第26話:魔王の城へ
トーマスが詠唱したが、もうすでに遅かったようだ。トーマスは混乱している。
「姫様が……どうしてだ。どこへ行ったんだ!!」
「魔王の城に連れて行かれたんだよ。魔王の妃候補してな」
「何を言ってるんだ。ロイ、お前がアーリエ姫の婚約者だろう。何を呑気にそんなことを言っているんだ!! 心配じゃないのか?」
「心配に決まってるだろ。アイツ変態なんだぞ。マイクよりヤバイ性癖の持ち主なんだよ。アイツはちょっと裏技してバグらせないとそういったプレイは見れない仕様になっているのに……どうしてだよ」
俺はゲームを思い出しながら後悔する。あのゲーム「18禁あなたは誰と結ばれる? ケモ娘、淫魔、JK、人妻、王女の乱れ祭り」。禁じ手と呼ばれる裏技を駆使しないと出てこない裏ルートである。魔王とヒロインたちのイチャイチャがエロすぎると規制がかかったが、ある工作で出せると言われたんだんだよな。
もちろん俺も当然やったわけなんだが……考えただけでも嫌だ。早く助けに行かないといけない。
「トーマス。魔王の城ってどこにある?」
「そんなのものない。いや、以前と同じ場所か……」
トーマスは悩んでいるようだった。何かヒントになるようなものがあったか考える。
「トーマス、魔王の城っていうのは黒い建物で5階建てなんだ。あとは……屋根のてっぺんにウサギだよ。ウサギ、しかも金ピカの置物がついているはずだ」
「そうか。ならわかったぞ。予想通り伝記で残っている場所と同じだ。ロイ転移するぞ」
「あぁ頼む」
俺たちは転移した。すでに魔王の城には魔物たちがたくさん放出されていた。トーマスの一撃であっという間に蹴散らしてしまう。あまりの瞬殺に俺は驚いてしまった。
「トーマス、強すぎでしょ?」
「こいつらが弱いだけだ。アーリエ姫はどこだ」
「頂上の5階の部屋にいるはずだけど、これダンジョン風になっていて倒していかないと進めないはずだ」
「ロイはなぜ、知っているんだ」
「う~ん。なんとなく?」
俺は正直にゲームだからだよと言いそうになったが、そもそもゲームという言葉がこの世界で通じない。ゲームと言えば、ボードゲームのチェスくらいだろう。
「まぁいい。お前も今は魔力量が俺より上のはずだから、たぶんロイも倒せると思うぞ?」
「えっ、マジで? 俺もファイアーボールとかウォーターボールとか出せるかな」
「論理的に行けばできる」
「ロイなんかどうしたの。急に賢くなったよね。伝記とか知ってたり論理的とかって難しい言葉も知っているし。筋肉とやるきがあればできるとか言いそうなところなのに」
「ロイ……ふざけている場合じゃないぞ」
「うん、ごめん」
俺は、トーマスに怒られるという何とも言いようのない気持ちになってしまう。そして、魔王の城の部屋に入った瞬間蒸し暑くなった。サウナに入っているようだ。トーマスが何かを見つけたのか驚いている。
「かわいい女の子がいる……?」
「マジか……」
やはりそうくるのか。もうこれは完全にゲーム通りと見て間違えなさそうである。
「ミロリン」
俺はそう呼んでみると、「にゃぁ」と答えた。うん。猫耳にあのかわいい尻尾の容姿に顔は童顔ときた。やばい。俺の推しのミロリンじゃないか!!
思わず興奮して叫んでしまいそうになったそのとき、腕輪が光るとビリビリと手に痛みが走る。
「いたいいたい」
「ロイ、どうした? あの女の子が何かしたのか!!」
トーマスはミロリンに剣を向けた。
「ダメだダメ。ミロリンは魔王の妃候補だよ。そんでもって救ってあげると、最終的ににゃんにゃんできるんだよ」
思わずゲームを思い出してしまい再びにやけてしまうと、ビリビリと痺れる。髪の毛が爆発するほどに電気を流されたようだ。
「もしかして……アーリエ姫」
俺がそう呼び掛けると、反応が返ってきた。
(ハーレムは許さないって言ったわよね?)
(てか大丈夫なんですか)
(今のところはね。なんかブライダルチェックという検査を受けさせられているから大丈夫よ)
(はい? そんな裏設定知りませんけど……)
(そんなことはどうでもいいけど早く助けに来てよ。そんなとこでにやつかないで)
(えっ、見ているんですか?)
(あなたの意識はその腕輪のおかげで読めるわよ。今までは離れていたら読めなかったけど。魔力が上がったおかげね)
(そうなるなら魔力が上がりたくなかった)
「おい、ロイ姫様と会話している暇などない。この女の子はどうするんだ。倒すのか? 手錠につながれているみたいだが……」
(アーリエ姫。そんなわけでここから倒していかないと助けに行けないんで待っていてください。もし無理そうならアーリエ姫の魔性の言葉でなんとか時間稼いでください。では)
俺は自分からシャットダウンしてみると、耳に砂嵐が入った。やった。俺にもできた。
「トーマス。その手錠さ、外した瞬間魔物出てくるんだよね。しかも、それカブトムシっていう夏の虫ね。男は一度は憧れる生き物なんだけどさ。全長100メートルくらいあって、迫力があり過ぎるんだよね。
「そんなカブトムシというやつは知らないがでかくても関係ないだろう。弱点とかないのか?」
光沢のある美しい甲羅は、思いの外硬かったはずだから打撃系はきかなかったし、無理やり倒そうとすれば恐ろしいほどに目がぎらついて、腹の下に胸角を入れ、頭角と挟み、持ち上げて投げ飛ばされるんだよな。何が弱点だっけ。思い出せない。
魔力ではないけど、今俺が持参しているのって薬草くらいだよな。そうだ。眠気薬で寝かしておいて、トーマスの収納魔法で捕獲してもらおう。カブトムシってなんかに使えそうだし。ゲームでは殺すけど俺は治癒魔法士なんだろうから、治療のために役立たせるべきだろうと意味のわからない正義心が目覚めていた。
「俺が手錠を外して、眠りを促す薬草を準備しておくから寝たら捕獲してくれる。で収納魔法で捕まえてほしいんだけど。容量的にやっぱり無理かな?」
「たぶん大丈夫だと思うが……殺さないのか?」
「うん。たぶんカブトムシ使えるはずだよ。漢方とかで生き物を使うこともあるし」
「そうか。なら合図を頼む」
俺はミロリンのところに駆け寄る。やはり画面越しではないミロリンの表情が最高である。にやつきそうになるがここは我慢だ。今電流を流されたら作戦が失敗してしまう。俺はミロリンのウルウルお目目にやられそうになりながらも、なんとか手錠を外しカウントを始める。
「3,2……」
「ご主人様にゃぁ。だいしゅきにゃ」
「ミロリン、今はそのセリフダメっ!!」
俺はミロリンに抱きしめられてしまい、喜んでしまって電流は流れるし、合図は出せないし、見事に失敗してしまう。
しかし、英雄トーマスはさすがである。冷静に生きたままの巨大カブトムシを生け捕りしていたのだった。
「ロイこれで大丈夫か」
「あぁ、ありがとう」
俺はトーマスへの申し訳なさでいっぱいになりつつも、ミロリンに別れを告げる。
「ミロリンこれで逃げられるからね。自由にこれからは生きて」
「いやだにゃ。ご主人様といっしょにいるにゃ。助けてくれた命の恩人だにゃ」
「うん、かわいいよね。ミロリン最高なんだけどね……いつもだったら君1択なんだ。でも、今の俺はアーリエ姫を選択してるんだよね。いや、選択って言い方は違うね。アーリエ姫が好きなんだ。だから……2周目があれば君を選ぶね」
(途中まで感心していたのに、どういうことよ。この浮気者!!)という声と共に電流が流された。
ミロリンは首を傾げてトーマスを見つめる。
「わかったにゃ。ならご主人様はこの方にゃ?」
「うん……そういうことにしとこうか」
俺は適当に返事をしてしまう。もう半分ビリビリで頭がしびれている。
「いや……俺は……違うが……」
トーマスは戸惑っているが、なんだか顔が真っ赤である。もしかして……俺は機転を利かすことにした。
「ミロリン、ご主人様のトーマスの手伝いをしてくれないか?」
「もちろんだにゃ。トーマスしゃまの助手になるにゃ」
「よし、トーマス。これで味方が増えたぞ。ミロリンは相手の嗅覚を奪うんだ」
「そうか。ならいいが……」
ミロリンはトーマスに腕を巻き付ける。クソっ悔しいな。羨ましいが俺にはアーリエ姫がいる。思わず頭の中で訴える。もしかして聞こえていたらラッキーだ。
(アーリエ姫、救った暁にはご褒美期待してますからね。だって俺これからこのハーレムに打ち勝っていかないといけないんですよ? まだあと3人セクシーな感じの女性たちがいるんですからね。それ相応のことはしてもらいますからね)
(……バカッ。そんなの救ってから言いなさいよ)
アーリエ姫に届いていたようで安定のツンデレキャラだった。キレているようだが、なんだか恥ずかしそうな声が逆に萌えポイントだった。
俺たちは2階へと向かうことにした。
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