第29話:4階淫魔エリス※
喧嘩している声が聞こえる。この声はやはりエリスのモノで間違えなさそうだ。部屋に入ってみると、エリスと魔王がいた。
「どうしてですか、魔王様」
「もうお前はいらぬ」
「私はなんのためにあちらの動きを偵察しに行っていたのですか……すべては魔王様のために」
エリスは泣いていたが、こちらに気づいたようで俺の顔を見て驚く。
「ロイ……全部あなたのせいよ」
いきなり俺に責任転嫁されたようで。そもそも味方だと思っていたエリスに裏切られていたのだから、ショックを受けるのは俺の方なんだけど。
けれど、魔法士ではなく淫魔だったのかよ。あの妙な色っぽさの理由がわかった気がする。とはいえ、ゲームの淫魔は小悪魔的なかわいい淫魔ちゃんだったから全然イメージとは違う。だから全くここでエリスと出てくるとは思ってもいなかった。
ここからはもはや予想もできない。それにここは魔物自身がエリスだということなのだろう。何も生き物は存在しなかった。
あるのは男が喜びそうなグッズの数々に、手錠、ろうそく、卑猥な衣装などがあるだけだった。あの淫魔エリーゼは口と手が上手なのが売りだったはずだがこんな趣味はないはずである。
「エリス、俺にまだ抱かれたいのであればコイツを落とせ。そして、骨抜きにしてしまえ。その間に俺はアーリエを抱いてくる」
「おい、アーリエって呼び捨てかよ。俺でもまだ呼んだことないのに……」
「ふっ。これだから童貞は無様だな。そこのおバカな騎士風情の奴でも童貞でもないだろうに」
魔王の言葉に俺は固まってしまう。「姫一筋」と言っていたはずのトーマスが経験者だと? ふざけるなよ。
トーマスを見ると恥ずかしそうに言った。
「いや……姫様を相手にするためには上手でないと恥をかくと思ってだな……娼館に行ったんだ」
「待って。ここ娼館とかあるのかよ。もっと早く教えてほしかった……」
ビリビリが来るかと思ったが、やはり反応がない。魔王はニタニタしている。
「ふっ、あのアーリエはうぶでいい反応をするな。最高だった」
「てめぇ、抱きやがったのか?」
覚えたてのファイアーボールをぶつけようとしたが、魔王が消えておりできなかった。
「ねぇロイ、あなたを虜にしたら魔王様は私を妃にしてくれるらしいの」
美貌を最大限に利用して俺に近づくと、艶めかしく俺の下半身を優しく触る。だが今の俺のモノは小さくて、触られた感触すらないのだ。
「エリス……君は味方だと思っていた」
「そうね。魔王様が復活してもなかなか誰も気づかないから笑いを堪えるの必死だったわ。挙句の果てにジョイの傀儡を解いちゃって面倒な魔族のアイツまで復活しちゃうし」
「えっ……なら魔王ってもうすでにあの時には復活してたってことか?」
「なんのために私があそこで働いていたと思っているのよ。魔王様がアーリエ姫を狙っていたからそれを阻止するために行ったのが始まりだわ」
「そんな……ならもっと早くに出てくれればいいじゃん」
「魔王様があなたの薬草の知識に興味を抱いたのよ。だから色々おもしそうだから今は待つと……」
「なんだよ。魔王は魔王らしく傍若無人に振り舞えばいいじゃないか。どこまでもテンプレから外すのかよ」
「まぁおしゃべりはこの辺で終わりよ。ロイあなたのものを舐めてあげるわ。立派なもをもっていたものねって大きくないわ。どうして?」
そこでパンっと手を叩いたのが、カノンだった。
「ふふふ。そんなの決まっているじゃないの。あなたみたいなおばあさんでは
興奮しないからよ」
「なんですって? 若いからって調子に乗りやがって」
エリスは怒ったせいなのか、あれだけ綺麗だった顔が般若のような恐ろしい死神にも近いようなよぼよぼの顔になっている。まさかこれが本当の姿なのか。カノンの挑発はまだ続いていたようだ。
「ほら、今に見てなさいよ」
何をするのかとカノンを眺めていたら、制服のブラウスのボタンをはずし俺の目の前で立つと、そのままブラスを広げて胸を見せつける。
「えっ……なんだよ。このラッキースケベな展開」
「バカだね、おっさんは。だからパパ活やるJKが増えるのよ。もっと大人もしっかりなさいよ」
なぜかカノンに怒られながらもそのまま胸に顔を押し付けられた。いや、そもそも俺はパパ活なんかしたこともない。金はあったがそんな警察沙汰になりかねない危険を冒すわけがないだろう。
とはいえまだ発展途上なお胸の弾力と張りは桁違いだ。やはり若さゆえに作られるものなのだろう。感心していると、耳元でカノンが囁いた。
「チロチロリン」
なんだか下半身が熱い。どういうことだ。てか確かに今俺はラッキーだとは思ったが考察してるだけで興奮はしていない。アーリエ姫が心配だからだ。
ふと、自分のズボンを見るともはや鉄パイプかというくらい大きな棒が反り立っているではないか。ズボンから付き破って天井向いているし。
そこで俺は気付いた。そうだ。このJKは視覚魔法があったんだ。だから触れればきっと……そう思い触ってみるとやはり小さい。ほぼないに等しい。この立派な棒はまやかしだ。
「なによ……そんな大きくなるなんて……前のロイも反応してたけどそこまで大きくはなかったわ」
マジかよ。俺反応していないと思っていたくせにモッコリしてたってことかよ。最悪だ。
「ふふふ。だからばばあは用無しだって言ってのよ。おばあさんはどっかに消えな!!」
いきなりカノンはギャルっぽく話し始める。厳ついな。
「いやよ……私は魔王様を……」
エリスは魔王様を欲しているようだ。ならこれはどうだろう。俺は言い案を思いついた。
「トーマス魔法で人間とか作り出せる?」
「そんな……自然の法則をひっくり返すようなことできない」
「そうか。なら人形とか。よく土から作り出すゴーレムだっけ? あるよね」
「あれか……やったことがないができると思う」
「ならあれを人間サイズに調節して1体出して、エリスちょっと待ってね」
トーマスは力を込めはじめるとミロリンは可愛く応援する。エリスはなにか仕掛けてくるかと思ったが、カノンのダメージが入り過ぎているのか黙って見ている。
立派な人型の人間ができた。よし、これなら大丈夫だ。
「カノン、視覚魔法をかけて魔王の姿と形に変更して」
「えぇ。どうして私が?」
「いいから」
「わかったわよ」
カノンが視覚魔法をかけるとエリスは叫んだ。
「魔王様……やはりわたしのところに戻ってきてくださったのですね」
抱き着きに行くとエリスはがっかりしたようだ。きっと気が付いたのだろう。トーマスが作り出したのは砂ではないとはいえ、たぶんあれを意識して作ったせいか固そうだ。
「トーマスあれってやっぱり……」
「あぁ、アリア様の像をイメージした」
「そうか。まぁいいや。ミロリンは嗅覚奪うってことは嗅覚を操れるんだよね」
「そうだにゃ。あれに魔王様の匂いをつけるのにゃ。マーキングだにゃ」
「うん。なんかミロリンからあんまり卑猥な言葉聞きたくないから早くやっちゃって。って魔王の匂いわかる?」
ミロリンは何やら首を横に動かし考えているようだ。しぐさがかわいいな。
「……たぶんこれ言っちゃうとダメな気がするにゃ。卑猥な言葉しか出てこないからどう答えていいかわからないニャ」
「……うん。ごめん。ならもう……頼みます」
なんだろう。今とんでもないイメージ像が流れてきたがまさかあれを魔王とミロリンがやっていただと……断じて許すことができない。俺の推しをあんなにも乱れさせやがって。マーキングどころじゃねぇ!!
ミロリンはあっという間にやってしまったようだ。見た目だけではわからないが女性陣3人がみんな「魔王様の匂い」ってうっとり顔をしたので間違いはなさそうだが……そんなにあの魔王はテクニシャンなのか。そうなのか。誰か教えてくれよ。
「エリス。この魔王とどこかで暮らせばいいんじゃないかな。君は基本的に治療を見ていればわかるけど悪い人じゃないだろう。単純に魔王様に気に入られたいだけの一心だったんだよね。ならほら、このにんぎょ……魔王様もどきと仲良く……」
言いかけたところでエリスが抱き着きに来た。
「ロイあなたって本当にできる男ね。最高よ。ありがとう。チュッ」
エリスは俺の頬にキスをして、魔王もどきを連れて空へと消えていった。あの魔王が喋られないということは言っていないが大丈夫だろうか。きっと恋は盲目だ。一緒にいればそれだけでいいだろうということにして、なんとか自分を納得させた。
「これでいい。あとは……」
「おっさんごめん。あのさ……」
カノンは言いにくそうに尋ねる。
「どうしたの? 眠い?」
「いや、そんな子供じゃねぇし。私、元の世界に帰りたいんだけど……」
「元の世界ってちゃんとしたゲームの中ってこと?」
「違うよ。日本に帰りたいけど帰れるかな……」
「えっ、君転生者だったの?」
「違うよ。本当は24歳でパパ活ばっかして性に奔放に生きていたんだよね。であるときそのパパ活の一人に死ねって言われてね。ナイフで刺されたんだよね。『でチャンスを与える。お前が金づるに利用してきたようなハゲ散らかしているもう一人の転生者のおっさんがいるからソイツの手助けをしろ』って神様に言われたの。もしそれができたら、意識を元のお前に戻してやるって……まぁ心を入れ替えたらって言う条件付きだけどさ」
「そうか……」
俺は複雑な気持ちで聞いていた。正直転生者が他にもいたことに驚きだが、俺をハゲ散らかしたおっさんという野郎はたぶんこの世界で一人しかいない。
「アリア様に言われたの?」
「えっ、なんで知ってるの?」
「うん。ならトーマスに連れて行ってもらって。アリア様に直接聞けばいい」
「ありがとう。おっさん」
「あぁ。ちゃんと次の人生は大事にしろよ」
「うん。あの魔王に無茶苦茶にされて、自分の体大事にしなくちゃって思い直したんだ」
「あっ、そう……なんか魔王ってやっぱ……そんなすごいの?」
興味本位から思わず聞いてしまう。ゲームで知っているとはいえ直接本人がいるなら本人に聞きたい。
「……やばいよ」
真っ赤な顔をして、下を向くカノン。そして、それに反応するかのようにミロリンもモジモジし始める。
「うん!! 二人ともごめん。俺が悪かったから忘れて。ほら記憶から決して!!」
「わかったにゃ」
「わかった……」
その言葉にショックを隠せない俺にトーマスはギョッとした顔で見ていた。
「お前……何を考えている?」
「何も考えていないよ。アーリエ姫を助けにいくよ。無事に連れて帰るって約束するから、ここは俺に任せてくれないかな?」
「大丈夫なのか……?」
トーマスは心配そうに俺に聞く。
「あぁ。カノンのことは任せるね。あと、カブトムシはジョイたちに。ミロリンはカフェでメイドとして雇ってくれ。あっ、トーマスが嫁にもらってもいいよ?」
「ロイ……俺は嫌な予感がするんだが?」
「なんでだよ。最後くらい俺にかっこつけさせてくれよ」
「最後だと……?」
「違う違う。そう言う意味じゃないって。この魔王城最後ってことだよ」
「そうか。ならいいが……無理するなよ。何かあればこれで転移をしろ」
トーマスはピアス型の魔道具を俺に渡した。
「うん。わかった。終わったらこれで転移する」
「頼んだ。アーリエ姫を救ってくれ」
「任せて!!」
「無事を祈る」
トーマスたちは転移した。別れた俺は1人深呼吸をする。
主人公は1人しかいらない。魔王か俺しか生き残れない。きっと蜘蛛男からもらったこの鍵が重要な気がする。
もし、俺がやられてしまっても、アーリエ姫だけは絶対に助けだす。そして、あの聖剣を持つトーマスとマリア様がいる場所にアーリエ姫さえ転移させればきっとなんとかなるだろう。
俺と同時に聖剣まで失うわけにはいかなかった。まぁほぼ無駄死になりそうな気もするが、今の俺は無能ではない。魔法も使えるし、治癒魔法も使える。
何よりも今のこのおっさんな田中秀一のままアーリエ姫に会うのは辛いが、ありのままを受け入れてもらうために全力でアーリエ姫のために戦うしかないだろう。それが今の俺ができる最大限のアーリエ姫への愛情なのではないだろうか。もし、受け入れてくれなかったとしても、俺はアーリエ姫と出会えて、愛を知ることができてよかった。後悔だけはしない。
俺は5階の部屋の扉を開いたのだった。
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