてくれるか?」
「それは勿論です。ですが、私が接触するのも駄目ですか? 既に一度は『不溶の雪原』に一緒に行くことを約束をしたのですが」
「それは別に構わないよ。どうせうちの子だとばれているんだ。むしろ変に気を使わなくて済むだろう?」
「それはそれでどうかと思いますが、とりあえずわかりました」
約束を反故にしなくてもいいと分かってホッとした私に、お父様がこう付け加えてきたの。
「ああ、そうそう。例の件だけれどきちんと上に話が通ったよ」
「そうなんですか。よかったです」
「……本当に興味がないみたいだね。今となっては婚約解消も良かったと思えるか」
「領内での規則を守れないような男ですから。私と結婚したとしても家にいい結果を残したとは思えません」
「本当にね。早めに気付けてよかった。……ただこれで当面は新しいお相手が見つからなくなってしまったが……」
「気になさらないでください。どちらにしても冒険者を続けていくつもりだったので、そもそもそんな相手は見つけずらいでしょう」
私が笑顔になりながらそう言うと、お父様は渋々といった様子で頷いていた。
そもそもお父様は娘である私が冒険者などやらなくてもいいという立場なので、あの勘違い男との関係が切れたことでさらにその活動が伸びそうなったことに良い思いはしていないのでしょうね。
だからといってあのまま強引に結婚したとしても、余計にこじれるだけなので早めに婚約解消に動いたのだと思う。
私としてはまだわがままが通りそうなので、ホッと一安心といったところね。
一応報告すべきことはこれで終わったので、その後は軽く雑談をしてからお父様の部屋から退出したわ。
本当ならこのまま町に戻っていつも通り宿で宿泊と考えていたのだが、そこはきちんとお母さま方にも顔を見せなさいと言われて、結局実家に一泊していくことになってしまったのだけれど。
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< Side:辺境伯 >
娘であるアンネリが部屋から出て行くのを見送った私は、すぐに側にいるはずの影に声をかけた。
「おい。聞いていたな?」
「――はっ。私たちの存在に気付いていた一件ですか。一度仕掛けてみますか?」
「さて。どうしたものか。いずれにしても、あの子が一度はパーティを組むようだからそれを待ってからのほうが良いと思うがな」
「確かに。ではその後に接触してみましょう」
「変に力を図るような真似はしなくてもいい。それよりも話が通じるかを確認したいところだな。娘の話を聞く限りでは問題なさそうだが」
「我々の存在に気付いておきながら放置していたくらいですからね。ですが、何を聞きますか?」
「……いっそのこと正体を聞ければいいんだが、答えてはくれないだろうなあ……」
願望混じりに言ってみたものの、その陰から返ってきた答えは沈黙だった。
ただ言葉はなかったもののその態度はあからさまに「そんなわけがないだろう」と言っていた。
私としてもただの冗談のつもりだったので、本気で言ったわけではない。
ともかくその冒険者に対して出来る限りの身辺調査を行うように命令を下してこの場での話し合いを終えた。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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