(3)木の人のポーション作り

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 採取した薬草を葉、茎、根ごとに分けてそれぞれの部位ごとに乳鉢に入れてゴリゴリと。

 最初にほんの少し入れた水にそれらが溶けていくのに合わせて、水も徐々に増やしていく。

 それら一連の作業の間中、魔力操作を行いながら少しずつ溶け込ませるイメージで魔力を送る。

 最初の内はゆっくり丁寧に、入れていた材料が細かく砕けていくごとに乳鉢で混ぜるのを早めていく。

 魔力を送り続けてかき混ぜ続けていると濃い緑だった色が、だんだんと青に近い色になっていく。

 そうしてここだと思うところで、魔力を送るのと乳鉢でのすりつぶしを終わらせる。

 水と混ぜながらすりつぶしたままの原液を先に用意しておいた漏斗に流し込むと余計なものが取り除かれた薬液が漏斗の下から流れて来るが、当然その間も魔力を混ぜ込むことを忘れない。

 作った原液を全て流し込んで、ちゃんとすべての原液の抽出が終わるのを待ってから漏斗の下に置いてあった容器を取った。

 

「――はい。これで終わりです」

 そう言いながらできたばかりの回復薬ポーションを差し出した相手は、薬師系プレイヤーのサエだった。

「ええっ!? これで終わりって……えええ? ちょ、ちょっと待ってね」

 そう言って驚きながら受け取ったポーションを持ちながら少し離れた場所に向かっていた。

 ここは広場にあるサエの作業場で、できたばかりのポーションを使って何やら作業をしていた。

「――ほ、本当だ。ちゃんとポーションになっているし……しかも狙い通りの効果もある。あ、味は……特に変わったところはない、のね」

 そんなことを呟いたサエは、何故だかその場でガクリと膝をついていた。

 

「えーと、大丈夫ですか?」

「だだだ、大丈夫よ! さすが木の人ね!」

 全然大丈夫じゃなさそうな表情になりながら立ち上がったサエに、どう言葉を掛けるべきかと悩んでから素直に聞くべきことを聞くことにした。

「ということは、あっちの世界で売っても問題ないということでいいですか?」

「勿論。ポーションとしての効果があることはちゃんとわかっていたことだしね」

 それじゃあ何故この場で作るように言われたのかが分からなかったが、とにかくサエが確認したかったことは確認できたらしい。

 

 そもそも今俺がここにいるのは、出来上がったポーションがきちんと評価されるかどうかを先輩であるサエに確認してもらかったからだ。

 一応検査用の道具も買っていて、それでポーションとしての効果があるのは確認できていたが、それが売り物になるかどうかはまた別問題だ。

 なのでサエを頼ってきたというわけなのだが、何故か俺の作ったポーションを見るなり顔色を変えてこの場で作ってみてほしいと言われた。

 今のところ作れるポーションは効果も低く特に隠すようなことでもないので快く了承した俺は、彼女の前の前でポーション作りを実践して見せたというわけだ。

 

「えーと、だとすると何が問題なのでしょう?」

「そうね。これははっきり言っておいたほうが良いわね。あなたが作っているところは、現地人には見せないほうがいいわよ」

「なるほど。何となくそんな気はしていましたが、具体的な理由を聞いても?」

「そうね。はっきり言ってしまうと、私が知っている限りではあなたの手順はあり得ないのよ」


 そう前置きをしてからサエが語ったことをまとめると、次のようになる。

 まず作業そのものの時間が短い。普通はもっと時間をかけてゆっくり作業を行うのだそうだ。

 それに作業工程の中で火を一度も使っていないこともあり得ないそうだ。

 そもそも薬草から薬効を抽出するために、茶葉のようにお湯に付けたりあるいは煮込んだりすることもあるようだ。

 

 ちなみに行程中に火を使うというのは研究段階で試してみたが、どこでやっても上手く行かなかったので省略していた。

 それが一般的ではない作り方に繋がっているといわれても、そうですかとしか返しようがない。

 火を使って作業をしても上手く行かないと分かっているので、これから先も使うことはないだろう。

 俺がそのことを話すとサエもそれでいいと頷いていた。

 

「――そもそも火を使うともともと持っている薬草の効果が落ちるというのは知られていることだしね」

「だったら何故、火を使うことが一般的なのでしょうか?」

「それは簡単。火を使わないとポーションは作れないから――と思われているから。少なくとも一般的には」

「あ~。なるほど。あちらで作業を見せないという理由はよくわかりました。ですが、何故私の場合は火を使わなくても出来るのでしょうね?」

「それも簡単よ。使っている魔力――というか魔力操作が尋常じゃないからね。確か二週目を始めてからひと月も経っていないのに、何よその魔力操作は」

「そこまでですかね? 妖精だった時と比べても五割も使えていないのですが……?」

「……そう。魔法使いたちの嘆きがようやく理解できたわ」


 呆れた表情で首を左右に振るサエを見ながら、俺はどんな反応を返していいか分からずにポリポリと頭を掻いて見せた。

 世界樹の妖精だった時にはさんざん言われていたことだが、俺の魔力操作は人族の間ではあり得ないほど洗練されていたらしい。

 そのイメージが残っているためにまだまだ修練不足だと思っていたが、サエに言わせれば今の状態でも十分あり得ないレベルだそうだ。

 もっともそう言われたからといっても、イメージ通りに使えるまで魔力操作の訓練を止めるつもりはないのだが。

 

「――魔力を使えば火を使う時間が短くなることを知られていたけれど、木の人のレベルで魔力操作が出来る薬師はこれまでいなかったのでしょうね。少なくとも私の世界では」

「なるほど。それでこの作り方も知られていなかったと」

「知られていないというよりも知る機会がなかったというべきじゃない? ……私ももっと魔力操作の訓練時間を増やそうっと」

「それが良いでしょうね。そもそも魔力操作は薬作り以外にも役立ちますし」

「普通の魔法を使う時とかにもね」

「そういうことです。ついでにいえば、より多くの魔力が必要な時にも役立ちますよ?」

「どういうこと?」

「わかりやすくいえば、より上位の魔法を使うには多くの魔力が必要になりますよね? そのために時間をかけて発動するわけですが、魔力操作のレベルが高いとその発動時間が短くできます」

「なるほどね。魔力操作が優れていると一度に扱える魔力が多いから発動時間も短くなるということね。……このことは魔法使いたちに言わなくてもいいの?」

「さすがに本職たちはきちんと気付いていますよ。まとめ用のメモ帳にもそのあたりのことは書かれていますから。問題なのは、生産系にも影響しそうということでしょうか」

「……どういうこと?」

「いえ。今まさに実践して見せたじゃないですか。話していて思いついたのですが、もしかすると火を使わずに魔力だけでポーションが作れたのはそのことも関係しているのではないかと」

「そういうこと。火を通さずにポーションを作るのには、多量の魔力が必要になるということね」

「ですです。薬草を潰しているときも抽出しているときも時間には限りがありますからその間に一定以上の魔力を込めないと駄目なんでしょうね」

「そう言われていると納得できる点は多々あるわね」


 魔力量についてはあくまでも今まで話していた内容からの推測でしかないが、恐らく間違っていないと思われる。

 いずれにしてもどの職についても、魔力操作は基本的な技術だということが改めて証明された。

 そんな魔力操作についてはともかくとして、できたポーションを普通に売る分には問題ないということがわかった。

 これで冒険者活動以外の新たな金策ができたことになる。

 ポーション作りを本職にするつもりはないが、適当に空いた時間に作って小遣い稼ぎをしようと目論むのであった。




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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。

m(__)m

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