第28話:3階JKカノン
3階へと向かうと地下5階には獣臭い匂いが広がっていた。なにやら不穏な気配しか感じなかった俺だったが、グワーッという鳴き声によりそこにいるのものが何かわかってしまう。次はライオンか。百獣の王だよな。さすがにこれはヤバいんじゃ……
知らぬ間に俺は忍び足になっていると、目の前にはトーマスとミロリンが俺を背にしてくれていた。俺はなんだか情けなくないか。
「お前は……ロイ……無能な奴だなあ。魔王様の邪魔をする奴は許さない!!」
その響き渡るような声とは真逆のフォルムの姿のちっちゃなライオンだった。これは……まさしくフジオ先生の獅子〇じゃないか。懐かしい。懐かしさでその小さなライオンを撫でる少女に気づくのが遅くなってしまう。
「あれはカノンか?」
「あっ、おっさんだ。やっと来たのね。遅くない? 私この子手なずけちゃったから安心だよ。ほら」
カノンはライオンに手招きすると、そのライオンはカノンの前に座り尻尾を全力に振っている。
「お手、ちん××、おまわり」
ライオン、いや小さい犬にしか見えないが、嬉しそうに芸を披露していた。カノンは頭を撫でてモフモフしてあげている。ミロリンもその様子を見て興奮したようだ。
「なにこれ。あの子かわいい。私も触りたいニャ」
「いや、ミロリンの方が圧倒的にかわいいよ」
思わず俺が言うとトーマスに睨まれてしまった。もしかしてさっきのキスで目覚めてしまったのか。
「ガオー、ガー。 お前たち全員食ってやる。覚悟しておけ」
ライオンが俺たちを威嚇すると、カノンは「メっ」とライオンに叱る。ライオンはシュンとしたと思ったら、急におとなしくなった。
「どうしたの? ライオンちゃん」
カノンが話しかけても反応しなくなった。さっきまでのビュンビュン振り回していた尻尾がぴたりと止まっていた。
「ワハハハハ。お遊びはそこまでだ!!」
「まさか、この声は魔王」
「そうだ。偉大なる獅子よ。お前の本能を覚醒させよ」
魔王がそう言うとライオンは大きく成長した。まさにその様子は日曜の朝からやっている戦隊ものの変身シーンそのものである。
ライオンは俺たちに勢いよく走ってくると、凄まじい勢いでカノンの首元に噛みついた。巧みに前足を使って組み付いている。普通のライオンと違って5倍以上もある大きさだからかカノンは苦しそうな声を上げた。
「やめろっ!!」
俺が怒りを込めて叫ぶと、ライオンは吹っ飛んだ。
「ロイお前目覚めたのか?」
「何がだ? トーマスがやったんじゃないのか?」
「何を言う。お前の力だ」
「じゃあミロリンじゃ?」
「あたしは嗅覚を奪うことしかできないよ?」
「そうだよね……なら俺?」
ライオンが起き上がったかと思えば、今度はミロリンの方へと向かってきた。トーマスがそれを制止するが、ミロリンがトーマスを守ってしまったことによってミロリンの足からは血が出てしまった。
「ミロリン!!」
「よくもミロリンを……」
と言いたかったが、言ったのはトーマスだった。そのスキに俺はカノンの元へと駆け寄ったが、かろうじて息はしているようだったが瀕死に近い。
俺は治ってほしいと願いながら治癒魔法をかけると、傷口を塞ぐことはできた。マジでできたよ。俺すげぇって感心している場合じゃなかったんだ。出血がやばいよな。輸血とかできないし……
と思っていたが、倒れていたはずのカノンが目を覚ました。
「ありがとう。おっさんなのにやるね」
「カノンの目にはおっさんに見えているのかな。てか大丈夫なの? フラフラしない?」
「うん。私血の気多い方だからさ、大丈夫。でも、誰が見てもおっさんだよ?」
「えっ、嘘? 20代に見えない?」
「ちょっと、それなんかのギャグ? 無理だよ」
俺はカノンから鏡を渡されて、叫んでしまう。
「うわぁーなんではげてるんだよ。やばい。おっさんじゃねぇか。いつの間に……?」
驚いている場合じゃなかった。ミロリンの治療を……ミロリンに駆け寄ろうとしたら、ライオンがトーマスを貪り食おうとしていた。
「トーマス!! ファイアーボール!!」
俺はイメージをいっぱいにして、ライオンに向かって手を伸ばした。その大きくなったライオンは見事に真っ黒焦げになっていたのだった。
「トーマス大丈夫か?」
「ロイ……助けてくれたのは嬉しいが俺まで焼くつもりか?」
「うっ、ごめん。てか調節とかわからないし……てかさっきからアーリエ姫と連絡が取れないんだ。早く次に行こう」
俺はミロリンに駆け寄り、治癒魔法をかけていた。
「ありがとうにゃ」
かわいいが、アーリエ姫が心配で邪まな感情など生まれなかった。カノンが俺に尋ねる。
「ねぇ、次の4階は難しいよ。だって……魔王のお気に入りだもん」
「確か……エリーゼだよな。淫魔の」
「違うよ。エリスだよ?」
俺はエリスという言葉に衝撃を受けてしまう。
まさか……違うような。違うと言ってくれよジョー!!
「おっさんさ、JKがなんでいるか知ってる?」
「知らないが……話をしている時間がもったいから先に進ませてくれ」
「うん。なら階段上りながら話すね」
カノンは教えてくれた。この淫魔は本当は100歳以上を超えたおばあさんに近い化け物らしい。だから、若い子を見ると冷静さをなくして取り乱すらしい。
でも俺は思う。いやいや、君たちって接点ないよな。各自この部屋にいて出ることも許されないし、救うのも1人だから会うこともないよね。
そう考えた俺だったが、違うことに気づいた。魔王の妃として集まっているということはゲーム上描かれていないだけで会うタイミングはいくらでも会う機会はあるってことか。ってことはこのJKがいるってことは、この後の展開にこの子が必要ってことだな。
「わかった。教えてくれてありがとう。ならそのエリスを怒らせるために君がいるってことだね」
「そうだよ。エリスって淫魔だけあってね、人の懐に入るのが上手いから気をつけてね」
「あぁ」
たぶん、俺の知っているエリスだとしたら今度の戦いはやりにくくなる。そう思うと駆け上る速度が遅くなりそうだった。
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