第23話:薬草医院カフェ大盛況

 俺は神殿から出たその足で、薬草カフェへと行くことにした。さっさとやることをやって。アーリエ姫と早くやりたい。


 その一心だけで必死で頑張った。まずは、気になっていた患者別にカルテを作っていく。そして、その患者にあった料理を食べさせることができるように、患者の名前と病名、そして食べるべき食材をまとめた書類を作成することにした。


 とはいえ、俺は正直患者の名前や病名など知るわけもない。そこは、エリスやアダム、カーターにまとめ上げるように頼む。


 ジョイにおいては、薬草の知識が豊富だったため、薬の効能を書き出してもらうことにした。


 それにしても、俺すげぇ仕切ってんだけど? マジでこれが俺なのか? こんなにできる男だったのかよ。なんだよ。このみなぎるやる気と溢れんばかりの精力。俺の知識や統率力がすべてアソコの活力と直結しているように頭が冴えている。


 アーリエ姫を抱きたいと思えば思うほど、仕事が捗るのだ。それはいいのだが、このどんどんと溜まっていく精力が発散できないのはどうしたものか。自家発電するにも、部屋では監視の目があるようで気になってしまう。


 そろそろ限界かもしれないと毎日下半身に手を伸ばすも、この自分の仕事の順調さが、この精力を源にしていたら……と考えるとどうもできなかった。


 ジョイたちのおかげもあって、3週間ほどでその書類はまとめ上げることができた。ただ、それらの食材を見て料理長であるエリックが作るというスタイルになってしまった。処方箋要らずなのは助かるが、エリックを頼り過ぎではないだろうか。


「エリック、無理していないか? 大丈夫? あれだったらこっちでおおまかなメニューを考えるけど?」


「大丈夫だ。むしろ、やりがいがあって。楽しいぞ」


「そう? ならいいんだけど。料理長お任せメニューも大人気だもんね」


「まぁな。俺の腕にかかればなんだって美味しくしてみせるぞ」


「ハハハ。頼もしいよ。よろしくね。なんかあったら教えて」


「おぉ」


 エリックはこうして、その後も大活躍してくれた。


 薬草の知識はオリビアも詳しそうだったが、まだ学生の身だ。あぶなかっしい部分あるだろう。念のため配分表は書面を作るべきだろうと考えていたのだが、その必要はなかった。ジョイがすでに使っていたようである。


 オリビアはその書類を眺めては頬を染めていた。もしかして、オリビアって……そういえば、前もジョイに媚薬飲まされていたよな。そういうことなのか……?


 ちょっと残念だけど、初めてはアーリエ姫と決めているから何の問題もない。って俺オリビアともやる気だったのかよ。節操ねぇな。


 そんなことを思いつつ、俺は俺で一般的な人を対象としたメニューを作成することにした。


~メニュー表~※参考文献あり


1、チキンときのこ野菜のスープ(心と体を元気にしたい人向け)

2、サバのターメリック揚げ(ストレスや精神的にしんどい人向け)

3、サムゲタン(冷え性向け)

4、オレンジセロリサラダ(便秘の人向け)

5、長ネギたっぷり卵雑炊生姜風味(風邪症状)


~ドリンク表~※参考文献あり


1、ペパーミント、レモングラス、レモンバームのブレンドティー(リラックスしたい人向け)

2、リンデンフラワー、レモンバームのブレンドティー(安眠したい人向け)

3、ダンディライオン、ハイビスカス、ローズヒップブレンドティー(夏バテ・疲労回復したい人向け)

4、エルダーフラワー、ジンジャーのブレンドティー(冷え性の人向け)

5、カモミール、牛乳で作るホットミルクティー(胃もたれ・消化不良向け)

6、フェンネル・ローズ・ローズヒップブレンドティー(便秘の人向け)

7、ラベンダー、レモンバームのブレンドティー(頭痛がする人向け)

8、エキナセア、カモミール、リンデンフラワーブレンドティー(風邪予防・引き始めの人向け)

9、ダンディライオン、フェンネルのブレンドティー(ママ向け:母乳が出やすくなる)

10、アーティチョーク、ペパーミント、レモングラスのブレンドティー(二日酔い人向け)


 本当ならもっとゴマを使ったアンチエイジング用の料理、トマトやニンニクといった効能がある食材の料理も作りたかったが、一応ここは飲食店ではなく、薬草医院カフェということを考え、料理は5つに絞ることにした。


 そして、飲み物は薬草カフェである薬草に注目して、ブレンドティーばかりにしてみた。本来なら精油にして顔に塗ったり、髪に塗ったりとお手入れにも使えるのだがそこまでは今回はやめておくことにした。いずれできればいいとは考えているが今はまずはこれでやっていけるかどうかが問題である。


 実際に、始めてみるとエリックのおまかせメニューは俺の予想をはるかに上回るスペシャルな料理を作り出した。エリックの腕がよかったということもあり、順調に通院患者たちに食べさせていくことができたようだ。そのおかげで医院に通う通院患者も、誰もいなくなったのである。


 それからというもの、薬草医院カフェは調子の悪いところがあれば診察してカフェで食べて帰ればすぐ治ると評判になっていた。エリスもなぜか毎日診察をしにきてくれるようになった。カフェでの食事を取るようになり、便通がよくなり肌の調子もよくなったからだそうだ。


 食事療法で難しいようであれば、薬も渡すこともできるようになったので、当然治りも早いだろう。これで一安心である。


 そろそろアーリエ姫にプロポーズを申し込もうと思っていたある日、アーリエ姫から珍しく呼び出しがあった。あれ以来会っていなかったので、なんだか緊張した。


「ロイ、落ち着いて聞いてくれる?」


「えっはい」


 俺は薬草医院カフェを軌道を乗せたから褒めてもらえるのだろうと思っていた。もしくは、結婚だろうと予想して顔のニヤニヤを抑えることができない。


「あのね……ロイ……」


 いつもははっきりとモノを申すタイプのアーリエ姫が奥歯に物が挟まったような言い方である。厳しい表情からもいつもとはかなり様子が違う。


「アーリエ姫、何かありましたか?」


「えぇ。残念な話なんだけどね、あのルノニア国のラパス治癒院だけど……潰されてしまったわ」


「えっどうして……」


 俺は動揺を隠せずにいた。どうでもいいと思っていたが、やはり俺にとっては育ったところというのが大きいせいか、狼狽えている自分がいる。


「ルノニア国の陛下がね、私への呪いのことに激怒したらしくて……」


「なぜ陛下が?」


「陛下は私のファンなのよ。私の絵画が城中飾られているの見たことない?」


「えっ……城の中とか入ったこともありませんので、そんなこと知りませんよ。でも、それなら前回のマイクからの婚約話も断れたのでは?」


「……えぇ……それはね、陛下が私のファンなのは私的なことよ。国同士の話となると、簡単に自分の都合だけで反対はできないわよ」


「いやいや、陛下ですよ? 国の長ですよ。権限あるでしょうよ」


「そうね。でも、陛下的には私が自分の国にいる方が嬉しかったんじゃないの。愛人にならないかっていうお誘いもあったくらいだし?」


「マジか……あんなじいちゃ、じゃなくて陛下……エロエロじゃねぇか。まだ現役なのかよ」


「ふふふ。現役かはしらないけど愛でるのが好きらしいわ」


「アーリエ姫それ以上は聞きたくないです。俺、変な妄想をしてしまいます……」


「そうね。また妄想であんなやらしいことされたら、さすがの私も今度は限界だわ」


「……なんかすみません。それでラパス家は?」


 俺は話の続きを促すことにした。もう妄想なんぞしたら、ここでぶちまけてしまいそうだ。


 しまった。アーリエ姫……見ると真っ赤な顔に染まっている。余計に色っぽいじぇねぇか。畜生!! 飢えている俺にとっては地獄でしかない。早くしご……ダメだ。


「……そのぶちまけるのは、私の中にお願いしたいところだけど……ってそうじゃなくて……怒った陛下はラパス家を庶民に降格したから、路頭に迷っているらしいわ」


「なら治癒院は? 患者は?」


 俺はすでに患者のことを考えていたので、暴発は心配なくなったがこの切り替えの早さ自分でも嫌になる。この治癒士としてのロイとやらはさどかし立派な人間のはずだったんだろうな。なんか自分がクソ人間な気がして余計に萎えてしまった。


「もはや、ロイがいない治癒院は処置や薬草も無茶苦茶だったらしいから。しかも毒草を患者に投与して、人殺しとか言われるようになったのが原因で患者はいなくなったわ」


「俺のせいだ。俺は危険だとわかってたのに言わなかったから……」


 俺はあのときのことをを後悔していた。


「違うわよ。薬草の知識もない人間が治癒士として活動している方が詐欺じゃないの」


「まぁ、そうでしょうけど……でも、結局は陛下も権力使ってるし」


「まぁね……それで相談なんだけど、ロイはどうしたい?」


「えっ、俺? 俺は……」


「あなたは優しいから家族を見捨てるなんてできないでしょう。もしよかったらだけど薬草医院カフェ、まだまだ人出も足らないし、引き取ってもいいわよ?」


 俺は考えてしまう。家族を恨んでいないと言えば嘘になるが、このまま放置することもできない。親父が俺にしたように簡単に見捨てるなどやはり俺にはできなかった。せっかくできた転生人生を非道なことに使うのは何か違う気がする。


 というのは建前で、本当は「転生失格だ」とかいって自分が消えてしまうんじゃないかとか怖かったりするのだ。なので、答えはこう言うしかない。いくらアイツらが非道な奴らであってもだ。


「いいんですか……?」


「やっぱりあなたは弱いものには優しいのね。自分がされた仕打ちなんか忘れてまで救うことを選ぶのだから」


 アーリエ姫の言葉に良心が痛んだ。


「……ただの偽善者かもしれませんよ?」


「ロイ……」


 アーリエ姫が心配そうに俺を見つめる。この見つめる瞳は俺だけを見つめてほしい。このままキスできるんじゃないか。してもいいかな。今度こそいいかな。アーリエ姫を見ると、目を瞑ってこれはキス待ち顔ではないのか。


 俺はたこチューのように唇を尖がらせた。少しずつ距離を詰めていく。あともう少しで口づけできる。


「ぷははははは」


 アーリエ姫は目を開いて、笑い始めた。


「チッ。なんでこう失敗するかな」


 思わず舌打ちとともに本音が出てしまう。


「ロイ、そんなことをする前にまずは私に言うことがあるんじゃなくて?」


 そうだった。家族が来るとなるとあの変態マイクも来るということだ。これは何か手を打っておかなければ、マイクにアーリエ姫が襲われてしまう。


「アーリエ姫、お話があります」


「何かしら? 改まって」


 今から言おうという言葉を考えるだけでも、自分の体温が跳ね上がるのを感じる。アーリエ姫も姿勢を正していた。


「……あの話を受けようと思います」


「えっ、何の話かしら?」


「あっ、いえ何もありません」


 まさかの返しに俺はあたふたとしてしまい、転んでしまう。今すぐここから逃げ出したい。俺ヘタレすぎだろう。一言「結婚しよう」とか「俺と家族になろう」的な有名なプロポーズなどたくさんあるだろう。なのに、肝心なときに及び腰になるなんて……童貞の俺って情けなさすぎる。ここでいつもの精力パワーをさく裂して上手いことできないのだろうか。


 なんのために俺はこんなにパンパンに溜め込んでいるんだよ。1人イライラしていると、アーリエ姫は高笑いを始めた。


「オーホッホッホ。私の気持ちを少しは理解できたかしら。はぐらかされるって結構傷つくのよ」


「うっ、そっち? なんかすみませんでした」


「いいのよ。結婚してくれるのね?」


 女性に言わせるなんて、俺は情けない野郎だな。


「はい。そのかわり誰にもアーリエ姫の体に触れさせないと約束してください。この前みたいなことはもう嫌です。アーリエ姫の体は俺だけものだ」


「素直なロイはいいんだけど……心臓に悪いわね」


 結婚が決まったというのに、俺から出た言葉はクズ男のようなセリフになってしまった。なぜ「体」を入れてしまうんだ。そのせいかアーリエ姫は耳や顔まで一気に真っ赤に染まっていた。


「また熱が出ましたか? やはりまだ呪いの何かが残っているんじゃ……診察を……」


 もう俺はどこまでクズなんだ。なんとかして体に触れようとしてしまうこのがめつさが嫌になる。けれど、全ては俺のたまりにたまった精力が悪いんだ。そうだ。そうしよう。


「違うわよ。バカつ」


 どっちに対して違うと言ったのかはわからない。が、その可愛さ全開の姿に俺はもう我慢できずに、アーリエ姫を抱きしめていた。


「……ちょっと……ロイどうしちゃったのよ。嬉しいけど。私心臓爆発しちゃいそう……」


「やっててなんですけど、実は俺もです……もう限界なんです」


「ロイ……実は私も……もうあなたに抱いてほしい」


「アーリエ姫……」


 いい雰囲気になっていたというのに、静かに「はい」と申し訳なさそうな声が聞こえてきた。手を上げていたのはミアだった。ここにはミアが常駐していることをすっかり忘れてしまっていた。


「あの……私、失礼します。お幸せに」


ミアは顔を真っ赤にして部屋を出ていったのだった。


 2人で見つめ合ったまま、肩を震わせながら笑いだす。そして、俺はアーリエ姫に口づけをしたのだった。


 すると、なぜか体から熱い感情がこみ上げて、息が苦しくなった。なんだ興奮しすぎたのだろうか。まさか、ここに来て俺死ぬのか? 嘘だろう?


「ロイ、どうしたのよ? 大丈夫?」


「俺、キスしたし童貞卒業しようとしたから……死ぬのかも……」


「何よ。そんなバカな話あるわけないでしょ?」


 アーリエ姫の声がだんだん小さくなり、聞こえなくなってきた。苦しさのあまり俺はそのまま意識を失った。


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