(6)精霊樹の元へ

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 かつて――というほど俺自身にとっては古い記憶ではないのだが――世界樹の妖精だったときに、十一体の眷属がいるユグホウラという組織を作っていた。

 ユグホウラには、その眷属だけではなくその子供たちや眷属に準じた他の魔物が多数存在していた。

 眷属は世界樹の魔力の影響を受けて――というよりも世界樹の魔力によって生まれた存在であり、世界樹を大きく育てるために力を大いに発揮していた。

 ――と、ここまでの話だとすでに過去のことのように思えるが、実際には世界樹の妖精という俺の存在が世界から退場していても、ユグホウラという存在がなくなったわけではない。

 それを確信したのは未だに万年雪の中で繁殖する冬の植物があって、そこに侵入を阻む魔物がいるという話を聞いてからのことだった。

 逆にその話を聞いたからこそ、何をさておいてもまず真っ先にここまで来たというわけだ。

 

 話は変わって今俺の目の前にいる二体の狼は、十一体いた眷属のうちの二体の狼夫婦の一族だと思われる。

 最初にいた白い狼は微妙なところだが、後から来た個体はほぼ間違いないと確信している。

 狼をしっかり見分けができている時点で不思議だと思うが、これも森羅万象の効果の一つだと思うことにした。

 何とも万能感の漂うスキルだが、恐らく前世で使えていたスキルの効果すべてを内包しているのではないだろうかと思われる。

 

 俺を見て驚く狼を見ながらそんなことを考えていると、その後から来た狼が恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

『あの……名前を伺っても……?』

「名前は一応キラだけれどね。別に珍しくない名前じゃないかな?」

『それはそうかも知れませんが、その魔力でその名前だと少なくとも私はお一人しか存じ上げないです』

「まあ、それもそうか。いや、でももうちょっと危機感持ったほうがいいんじゃないかな」

 あっさりと俺のことを信じてしまった狼に、少しばかりユグホウラの管理体制が不安になって来た。


 魔力というのは一人一人性質が違っていて、指紋と同じように他人と被ることがないと言われている。

 それゆえに目の前にいる狼はすぐに俺が元世界樹の妖精のキラだったと判断したのだろうが、さすがにもう少し警戒心を持ってもいいのではないかと思う。

 ただ俺が今この場で暴れたとしても二体いる狼にかすり傷すら負わせることが難しいことはわかってので、敢えて話に乗っているということも考えられる。

 どちらかといえば、俺が元世界樹の妖精であったことを信じたいという気持ちが強いように見えるのだ。

 

『そのお姿で……いえ、おっしゃる通りです。それよりも、精霊樹のところに行きたいということでしたか』

「それか君の親に会いたいとも言ったんだけれど……そっちはもうほとんど必要ないか」

『いえ。是非ともお話されてください。ちなみに私の親の名はクウです』

「ああ。やっぱり君は第三世代だったか」


 予想通りの答えに、半ば独り言のように呟いて頷いた。

 ちなみに第一世代は眷属であるルフとミアで、第二世代は二人から見て子供、以降第三世代第四世代と続いていく。

 ユグホウラができたばかりの頃は必要なかった区分なのだが、月日が進むにつれて必要になってきたため単純にそう呼ぶことにしていた。

 それは今でも続いているようで、後から来た狼はしっかりと俺の言葉に頷いていた。

 

『はい。父も主の御帰還を喜ばれると思います。いえ、父だけではなく、皆が喜ぶでしょう。勿論私もですが』

「はは。そう言ってもらえると嬉しいな。それよりも俺が戻って来るって最初から知っていたみたいだけれど、どれくらいの範囲で知られているのかな?」

『どうでしょうか。少なくともユグホウラの皆は全員が知っていると思います。あとはヒノモトの民は為政者がほぼ信じているという感じでしょうか』

「ああ。ヒノモトの関係者も知っているんだ」

『というよりも特に口止めされてはいませんでしたから、あちこちで皆が話していると思います。ただそれを信じるかどうかは分かれていると思いますが』

「なるほどね。確かにそれもそうか。むしろヒノモトで信じる人が多いというのが不思議だな」

『ヒノモトは我々との結びつきが特に強い場所ですから。それに、タマモ様の存在も大きいです』

「タマモ? タマモが何かしたの?」

『何故かはわかりませんが、主がいなくなってから人族と積極的に関わるようにしておりました。――おや、いけませんね。ここで長話をせずに移動しながら話をしましょう。どうぞ我の背に』

「それもそうか。ありがとう」

『お礼など不要です』


 そう言いながら背を向けてきた狼に、白狼に手伝ってもらいながら何とか乗ることができた。

 一度乗ってしまえさえすれば、意外なほど安定感がある乗り心地だ。

 

 ちなみに話に出ていたヒノモトというのは、地球でいうところの日本のことだ。

 道すがらヒノモトの現状を聞いたのだが、今でもユグホウラとは良好な関係を築いているようだった。

 それには、先ほどの話にもあったタマモという狐の魔物の存在が大きく関与しているとのことだ。

 タマモは世界樹から見て眷属ではなく仲間のような存在なのだが、ユグホウラから離反することなくむしろヒノモトとの関係を構築するために積極的に動いているそうだ。

 

「――ふーん。タマモがねえ。いや、前から安定した地を求めていたからそれも不思議ではないのかな」

『私は話に聞いただけですが、そのようなことを仰っていたそうです。折角安定した土地を手に入れたのに、わざわざ崩す必要はないだろうと』

「ハハハ。確かにタマモらしいといえばらしいのかな」

『私はそこまでタマモ様と付き合いがあるわけではございませんが……おっと。そろそろ到着いたします』


 人の足で歩けばそこそこ掛かりそうな距離をあっという間に走ってしまった狼が、視線を真っすぐ前に向けていた。

 最初に出会った白狼は警備の任につくということで、すでに別れて別の場所へ向かってしまった。

 白狼は離れがたいという雰囲気を出していたのだが、背に乗っている狼に注意をされて渋々と本来の任務についていた。

 そんなやり取りも懐かしく思いながら見ていたのだが、口に出していうことではないと心の中にとどめておいている。

 

 狼の視線に合わせて先の方を見てみれば、周囲に生えている木とはまた違った雰囲気を持った樹が立っていることが遠目でもわかった。

 まさしくその木が目的だった精霊樹であり、ユグホウラの支配領域を示している大切な存在でもある。

 精霊樹がある場所はこの辺りを管理しているユグホウラの皆からすれば中心地ともいえるので、狼以外の魔物もあちこちで見かけるようになっている。

 一見部外者であるはずの俺が背に乗っているのは気付いているはずなのだが、警戒したりしていないのは既に話が通っているからなのだろう。

 

「うん。まったく変わりがないみたいだ」

『ハハ。変わってもらっては困ります。この辺りを預かっている私たちの管理を疑われてしまいますから』

「それもそうか」

『それよりも父を呼びますのでしばらくお待ちください。その前に精霊樹で用事を果たされますか?』

「いや。どうせだったら何をしようとしているのか見てもらったほうが早いと思う。それに折角だから他の皆と話をしているよ」

『父の足だとそこまでのお時間はお待たせしないと思いますが……確かにそのほうがいいでしょう』


 先ほどからこちらをチラチラと伺って来る魔物たちを見て、狼が苦笑気味の雰囲気を出しながらそう言った。

 自分も同じ立場に立たされれば同じようなことをすることが分かっているので、止めるに止められないといったところだろう。

 俺が止めるように言えば注意するだろうが、それもないので放置しているといった感じだ。

 俺も折角ユグホウラの眷属たちと会えたので、久しぶりに交流を進めようと皆を周囲に集めるのであった。




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m(__)m

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