第22話:呪いの解除
ジョイの横にはアリア様がいた。さすがのトーマスも驚いたようで一歩下がっていた。けれど、様子がおかしい。ジョイの腕にはアリア様がしっかりと腕を巻き付けているのだ。まさか、これはNTR(寝取られ)劇の始まりなのか?
「アーリエ姫、この度アイレン花の正体を調べるために神殿への入室許可ありがとうございました」
ピシッと敬礼するジョイ。なんか話し方が軍隊、いや、あの敬礼は警察か。もしかしてコイツは本当はマジで真面目なのかもしれない。
「いえ、ジョイはすごいわね。アリア様まで味方にしてしまうなんて」
「いえ自分、姫に忠誠を誓っただけであります」
「なんか、うん。ありがとう」
アリア様は「かっこいいわ。ジョイ、素敵よ」と終始のろけている。俺の存在に気づいたアリア様は一気に表情をしかめた。
「あら、おっさん。あなたは目に毒なのよ。あっち行ってなさいよ」
「おい、だから……」
言い合いしそうになった俺を守るようにジョイはアリア様の顎をくいと持ち上げる。
「アリア、そんな汚い言葉を話すような子に僕は育てた覚えはないんだけど?」
「あっ……ん……と、ごめんなさい」
シュンと静かになり真っ赤な顔になったアリア様。もはや乙女の顔をしている。ヤバイ。ジョイが本物だよ。トーマスは顔だけって感じだったけど、ジョイは確実に自分の物にしている。これが噂に聞く「アゴクイ」なのか。破壊力がありすぎる。女性たちが憧れるのもわかった気がする。
「素直なアリアには、あとでご褒美をあげような」
「えっ、あん、嬉しいわ。楽しみすぎるぅ!!」
おばさん、いや、アリア様だった。テンション上がり過ぎではないだろうか。ってもしかしてアーリエ姫を前にした俺ももしかしてあんな感じなのかと思わずアーリエ姫を見てしまうと、なぜかアーリエ姫は視線を逸らせてしまった。
おい、今のはなんだよ。教えてくれよ。
「アリア、それではアイレン花を説明をしてくれ」
「はい。でも、代償が必要なのよ、ジョイはわかっているわよね」
「あぁ知っているとも。代償はすでに払ってあるだろう? 俺という存在を……」
「キャー、ジョイ様!! 素敵よ。素敵!!」
「落ち着きなさい。アリア。これで文句はないだろう。それともあれかい。君は僕が必要ないのかな?」
「いえ、ジョイ様が私には必要です。トーマスは私を騙して逃げたのよ。ひどいのですわ。令嬢モノの婚約破棄みたいですわ」
「アリア、君はちょっとうるさいよ。ほら治療を頼む」
俺たちはアリア様とジョイのやり取りをポカンとした顔で眺めることしかできない。それもそうであろう。国の大切な神に対してジョイが偉そうに振る舞っているだけでなく、手玉に取っているのだから。恐るべしジョイ!!
だが、俺はアリア様に対して、アーリエ姫に呪いをかけた張本人だと思うと怒りがわいてしまう。それにやっぱり、いくら容姿が綺麗でもおばさんは無理だよ!!
アリア様は俺の顔を見る度に、不貞腐れている。その度にジョイに叱られるというなんだかじゃれ合いを見せつけられているような気もして非常にあの二人が痛いんだけど……
アリア様はやっとのことでアーリエ姫の胸の上にアイレン花を置いて、治療を始めた。
一気に周囲の空気がかわる。ふてぶてしい顔が腹立つが今は我慢するしかなさそうである。それにしてもなぜこんなに毛嫌いしてしまうのだろうか……俺はふと考えていると、アリア様が大きな声で詠唱したので考えずに目の前のことに集中することにした。
「ここに宿りし、呪いの災いを今解き放たれ。エイッ」
アーリエ姫の胸は光り輝き始めると、次第に苦しみ始めた。
「アリア様……アーリエ姫は大丈夫なのですか?」
と慌てたトーマスがアリア様に近寄ろうとしたが、風で吹き飛ばされてしまった。
「集中しているから近寄らないで。失敗するわよ」
その真剣な眼差しに誰もが息を飲み、見守ることにしたのだった。
「はぁ、終わったわ。ジョイ様褒めてー!!」
「あぁよくやった」
ジョイはアリア様の頭を撫でてあげている。なんだろう。なんか見慣れたきたせいかいい感じの2人に見えてきた。俺はアリア様にお礼を言う。
「アリア様ありがとうございます」
「アリア様の力はさすがでございます」
トーマスを見てみると、なぜか泣いている。
「どうしたの。アリア様がジョイと仲がいいからショックなの?」
「うっ……そんなわけないじゃないか。アリア様はなんて素晴らしいお力をお持ちなんだ。この膨大な魔力量からもよくわかる。うっ、うっ」
泣きじゃくるトーマス。まさか……また魔力酔いを起こしてしまったのだろうか。
「久しぶりに起きて力を使って疲れたから寝るわ。ジョイ様私を神殿にお姫様抱っこで連れてって」
「あぁ」
ジョイはお姫様抱っこをして、神殿へと向かった。ジョイは本当にあれでいいのだろうか。きっと真面目な彼のことだ。演じているに違いない。
俺はそれ以上深く考えることはやめ、アーリエ姫に駆け寄り尋ねた。
「アーリエ姫大丈夫ですか?」
うっすらと目を開き、俺と目が合う。
「私は……呪いは?」
アーリエ姫は人目をはばからずに自分の服を捲し上げる。慌ててその胸を俺は隠してしまった。この行為こそが嫉妬心からだろう。
「……アリア様が治してくれましたので、早く胸をしまってください」
「本当に……溶けたのね。よかった」
アーリエ姫が俺に抱き着いたが、生の胸が俺の顔面に当たる。
「ふがぁ、ふがぁ」
「あらごめんなさい」
「絶対わざとですよね?」
と言いながらも、俺は自分の服をアーリエ姫に巻き付けて胸が見えないようにした。その様子をアーリエ姫はニコニコとほほ笑みながら言った。
「ふふふ、バレたか」
「こんなときにふざけるのはやめてください」
「わかった。なら真剣に言うわよ。ロイ、結婚して?」
「いえ……俺にはまだやらなけれないけないことがたくさんあることに気づいたので無理です」
「やっぱり、釣れないわね。まだなのね」
アーリエ姫は笑っていたが、その笑顔はなぜか美しかった。
本当なら今すぐアーリエ姫を自分のモノにしたかった。だけど……今の俺では釣り合わない。だから、薬草医院カフェを軌道に乗せてちゃんと俺が無能ではないところを証明してみせる。
そして、俺はアーリエ姫と結婚する。あの豊満な胸を揉みしだき、あんなことやこんなことをしたい。初めての経験はどんな感じなのだろうか。俺はひたすら妄想を繰り広げて一人にやつきが止まらなかった。
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