(4)アクシデント

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 一口にポーションといっても作り手や材料によって品質に差が出てくる。

 ではどうやって売り手と買い手(この場合は卸し)が値段を決めるのかといえば、過去からの経験とそれまでの実績によるという割とざっくりとした範囲で決められる。

 すべての商人が鑑定スキル(プレイヤーが持っているものとは別)を持っているわけではないので、そうなるのも仕方ないことだと受け入れられている。

 ただし薬師なり錬金術師となって初めてポーションを卸すときだけは、きちんとした場所に行ってちゃんとした鑑定を受けなければならない。

 ポーションというある意味で命に関わる場面に使われる商品だけに、ポーション販売を開始するにはきちんとした資格を得なければならないということだ。

 一度資格を得てしまえばその後の面倒な手続きはしなくてもいいという現代日本からすれば杜撰なところはあるが、そもそも基本的に師弟関係で成り立っているこの世界ではそれでもやって行けるということだろう。

 さらにいえば、卸したポーションに関しては使用者の評判がダイレクトに影響するので、下手に効果を誤魔化して売ってもすぐに売れなくなってしまう。

 基本的にポーションを作れる職についている者は少ないので、それぞれの町や村で大切に扱われるということもおかしなことになりにくい要因になっていると思われる。

 

 ――と、うだうだと言ってしまったが、実際のところは何らかの『運営』のテコ入れが入っていると考えている。

 というのも最初に資格を与えるときに使われる検査器具は、前史文明の遺物を参考にして作られているとされているためだ。

 材料の関係で数多く作れないため一般には普及していないのだが、そんな都合のいい道具があるというだけでうさん臭さご都合主義を感じる。

 もっともそんな便利な道具があるお陰で簡単な審査だけで金策ができるようになっているので、ありがたく利用させてもらうわけだが。

 

 ちなみに一般の商人の中にも鑑定系のスキルを持っている住人はいるので、資格を取ったあとで簡単に騙せるというわけではない。

 油断しているとそうした商人の告発を受けて、あっという間に資格取り消しになってしまう。

 一度そうした理由で資格が取り消されると、次に資格の再発行を行うのは非常に厳しい道になっている。

 といっても何事にも裏道はあるのだが、俺自身はそんなものを利用するつもりはないので真っ当な売買を心がけていくつもりだ。

 

 というわけで商業ギルドで薬関係の資格証を手に入れた俺は、その足で冒険者ギルドへと向かった。

 少しややこしくなるが、冒険者証しか持っていない俺の場合は作ったポーションは魔物討伐で手に入れた素材なんかと同じように、冒険者ギルドに卸すことになる。

 これで商業ギルドにも所属しているのであれば個人の販売も許されるのだが、それがないので冒険者ギルドを通すことになる。

 

 どうしてそんなややこしいことになっているかといえば、税金関係でそうなっているためだ。

 商売で得た利益はいくらか町に納めなければならないのだが、その面倒な計算をギルドが引き受けてくれている。

 個人商店レベルであれば、そうした面倒な計算も商業ギルドがやってくれるというおまけつきだ。勿論その分の手数料は取られるのだが。

 冒険者ギルドに所属している俺の場合は、冒険者ギルドがそうした煩雑な手続きを行っているということになる。

 現代日本の知識があるプレイヤーとしては何故そんなことまでと思わなくもないが、すべてはしっかりと取り立てを行うためだと言われれば納得もできる。

 

 そんなわけで早速作ったポーションを売るべく冒険者ギルドへと赴いたわけだが、その窓口にたどり着く前にちょっとした邪魔が入ることになった。

「――ちょっと待てよ!!」

「嫌よ!」

 そんな声に意識を取られた俺は、思わず内心で盛大にため息を吐いていた。

 声の方を見れば一組の男女が言い争いをしていて、いつぞやの時に同じように喧嘩をしていた美男美女だということがわかった。

 その男女が常日頃から同じようなことを繰り返していることは、周囲にいる冒険者たちも一部同じような表情になっているのをみれば分かる。

 

 ただそれ以外の冒険者は違った反応をしていたので、気になった俺は隣にいた冒険者に小声で話しかけることにした。

「いつものあれだと思ったんですが、何か変わったことがありましたか?」

「ああ。どうやら恒例の喧嘩も今後は見れなくなりそうだぜ。あったらあったで騒がしいが、なくなると思うとそれはそれで複雑だな」

「はて……? あの様子を見る限りではとてもなくなるとは思えないのですが?」

「まあな。ただついさっきついに堪忍袋の緒が切れたのか、あっちの美人がパーティ解消をギルドに申請したんだ」

「ああ~、なるほど。それでこの反応ですか」

「そういうこった。これで少なくとも行き先関係で揉めることは無くなりそうだな」


 冒険者パーティというのは、何も冒険者ギルドに申請など行わなくとも勝手に作ったり解消したりできる。

 ただパーティ単位で依頼を受ける場合には、万が一死亡時のことがあることも考えてギルドに報告したりしている。

 そうした報告が済んでいるパーティが解散する時には、きちんとギルドに報告することになっている。

 そうしないと分かれて行動しているのに、行方不明と勘違いされて探されることになりかねない。

 

 話を聞いた冒険者からその手続きを終わらせたと聞けたので、確かにこれである意味でここの冒険者ギルドの名物の一つが見納めになるかも知れないとどうでもいいことを考えていた。

 もっともだからと言って何かが変わるわけでもなく、これからしばらくはモルテの町で活動を続けることになる。

 所詮は他人事なので納得できる情報を仕入れた俺は、特に気にすることなく目的通りにポーションを売ろうと担当窓口へと向かおうとした。

 その担当窓口へと行こうとそちらに視線を向けるのと、珍しく焦ったようなクインの声が聞こえてきたのはほぼ同タイミングだった。

 

「主様……!」

「えっ、うわっ……!?」

「きゃあ……!?」

 ガシャーン。


 たまたまタイミングが悪かったことに、引き留めようとしている美男の方を見ていた美女と彼女らとは全く別の方向を見ていた俺がぶつかるというアクシデントが発生してしまった。

 しかも手続きを簡潔に済ませようとたまたま手に持っていたポーションの何本かを、地面に落としてしまった。

 一応蓋はしていたが、ガラス製の瓶に入っていたポーションは見事にぶちまけられることとなった。

 これではどう考えても売り物にするのは不可能だ。

 

「主様、大丈夫ですか? すみません。警告が遅くなってしまって」

「いや。今のは俺が悪い。不用意に視線を外したから起こったんだしね。いくらクインでも注意するのは無理だろうね」

「ご、ごめんなさい!」

 呑気に状況を分析していた俺に、ぶつかってきた女性冒険者が頭を下げてきた。

 

「あー。気にしないでくださいとは言いにくいですが、お互いの不注意だったのでそこまで謝っていただく必要はないです」

「で、ですが……売られるつもりだったのでは?」

 少し狼狽えた様子の女性冒険者の視線は、床にぶちまけられているポーションに向かっていた。

「確かにそうなんですが、弁償しろというつもりはありませんよ」

「そ、そうなんですか?」

 こういった場合は高確率で弁償させられる……話し合いをすることになるので、女性冒険者は不思議そうな表情をしてこちらを見てきた。




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m(__)m

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