(4)初の遠出

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 魔力操作がある程度のところまでできるようになったので町の外に出ることにしたわけだが、冒険者ギルドで最初に選んだ依頼は町のすぐ傍で取れる薬草採取だった。

 後から知ったことになるのだが、この薬草採取の依頼は常時出ていて冒険者たちの間では『子供のお使い』と半ば揶揄されているほどに簡単なもの。

 そんなこととは知らずに受けた依頼だったが、初の町の外への遠征(?)ということで若干緊張していたりもしていた。

 それに、周囲の冒険者がどう言っていようとも気にする必要はない。

 そう思える出来事が、初めての薬草採取の最中に起こった。


「…………おや?」

 ギルドの受付所の美人なお姉さんから聞いた採取地で目的の薬草を見つけて丁寧に採取をした瞬間、体に違和感を感じて思わずその手を止めてしまった。

 その違和感は、何かしらの警告のようなものを知らせるようなものだった。

 さらに付け加えれば初めて感じるような感覚ではなく、かなり昔に感じたことがあるような懐かしささえ感じる。

 

 とはいえ今の姿でこの世界に来てからはまだ半月も経っていない。

 となると一週目のときに感じていた何かと同じだということになり――。

「ああ、そうか。そういうことかな?」

 唐突にその違和感の正体を思い出した俺は、採取した薬草をしまいつつ周囲を見回した。

 

 今いる場所は、町から見れば北側に位置していて、背後に町を守る外壁があり反対側は大草原が広がっている。

 さらにその奥には小さめの山も見えているが、その辺りからは白い景色が広がっていた。

 噂を集めていた時に聞いてた通りに、あのあたりから万年雪が広がっているのだろう。

 歩きで行けばそこそこの距離がありそうだが、馬や馬車を使って移動すれば数時間もかからずにたどり着けそうな距離だ。

 逆にいえば、足の速い魔物がいれば一気に襲ってきそうな場所に町があるということになる。

 

 そんな風景を確認しつつ注意深く辺りを見回してみれば、ちょうど今採取した薬草と同じものが辺り一面に生えていることがわかった。

 さらにそれだけではなく、他にも有用そうな草花があちこちにあるのが確認できる。

「……なるほど。これが『強くてニューゲーム』の効果ね。妖精だった時の経験がまんま生きているわけだ。……となると」

 ふと思いついたことがあって、土を掘り返しても問題なさそうな場所を探して手をかざしてみた。

 そしてを使ってみると、見事に手をかざした先の土が畑として使えるくらいに綺麗に掘り返されていた。

 これは世界樹の妖精だった前世のときに開発した魔法で、まんま畑を作成することができる。

 

「これは……前世の経験が生きているだけじゃなくて、森羅万象のスキルに以前の魔法が含まれているってことかな? 要検証だな」

 前の人生で使えていた魔法が使えるとなると、目標の一つだった遠出もできるようになる。

 ただ前の経験があるからこそ分かるのだが、今の魔力操作のレベルだと使えない魔法も多いだろう。

 町の外に出て経験を積むのは大切だが、それ以上に魔力操作の訓練は必須事項だということがわかった。

 

 薬草採取で外に出る経験ができたのは嬉しかったが、それ以上の成果を思ってもみなかった形で得ることができた。

 一応今の魔力操作レベルでも町の周辺に出てくる魔物であれば倒す魔法は使えそうではあるが、それを確認するためにも魔法の訓練はしておきたい。

 ――ということで、折角町の外に出れたので早々に依頼分の薬草採取を終わらせて、以前使えていた魔法がどのくらい使えるのかを確認することにした。

 外壁の傍とはいえこの辺りは町の外になるので、辺りに生えている薬草類にダメージを負わせない限りは魔法の練習をしても怒られることはないだろう。

 

 そんなことを考えて魔法の訓練を始めたのだが、結果としてはかなりの大進歩といえる成果を得ることができた。

 それはいいのだが、やはり今まで以上に魔力操作の訓練を進める必要があるということも実感できた。

 世界樹の妖精だったときと比べて、魔法が発動する威力も速さも段違いで下の方だと感じるくらいにダメダメだった。

 実践で魔法を使いながら魔力操作を訓練するという方法もあるにはあるのだが、魔力操作単独で訓練をした方が格段に習得スピードは早い。

 以前の経験でそのことは実証されているので、今後は数日に一回町の外に出る依頼を受けながら基本は魔力操作の訓練を行おうと決意した。

 

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 初の薬草採取の依頼を受けた後は、魔力操作の訓練を多めにそれ以外には町の周辺で簡単にできる依頼を受けながら過ごした。

 そのお陰もあってちょこちょこ出てくるゴブリンや兎系の魔物を倒す経験を積みつつ、魔力操作に関しては大分以前の勘を取り戻せるくらいにはなっている。

 それでも以前と同じかといわれるとまだまだ足りない部分は多いのだが、遠出をしても問題ないくらいには魔法を使えている。

 町の外に出て幾つかの魔法を使ってその確信を得ることができたので、いよいよ町の遠くまで足を延ばしてみることにした。

 

 念のため討伐依頼を一つだけ受けてからギルドを出て、目的地に向かって歩き始める。

 目的地というのは、今まで遠目で見ていた山の麓にある万年雪がある地域のことだ。

 もし予想が当たっていれば、今以上に活動範囲を広げることができると期待しているのだが、実際にどうなるのかは当たって砕けてみるしかない。

 いや。本当に砕けてしまっては意味がないのだが。

 

 それはともかくとして、町を出て一時間ほど歩いた場所に来たところでふと何か気になる光景を見ることになった。

 その気になることが何かといえば、冒険者が使う道のど真ん中で美男美女が言い争いをしていたのだ。

 彼らは六人パーティのようで、その美男美女以外に四人のメンバーが遠巻きに二人の言い争いを見ていた。


「……のに……なのよ!」

「……っさいな! ……って……だろう!」


 ある程度遠く離れていても聞こえてきたその言い争いは、歩いて近づいていくほどにその声がはっきりと聞き取れるようになっていた。

「――だからって黙って行くことはないじゃない!」

「黙ってないとお前が反対するじゃないか!」

「当たり前でしょう!? 別に稼ぐ手段はあるのに、わざわざあそこへ向かう必要はないわ!」

「だからいい値で売れるって言っているじゃないか!」


 どうやらパーティで向かう場所についての言い争いのようで、俺が聞いていても両者が平行線を辿り続けていることがわかった。

 言い争いをしている美男美女の仲間たちは二人のやり取りを見慣れているのか、いつも通りと言った様子で完全にそのやり取りを無視している。

 ただ俺が近づいてきたのを見てなのか、仲間の一人の男がようやく仲介に入っていた。

 

「おい。その辺にしておけ」

「なんで……っ!?」

「やれやれ。周りに気付けないほど耄碌したのか」

「あなたに言われたくはないわ! どうせ気付いていなかったくせに!」


 一時落ち着きそうだった空気になっていたのだが、すぐに先ほどと同じような雰囲気になりかける。

 だが既に俺が傍にいるという認識があるためか、美男美女はそれ以上何かを話すようなことはしなかった。

 一応すれ違いをするときに一度だけ頭を下げておいたのだが、美男美女はそれに気付かずに通り過ぎていた。

 他の仲間はきちんとこちらの様子に気付いてそれぞれの挨拶を返して来てくれので別にいいのだが、こんな平原のど真ん中で周囲に様子に気付けなくなっていて大丈夫なのかと思う。

 

 とにかく言い争いをする男女――を含めた一行はそのまま町の方向へと向かって行ったので、次第に姿が見えなくなるほどに離れて行った。

 その後目的地である万年雪の近くまで来る頃には、そのパーティのことはすでに記憶の片隅に追いやられることになるのであった。




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m(__)m

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