(9)同一人物
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長い眠りから覚めたばかりアイは、何故かジッとこちらを見つめて来てからこう言ってきた。
「ドルイド……? どんな感じですか?」
「あ~。正直、よくわからないな」
「そう。とりあえず、布系の装備?」
「いや。多分鎧とかもつけれると思うけれど、俺が動ける気がしないかな」
「わかった。そっち方面で用意する」
「あ~。ありがとう……?」
「ん」
そう言って小さくうなずくアイを見ながら、何とも彼女らしいという感想を抱いていた。
どうやらアイは、俺に適した装備を用意してくれるつもりのようだった。
アイとそんな会話をしつつ次に向かった先は、ホーム周辺に用意されている建物の一つだ。
そこはアイたち
屋敷と呼べる規模だけに維持するのも大変だと思うのだが、そこは第二世代第三世代の眷属たちが喜んでメンテナスを行っているらしい。
しかもわざわざ俺専用として用意しているらしく、メンテナンス以外ではほとんど出入りがなかったそうだ。
そんな屋敷に入――る前に、もう一つの用事を先に果たしておくことにした。
その用事が何かといえば、精霊樹の時と同じように世界樹に触れてみるということだ。
これまた何が起こるのかはやってみないと分からないが、何故か今の俺にとっては必要なことだということだけは理解している。
何とも曖昧な感覚にも関わらず眷属たちはすぐにそういうものかと納得していたが、本来は世界樹に触れるなんてことは眷属たちが許さない。
その眷属たちも自ら世界樹に触れることはほとんどしていないそうなので、どれだけ厳しく規制しているのかが分かるだろう。
そんな眷属たちに見守られつつ世界樹の根元まで来てその幹に手を触れる――と、次の瞬間には懐かしい感覚に襲われていた。
少し慌てて周囲を確認すると、一週目の人生だった時にはよく訪れていた世界樹本体の中にいることがわかった。
「おー? なんでまた本体の中に?」
「それは私が呼んだからです」
「……おおう!?」
誰もいないはずだと思っていたのにいきなり後ろから声が聞こえてきて、内心で飛び上がるほどに驚いてしまった。
そうして後ろを振り返ってみれば、美少年とも美少女とも見える中性的な顔立ちをした子供(?)がニッコリと微笑みを浮かべながら立っていた。
「あ~……えっと、世界樹の精霊……かな?」
まさか自分の後釜がいるとは思っていなかったので、少し首をひねりながら問いかけてみる。
「半分正解でもあり、半分間違いでもあります。私が世界樹の妖精であることには間違いありませんが、あなた自身でもあります」
「へ? どういうこと?」
「少しややこしくなりますが、きちんと最後まで聞いてください」
少しばかり耳がいなくなる忠告をしてから、その子供は自分自身について話し始めた。
それによるとその子供は、もとは俺が最後の一週目の時の残した世界樹の妖精の分体(一部)だそうだ。
本来であれば分体として体が維持できずに消えてしまうはずだったのだが、偶然なのか必然なのか世界樹の中に保存される結果になったそうだ。
ただ、もうすでに俺の意思も残っておらず、ただただ残滓のようなものがあるだけだったので世界樹の中に漂うだけになっていたようだ。
俺が分体として活動していたように外に出るだけの力も残っていなかったのだが、俺の精神の残滓のようなものは残っていてこれまでの期間に少しずつ自我のようなものができつつあったと。
ただその速度は非常にゆっくりで、以前のように分体として活動できるようになるには今までの倍以上の時間があっても足りなかったそうだ。
ところが元が同じ俺が世界樹に触れたことで、それが一気に加速したというわけらしい。
「――なるほど。事情はわかった……んだけれど、そうなると眷属たちの扱いってどうなるのかな?」
「それは今までと変わらない。
「あ~。それは中々厳しいんじゃないかな?」
「えーと? 何故?」
きょとんとした表情で首を傾げられてしまうと、こちらとしても何故だろうという疑問がわいてきた。
とはいえ今のうちにはっきりしておかないと後々面倒なことになりそうなので、きちんと聞いておくことにした。
「いや。外に出て動き回りたいと思わないのかな?」
「さっきも言った通り私はあなた。あなたの行動の結果は全て私にも入って来るから、私が外に出ても大した違いはない」
「うーん。よくわからないけれど、そういうもんなのか」
「そう。あなたに分かりやすくいえば、私は常に保存され続けているあなたのバックアップのようなものだと思えばいい。あとはリモートで操作している無人ロボットとか。今は話をするにわかりやすく二つに分かれているように見せているだけ」
「あ~。口調を変えているのも分かりやすくするためか」
「そういうこと」
姿が見えない状態で話しかけられても混乱すると分かっているので、敢えて姿を作って別人のように話しかけてきたというわけだ。
そうなると何故その姿なのかという疑問がわいてくるが……何となく自分の性癖が暴かれそうだと察してすぐに考えるのを止めた。
「――とりあえず、世界樹に関する動きは私が勝手にやっておくから心配しないで。指示とか出してくれればこっちで処理しておくから」
「ん~? 世界樹の動きと言われてもな。具体的に何があったっけ? 領域関連のこと?」
「それもそうだけれど、歪みに関してもあるでしょう。時々詰まったり」
「あー。そういうことか。それはありがたいけれど……そもそも人族になっている俺が世界樹の中の処理ができるのか?」
「今みたいに外から直接触れて、中に入って来るっていう形になるけれどね」
「なるほどね。とりあえず勝手にそれをやってくれているというのは、確かに助かるか」
「そうでしょう? というわけで、精霊樹からもらった枝を頂戴」
「いや、何が『というわけで』なにかはわからないが……とりあえず、はい」
子供の俺(?)に言われるがままに精霊樹の枝を差し出すと、その子供は枝に触れていた。
「はい。これで私の用事は終わり。一応世界樹のものにアップデートしておいたから。それはもうあなた専用になっているから、驚かないでね」
「驚くポイントがよくわからないんだけれど?」
「あー、うん。あなたしか使えなかったり、離れていたところの置いていたはずなのに、いつの間にか傍にあったり?」
「……専用化はまだ分かるとして、後半はちょっとしたホラーに思えるな」
「だから先に言っておいたんだよ。その枝を使って何ができるかは、あなた自身で探してね」
「そう聞くと君はわかっているみたいに聞こえるんだけれど?」
「フフフ。それは秘密。それじゃあね。用事は全部終わったから元の状態に戻るね」
「あ、ちょっ……!?」
何やら最後の最後に含みを持たせた笑いを浮かべた子供は、待ってと言おうとした俺を無視してその場から消えた。
そこから数秒も経たずして、自分が世界樹の幹に手をついた状態で立っていることに気が付いた。
どうやら体感的には一分も経っていないという感覚があり、たまたま傍に寄ってきていたラックに確認すると首を傾げながらも「一分ほどです」と答えてくれた。
世界樹の妖精として過ごしていた時も、世界樹の中にいると時間感覚が違っていた時があったので不思議なことではないのだが、微妙な時間の差異があって感違和感が残ってしまった。
あの子供の話を聞くにこれから先も世界樹の中に入ることがありそうだと思っているので、この感覚には慣れないといけないなと思うのであった。
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是非ともフォロー&評価よろしくお願いいたします。
m(__)m
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