(8)ホームへ

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 ユグホウラの勢力圏には、各地を一瞬で移動できる転移装置が設置されている。

 開発された当初から大きさ自体はあまり変わっていないようだが、最初は一対一の移動しかできなかったものが複数の移動先を選べるようになっているように色々とカスタマイズされている。

 それ自体は一周目の人生の後半でも開発されていたのだが、今は言葉で行き先を言うだけでそこへ行けるようになったことなど、より利便性が上がっているようだ。

 そんな便利な道具だけに、転移装置を使える存在は限られている。

 各領土を統括しているしている魔物とその魔物が認めた数名くらいが、自由に使えるようになっているそうだ。

 ユグホウラは広大な土地を統治しているので、それでもかなりの数の魔物が自由に使えるといえる。

 ちなみに余談だが、別々の場所から同じ場所への転移が複数重なった場合は、権限もしくは序列の高さと緊急性で順番が振り分けられる。

 ユグホウラの魔物にとって序列というのは、少しの例外はあるものの基本的には世代数の若い魔物が高くなっている。

 

 クウに案内されつつ近くの転移装置まで案内された俺は、そのままクウの操作によってホーム近くにある転移装置まで転移した。

 するとそこでは精霊樹の近くに集まっていた魔物よりも多くの魔物が、俺の到着を待っていたかのように控えていた。

 そう考えると己惚れているようにも思えるが、実際転移装置を取り囲むようにして様々な魔物が思い思いに頭を下げているのを見るとそう感じても仕方ないことだろう。

 俺にとっては懐かしいともいえる光景だが、それに加えて誇らしさも感じてしまったのはやはり以前の経験が記憶として残っているからだ。

 

 そんな多くの魔物よりも転移装置から見て内側に八体の魔物が揃っていた。

 まさしく彼らはユグホウラを代表する魔物で、世代でいえば第一世代――俺からいえば眷属八体の魔物であった。

 人の姿を取れるものは人の姿に、そうじゃないものは魔物のままの姿で頭を垂れている姿を見ると先ほど以上の懐かしさが込みあがってきた。

 もっとも五百年以上という時を過ごしてきた彼らのほうが、俺以上に様々な感情を感じているようだった。

 

 今のままだと無言の状態が続くと察した俺は、まずは一言と考えて声をかけることにした。

「皆、ただいま」

 俺がそう声をかけると、眷属全員がハッとした様子で頭を上げた。

 中には涙さえ浮かべているものもいて、さすがに放置しすぎたかと後悔の念が浮かんできた。

 ただ二週目に入るまでの年月はこちらでコントロールできるわけではないので、どうしようもなかった事ではあるのだが。

 

 眷属内で誰から声をかけるのかという無言のやり取りがあることに気付いた俺は、若干苦笑気味に提案をすることにした。

「――折角皆に集まってもらったけれど、それぞれの業務に戻って貰った方がいいんじゃない? どうせ全員と一気に話すのは無理なんだし」

『ハッ(ハイ)』

 俺の言葉に眷属たちが一斉に頷くと、誰かが言葉にするでもなく集まっていた魔物たちがそれぞれの持ち場に向かって動き始めた。

 ここに集まっていたのは蜂や蜘蛛、蟻といった種族が多いはずだが、人族に近い姿を取っている者が以前に比べて増えているように思える。

 

 そして集まっていた魔物がある程度の数まで減ったところで、眷属の集まっているところまで近寄――ろうとしたところで、ふいに転移装置が作動した。

 今までは俺(とクウ)が転移装置の板の上に乗っていたので、後から来た者が詰まっていたのだろう。

 そんなことを考えていると、その転移装置で転移してきた魔物がいきなり俺に近寄ってきて子供を抱き上げるようにひょいと持ち上げた。

「ガウ! ガウガウ!!」

「こら、ファイ。久しぶりに会えて嬉しいのはわかったから、下ろしてくれないかな? それに、他の皆にしばらく恨まれることになるぞ」

「ガウガウ?」

「何故って、俺も今着いたばかりで他の皆と話もしていないからね。不意打ちっぽくなったけれど、一番乗りはファイになったね」

 俺がそう言うと、ファイはしまったという雰囲気を出して他の眷属――特に女性たち――を見ていた。

 その一部の者たちから何とも言えない視線が突き刺さっているのを感じたらしいファイが、一瞬身震いするを彼の腕の中に納まっている俺は感じ取ることになった。

 

 そんなファイの様子を見ながら考えていたのは、一周目の人生のときにははっきりと言語として感じていたファイの言葉が、何となくの感情として聞き取れるだけになっているということだった。

 一応言いたいことはわかるのでそれで不便があるというわけではないのだが、細かいニュアンスまでは聞き取り難くなっている。

「――そういえば、ファイは別の場所にいたみたいだけれど、他の二人……ゴレムはここまで来るのは難しいとして、アイはどうしているんだ? いつものように研究?」

 俺がそう問いかけると、ようやく誰が先に話すのか無言の争いに決着がついたのか、人族の姿に扮したシルクが首を振りながら答えてきた。

「いいえ。違いますわ。アイ様は、以前の主様が遠くに行かれてから一年ほど経ってから長い眠りにつかれました。なんでも『ご主人様がいない世界で起きていてもつまらない』とのことですわ」

「それは、また……。アイらしいといえばアイらしい……のかな?」

 さすがにそこまで極端なことをするとは思っていなかったが、確かにアイならそういうことをしてもおかしくはないだろうという思いもある。

 

 本来であれば長期間他の魔物の管理を放棄したことに怒らなければならないのだろうが、アイはその辺りのことを考えずに眠りにつくようなことをすることはない。

 俺が一周目を終わらせてから眠りにつくまで一年あったということは、きっちりとそうした役目を誰かに任せて(押し付けてともいう)から眠ったはずだ。

 そのことが容易に想像できるので怒るに怒れなかったりするのだが。

「――それじゃあ、とりあえずアイを起こしてから……あれ? どうやって起きるのかわかっているのかな?」

「それは、はい。……その、主様の手以外に起こされるつもりはないと仰って……何やら魔道具を用意していたようですわ」

「あー。なるほどね」

 これまたアイらしい行動に、いろんな感情がないまぜになって最後は苦笑することしかできなかった。

 恐らく一年の準備期間があったのは、部下への指示を出すのと並行してその装置の開発を行っていたのだろう。

 そこまで来ると執念さえ感じるのだが、恐ろしさのようなものを全く感じさせないのはアイのアイたる所以なのかもしれない。

 

 アイが眠っている場所はホーム近くにあるらしく、眷属全員を連れてぞろぞろと歩き始めた。

 ホーム近くになる転移装置は魔物の蟻種が掘った地下にあるので、そのまま地下通路を通って目的の場所へと向かった。

 ユグホウラの本拠地があるエドはこの地下通路が張り巡らされていて、地上を闊歩している魔物のことを考えると非常に楽に移動できるようになっている。

 ただし地下通路にもまれに魔物が出てくることはあるので、定期的に駆除は必須になっている。

 

 アイの眠っている場所までは、これまであったことを軽く雑談しつつ歩いた。

 俺はほとんど話すことが無いので聞き役に徹していたが、眷属たちはそれぞれ話すことが大量にあるらしく話題が尽きることはなかった。

 そうしてついたアイの寝所は、飾り気がほとんどなく他にある地下部屋と全くおなじ部屋だった。

 その代わりと言ってはなんだが、長い間眠りにつくことができるように様々な装置らしきものが所狭しと置かれていた。

 

 それらの装置を管理している人形ドール種に説明されながら一つ一つ装置のボタンやらレバーを動かしていった。

 結果として無事にアイを起こすことになるわけだが、途中で細かい突っ込みどころが色々とあったのはアイの茶目っ気ということにしておくことにした。




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m(__)m

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