第1章

(1)二周目初日

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 第二の人生として始まった場所は、どこか厩舎を思わせるような中折れ屋根で赤と白でデザインされた建物が多く建てられている町の一角だった。

 ただし町に出現したといっても、より詳しく話せば大通りのど真ん中に出たというわけではなく、家と家の間にあるような細道の人通りが少ない小道といった場所だった。

 辺りを見回しても人通りはほとんどなく、少し歩いた先にある井戸で奥様方が集まって洗濯や洗い物をしているくらいだ。

 いきなり人通りの多い場所ではなく目立ちずらい場所に出現したのは、運営の配慮なのだろうか。

 昔掲示板で見た他のプレイヤーも、最初は同じような状況だったと記憶しているので人族としてスタートする場合は皆同じような場所からスタートするのかもしれない。

 そんな初期スポーンの位置はともかくとして、人の町に出たことで、今世は人族スタートということが分かった。

 ゆっくりと歩き始めながらステータス画面が出てくるかを確認すると、しっかりと視界の中に目的の画面が出てきた。

 とはいえさすがに歩きながらだと邪魔になりかねないので、ある程度ゆっくりできそうな場所が見つかるまでは詳しく確認するのは控えておいた。

 

 人の邪魔にならない場所を見つけてから改めてステータスを確認すると、種族がヒューマンで職業がドルイドとなっていた。

 種族はともかく、職業のドルイドはいまいちイメージがつかめない。

 ドルイドといえば、西欧(北欧?)の森で何やら儀式なんかを行う神官的なイメージしか持っていなかった。

 そのため職業がドルイドと言われても、これから何をどうすればいいのか皆目見当がつかない。

 

 とりあえず頼りになるのはスキルかと思ってそちらも確認してみたが、唯一あるスキルが『森羅万象』というもので、これまたどういった効果があるのかは見ただけではわからなかった。

 名前だけは御大層なスキルではあるが、魔法的な効果があるにしてもいきなり町中で試してみるわけにはいかない。

 試しでスキルを使ってみて町に何らかの被害を与えると、そのまま牢獄スタートという事態も十分にあり得る。

 残念ながらこの世界は、プレイヤーが勝手に他人の家に入って物を漁ったりするような古き良きゲームとは違うのだ。

 

 ステータス画面のそれ以外の項目としては眷属があったが、そこは非表示になっている。

 以前のプレイだと多くの眷属が表示されていたのだが、ここが非表示になっていることに意味があるのだろうか。

 もしかすると以前のプレイで眷属だったとしても、今回は眷属にはならないということもあり得る。

 もっとも今の俺が眷属に会ったとしてもすぐに気づいてくれると確信しているので、現時点で非表示になっていたとしても特に心配はしていない。

 

 何故そこまで確信できるかといえば、これまた掲示板から得た情報で他のプレイヤーからの報告で色々と判明しているからだ。

 プレイヤーが一度この世界で死んで二周目を始めたとしても、持っている魔力紋は変わることがない。

 魔力紋というのは魔力の指紋に当たるようなもので、同じ魔力紋を持つ生命は人族であっても魔物であっても存在しないという。

 その魔力紋が以前のものと同じなのであれば、間違いなく眷属たちはこちらに気が付いてくれると信じている。

 

 ひとまずステータスからは大した情報が得られないことが分かったので、ひとまず冒険者ギルドを探してみることにした。

 スタートのオプションとしてついているのかギルドカードは最初から所持しているのだが、この町に来ていることを示すためにもまずはギルドに報告しなければならない。

 商人の護衛などの依頼を受けて新しい町に入った場合は、その依頼の達成報告と同時に記録されることになるのだが、依頼がない場合は町に来たことを知らせるのだ。

 ギルドカードは住民票的な役目も果たしているので、特定の町で活動する場合はきちんと知らせておいたほうがいい。

 

 というわけで、もしかするとテンプレ的な遭遇があるかもとほんの少しだけ期待に胸躍らせつつ冒険者ギルドへと向かったわけだが、特に何のイベントが起こるわけでもなく無事に終わった。

 ついでに初期所持品として持っていた魔物の毛皮を売って、現金を手に入れるというサブイベント(?)をこなしてから冒険者ギルドから退出した。

 ここまで何も起こらないと多少拍子抜けなところはあるが、そもそもテンプレ的なイベントは滅多に起こらないとも聞いていたので、次は手に入れた現金を使って宿探しをすることにした。

 といっても初心者冒険者に優しい宿の情報は既にギルドで仕入れているので、あとはその宿がある場所を探すだけである。

 

 そんなこんなで宿も無事に取れて、これで二周目の人生の一日目が終わり――というわけではなく、まだ少しだけやることがあった。

 それが何かといえば、ステータス画面を今一度開いて先ほど確認した時にはなかったとある項目を見つけて、そこにある文言を読み上げる。

「ハウス転送」

 その呟きに応じるように一瞬だけ体が光に包まれると、次の瞬間にはハウスへと転移していた。

 

 これが全てのプレイヤーが利用できる異世界とハウスを繋ぐことができる「ハウス転送」である。

 もしこれが一周目のプレイであれば異世界に慣れるためのチュートリアルをこなしてからでなければ使えない機能なのだが、既に一周目を終えている俺はすぐに使えるようになっていた。

 これも掲示板から仕入れた情報で既に分かっていたことではあるが、見慣れたハウスの光景を見ると何となく安心感が出てくる。

 とはいえいつまでもハウスにいるわけにはいかないので、二周目を始める前に用意していた一周目の時に手に入れた素材やら魔石やらを持てるだけ持って再び宿へと戻る。

 

 これで一日目の作業としては全て終わったので、夕食まで空いた時間を使って翌日以降にするべきことを頭の中でまとめておくことにした。

 まずはハウスから持ってきた素材や魔石を換金して、当面の生活に困らないだけの資金を得ておく。

 あまり換金しすぎると色々なところから目を付けられかねないので、町を回って相場を確認しつつ適度に売って行く。

 本当ならハウスには一生暮らしていけるだけの魔石が大量の置かれているのだが、それを売って豪遊してもあまり面白くはないのでやめておく。

 以前の世界のように色々な「遊び」がある世界ならいいのだが、この世界はそこまで都合よくはできていないので、あまり遊んで暮らすというイメージができないというのもある。

 

 とにかく換金して得た資金は当面の生活のために使っていくとして、その資金が尽きるまでの間にドルイドという職業で何ができるのかを確認していくつもりだ。

 特に『森羅万象』という少なくとも字面だけはご立派なスキルで、どんなことができるのかを確認するのは真っ先にやっておきたいことだ。

 ある程度スキルのことが分かれば、町の外に出て行ってちゃんと冒険者として活動して生活ができるようになっておきたい。

 

 最後にやるべきこととしては、今自分がいる場所がどこに当たるのかを情報を集めつつ知っておきたいということだろうか。

 二周目の人生は一周目と同じ世界に生まれるということはわかっているので、ある程度の地域は絞ることができるはずだ。

 何しろ俺が転生した世界は、地理的にはまんま地球だと判明している。

 さすがに近辺にある地形だけで世界のどこにいるのかを見分けるのは厳しいだろうが、それこそギルドで話を聞けば大体の位置は分かるのではないかと期待している。

 

 何はともあれ、まずは今の自分ができることをきちんと把握することから始めなければならないだろう。

 そう結論づけた俺は、ようやく落ち着いて少しゴワゴワする毛布に包まって二周目人生一日目を終えるのであった。




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m(__)m

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