(2)新たなスキル

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 それが見つかったきっかけはギルドの薬草採取の依頼をこなしている最中のことだった。

 以前の経験で目的の薬草を探すこと自体は難無くできていたので、採取の依頼に関しては特に問題なくこなすことができていた。

 その現象が起こったのは、何度目かの薬草採取の依頼を受けて目的の薬草を自らの手で摘み取ったときのことだ。

「……ん? なんだろう、この感覚」

「主様、どうされました?」

 薬草を摘み取ると同時に何か違和感を覚えた俺に、たまたま傍にいたクインがそう問いかけてきた。

「なんかよくわからないけれど、手先に変な感覚があったんだよね」

「変な感覚……大丈夫ですか?」

「言い方が悪かったね。ごめん。特に体に不調があるというわけではないよ」

 違和感を感じたのは手先だけで、体全体に及ぶようなものではなかった。

 さらにその感覚も既に消えていて、何かそれが悪さをしているようには感じなかった。

 

 その違和感がどうにも気になった俺は、これまでの癖のようなものでステータス画面を開いた。

 何かおかしなことがあればログとして残ることがあるのでそこで確認できればいいと考えての行動だったが、そのログを見る前にステータスそのものに今までなかったものが追加されていた。

 追加されたされた項目は所持スキルで、そこに追加されていたスキルが『調薬』というものだった。

「――わかりやすいと言えばわかりやすいけれど……きっかけは薬草採取だとして、なんで今更? 採取数が条件でもあったのかな?」

 よくよく思い出してみれば、一週目の時は薬草をはじめとして各種素材を自分で採取することはほとんどなかった。

 そのあたりのことは、仲間たちがほとんどやってくれていたからだ。

 

「……うーん。ドルイドになったからか、前世の経験から生えたのかがよくわからないな……」

「主様?」

「いや、ごめん。違和感の正体が分かったんだよ。とりあえず大事無いことが確定したから心配しなくてもいいよ」

「そうですか」


 俺の言葉に安心したクインが、笑顔を浮かべながら頷いていた。

 妖精だったころにはなかった感情がヒューマンになって復活していて、美人が浮かべる微笑という破壊力のある爆弾に気持ちが大きく揺り動かされる。

 とはいえ一緒に行動するようになって一週間以上が経っていて、既に慣れつつある自分に驚きもあるのだが。

 早いとこ慣れないといつまで経っても見とれるだけで時間が過ぎてしまうという醜態を晒すことになるので、出来る限り慣れておきたいところだ。

 

 そんな心の内の葛藤はともかくとして、新しく生えたスキルの効果を確認しておきたい。

 とはいえギルドで受けた依頼分の薬草はまだ摘み終わっていないので、手早く回収することにした。

 ドルイドになっているからなのか、前世の影響があるのかはわからないが、どのあたりに目的の薬草が生えているのかは大体の見当がつけられる。

 その能力を使ってあっさりと採取を終えた俺は、採取依頼を終わらせて宿へと戻った。

 

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 薬草採取のついでに余分に採った薬草を前に、俺は首を傾げていた。

「さて。スキルが生えたのは良いけれど、ここからどうすればいいだろうねえ……」

 師匠の一人でもいればよかったのにと思わなくもないが、無いものねだりをしても仕方ない。

 いっそのこと広場に行って薬師系のプレイヤーから薬の作り方を教わろうとも考えたのだが、いきなり奥の手を使うのもどうかと思って止めておいた。

 ひとまずは自分だけの力でどうにかしてみようという想いが大切だと思ってのことだ。

 

 そんな決意とは裏腹に、採ってきた薬草を手にとっても何かの反応が起こらなかった。

 手に取っただけで薬ができるのであれば、そもそも薬草採取をした段階で変わってしまいはずなので当たり前といえば当たり前だ。

 となると魔力を流してみるのはどうかと試してみるが、これも何の変化も起こさなかった。

 より細かいことを言えば、水が浸透するように薬草に魔力はしみ込んでいったのだが、起こった変化はそれだけでそれ以上は何も起きなかった。

 

 作業台に乗っている薬草を見ながら首を傾げている俺を見かねたのか、クインが話しかけてきた。

「薬師は錬金に通じるといいます。アイ様に聞いてみてはどうでしょうか」

「それね。一応ラックに頼んで聞いてもらったんだけれど『ドルイドの調薬と錬金が同じかわからないので変に助言しないほうがいい』ってさ」

「そうですか。ですが、確かに言われてみればそのとおりですね」

「本当にね。これで錬金スキルが生えていたらわかりやすかったんだけれど……無いものねだりをしても仕方ないか」

 そう言いながら大きくため息を吐いてみたが、それで目の前にある薬草が変化するわけもなく。

 

 そもそも採取したままの草の状態でどうにかしようとしたのが間違いかと当たり前すぎる反省をした俺は、思い浮かべるイメージのままに道具を揃えることにした。

 まず薬師や調剤師が使う道具で何を思う浮かべるかといえば、個体をすりつぶしたりするのに使う乳鉢と乳棒だろう。

 完全に俺の勝手なイメージだが、そもそも薬草を潰すという意味では間違っていないはずだ。

 となるとどこかでそれらの道具を手に入れなければならないのだが……。

 

「うーん……変に勘繰られるのも面倒だからやっぱり広場に行って手に入れるのが一番か」

「それはそうでしょうね。最初の内は元から持っていたといっても大丈夫でしょうし」

「だね。――よし。それなら早速買いに行こうか」

「お付き合いいたします」


 俺が復活している今ならば眷属であるクインも一緒についてくることが出来る。

 さらにルフを留守番役として部屋の中に留め置いて、広場に向かうための『道』を守らせることもできる。

 これで余程ことが起きない限りは、変な勘繰りを受けることもないはずだ。

 ルフには寂しい重いをさせてしまうが、それは宿の外にある馬房に繋がれているレオたちも同じなので我慢してもらうことにした。

 

 

 道さえ繋がっていれば広場までは一瞬で行けるので、目的の物を購入してすぐに戻ってきた。

 肝心の乳鉢や乳棒がどこに置いているのかで少し悩んでしまったが、それ自体は薬師系プレイヤーに聞いて解決した。

 ……というよりもそのプレイヤーが使っていたお古の道具を格安で譲り受けることになった。

 そのプレイヤーにとっては既に質が劣ってしまって使うことができず、始めたばかりの俺が使うのにはちょうどいいだろうということだった。

 乳鉢や乳棒にそんなに差があるのかと不思議に思わなくもなかったが、薬師としては大先輩のいうことは聞いておいたほうが良いだろうと素直に受け取ることにした。

 

 そのプレイヤーも敢えて余計なことは言わないようにしているのか、必要以上のことは言ってこなかった。

 その代わりに、もし行き詰まったりしたらいつでも教えることはできると言われたので、ありがたく礼を言っておいた。

 プレイヤー間での暗黙の了承になっていることがあるのだが、そのプレイヤーから求められない限りは余計なことを教えたりするのは止めるということになっている。

 たとえば剣技でいえば、様々な流派などがあるのに対してどのプレイヤーがどの流派に合っているかなどは実際にやっていないとわからないことがある。

 プレイヤー同士で師弟関係が成り立っているのであればそれも無視していいのだろうが、そこまでの関係になっていない場合は余計な口出しはしない方がいいとなっている。

 というわけで、俺から師匠になってくれと言わない限りは、そのプレイヤーもこちらに固定概念イメージを受け付けるようなことはして来ない。

 いずれにしても乳鉢の乳棒やその他の道具を手に入れた俺は、再び宿に戻って作業を再開をするのであった。




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m(__)m

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