第21話:呪いの確認※

 俺は落ち着き、アーリエ姫の救う順番を決める話を思い出す。なんだかかなり重要な役割を果たしていたという記憶だけは蘇るが、それ以上思い出そうとすると頭が痛くなるので、それ以上考えるのはやめた。


「ロイ、呪いの状態を見てくれないかしら?」


「はい。でも……むやみやたらに胸を見せつけるのはどうかと思いますよ。やめた方がいい」


「何よ。嫉妬したのかしら?」


 アーリエ姫は嬉しそうに俺に尋ねた。なんだかその余裕な笑みが悔しくて俺はアーリエ姫を抱きしめてしまう。


「よかった。無事で……それに、本当にマイクと結婚するのかと思って、なんだか色々と勘違いしてひどいことを言ってすみませんでした」


「あの……ロイ? ちょっとどうしたのよ。あなたがそんなんだと私も反応に困ってしまうわ」


 アーリエ姫の顔を見ると、真っ赤な顔になっていた。


「かわいい。キスしたい」

「えっ……と、ロイ? あの……治療を……それに声に出ているんだけど……」

「すまない。色々我慢していたせいかもう我慢できそうにない」


 拗らせた童貞は嫉妬やら安堵やら様々気持ちが混ざり合って、どうやら暴走モードのようだ。頭ではダメだとわかっているのに下半身が、すでに爆発してしまいそうだ。


 なによりも俺のジャケットからチラリズムしているあの胸が俺を呼ぶんだ。仕方ないだろう!!


「ちょっとロイ、あなたってそんなに積極的なタイプじゃなかったわよね。どうしたのよ」


「……こんな俺は嫌いですか?」


 俺の質問にさらに、頬を染めてうっとりと俺を見つめている。これはきっとキスをしてもいいのだろう。そうだろう。誰か教えてくれよ。タイミングとか俺にはわかんねぇんだよ。


「わかったわ。なら、もうこの際全部脱いでしまいましょう。それで赤ちゃんを……」


 赤ちゃんという言葉に俺は冷静になる。まだ、婚姻関係を結んでもいない相手と性行為をしようとしているのか俺は? ダメだ。そんなのはゲスイ奴がすることだ。せめて、告白して婚約、もしくは結婚前提のお付き合いしている二人ならまだしも今の俺たちは雇用主と従業員だ。俺は平静を取り戻した。


「いえ……このままでも痣部分が見えますので、ジャケットだけ取ってもらえたら大丈夫です。すみません、おかしなことを言いました。胸を見せてください」


「あらそう。私なんだか失敗してしまったようね。残念だわ」


 アーリエ姫は悲しそうにしていたので、思わず胸が苦しくなる。本当なら俺だって抱きたいさ。でもさ、童貞のおっさんはどうしていいのかわからないんだよ。ヘタレな俺を許してくれ。


 俺は心の中でそう呟いた。一瞬アーリエ姫がクスっと笑った気がするが心は読まれていないと信じたい。


 切り替えた俺は、アーリエ姫の痣を確認することにした。前見た以上に黒い部分が広がり始めている。


(これは悪性腫瘍のようなものなのか?)


俺は感触を確かめるが、今度は前回のように触り過ぎないようにすぐ診察を終える。


「なに? もう終わりなの。アイツはもっとモミモミしていたわよ?」


「……姫様はなぜあんなにも触らせていたのですか?」


尋ねる言葉に少し力が入ってしまう。


「えっ……証拠が必要だったから……ごめんなさい。嫌だったかしら?」


「二度と他の男に触らせないでください。アーリエ姫の胸は俺のものだ」


「ん……と、えぇ、わかったわ。どうしよう。さっきからロイの言葉にドキドキしっぱなしで胸が痛いの。ロイ早く調べて?」


「えっ、そうなんですか。やっぱり俺が長い間放置していたからすみません。俺は必死でその黒い部分を確認する。胸のほかにも脇腹や二の腕などにも転移していないかしっかり揉んでいく。


「ん、ん、っ」


「アーリエ姫すみません。痛いですか?」


「はぁはぁ、痛くは……ないのよ。でも……」


「でも、何ですか。何でも言ってください。治療の判断材料になりますので」


 俺は至って真剣だ。


「いや……あの……気持ちいいからもっと触ってほしいなって思っただけよ」


 俺は湯沸かし器の給湯器並みに頭が沸騰した。なんだって? もっと触って……?それはいわゆる愛……ブ的なこと?ダメだ。さっきせっかく冷静に落ち着いた俺のアソコがまた元気になってきた。


「すみません。もう少し触らせてもらってもいいですか?」


 確実に今のはもう俺の欲望だ。診察ではない。胸は全て確認したがしこりなどは見つからなかったので問題ないのである。ただあの柔らかい胸を揉みしだきたい。あのぷっくりと反り立っている先端を……


「えぇっ!! あの……あれなら口や舌を使ってちゃんと診察……」


 まさか読まれたのか? この変態思想を読み取られたというのか?まずい。これ以上はダメだ。


「アーリエ姫!! それ以上はダメ、絶対、エロ反対。規制があるんですよ? 知りません? アニメだと白い線やらキャラクターたちが必死に隠すんですよ。一番見たいところなのに。見るためには規制なしのDVDを買うか、ネット配信の方を購入するかとなんですよ。アーリエ姫の胸にキャラが動くのは許せません」


「ちょっと、ロイそんなに熱く語られても全く何を言っているのかわからないんだけど?」


「すみません……普段の鬱憤がつい……規制規制ってね。エロは悪じゃないんですよ。それを理由に悪いことをしたり、利用したりする奴がいるからどんどん規制が厳しくなるわけで……昔はもうちょっと見れたんですよ。パンティー辺りはね」


「ロイからパンティーは聞きたくなかったわ」


「あっ、すみません。ついおっさんが……」


「あのね、前から気になったのだけど、アリア様もしつこくおっさんだの親父だの言ってたのは何なの。ロイはいったい何者なの?」


「俺は……あれです。アーリエ姫もう体を冷やしますよ。ジャケットを着てください。診察は終わりです」


 俺はまだ、自分が転生者でおっさんというのは知らせたくなかったので、話題を変えることにした。


「えぇそうね。やっぱり優しいロイの方が落ち着くわね。でも、積極的なロイも嫌いじゃないわよ。私がちょっとドキドキしすぎて心拍数あがちゃうだけで」


「ちょっとさっきのドキドキってそっちのドキドキだったんですね。よかった。マジで心配したのに……」


「ごめんなさい。からかって」


「いえ。ところで、俺呪いの解除であるアイレン花を探しに行きたいんですがいいですか?」


「そうね。ロイとの結婚を諦めたくないから、生きるために許可するわ。でも、それまで薬草医院カフェはどうするの?」


「アダムとカーター、それにジョイがいるので大丈夫だと思います」


「そうね。あなたが部屋に引きこもっている間にも退院者が増えていたそうだものね。もうあそこに入院患者はいないそうよ」


「えっ? そうなんですか?」


「なんかジョイがあれ以来人が変わったように働いていたらしいわ。それで薬も開発したんでしょ? 呪いの病棟は一気に治癒できたらしいわよ」


「ジョイってやっぱりできる男ですね」


「そうよ。さすがは、有名な治癒士の家系よね」


 アーリエ姫にとっては何気ない言葉だったのだろうが、俺にとってその言葉は心に偉くグサリと刺さってしまう。俺は思わずムッとしてしまい、言い返してしまった。


「そうですよね……俺は治癒士の家系のくせにどうせ無能ですよね」


「あっ、いえ、そういう意味じゃなくてね……」


「わかっていますが、アーリエ姫に言われたのがショックで……」


「ねぇ、それってどういう意味?」


「あの……その……俺がアーリエ姫の呪いを解くことができたら俺と……」


トントンというノックの音と同時にトーマスがやって来る。


「そろそろアイレン花を探す時間かなって思ってやってきました」


「トーマスあなたって言う人は何というタイミングで入ってくるのよ……」


 トーマスが俺へと睨みつけてくる視線が痛い。これはきっと全部また話を聞いていた上での行動に違いない。彼なら余裕でできるはずである。


「アーリエ姫、話は後日にします。トーマス行こう」


俺たちは再びあの森へと旅立った。



※※※


 森へ行く最中に俺はトーマスに尋ねる。


「トーマス、アリア様と結婚したんじゃないの?」


「バカを言え。なんで俺が石像と結婚しなきゃいけないんだ」


「でも、アリア様に結婚申し込んだのはトーマスだよな?」


「そうだが……あれは魅了されていたからだな……本心ではない」


「アリア様はどうしたんだよ。怒ったんじゃないのか?」


「俺が魅了を自分で解いて、アリア様に言ったんだ。『君は石造の君が一番美しい。俺はいつでもこの石像を抱きしめていたい』って」


「ちょっとトーマス。キザすぎるんじゃない? 脳筋にそんな恋愛セリフどこに入ってんだよ」


「それはアーリエ姫との将来のために恋愛小説をだな……」


「それでか……でアリア様は金髪王子の変わりであるトーマスに愛を囁かれて石像に戻ったんだね」


「あぁ、一応女神様を怒らすと面倒だから1時間以上抱きしめて、その後は様子を見たが人間の姿には戻らなかったからこうして今俺はここにいるんだ」


「そっか。でも、アイレン花が見つかったらまたアリア様の元に行かないといけないと思うんだ。そん時はトーマス頼むよ」


「えっ……ま、アーリエ姫の為だから仕方あるまい」


 こうしてトーマスとの約束を取り付けたのである。それにしてもトーマスがキザキャラを演じることができるなんて意外過ぎる。きっと棒読みに違いない。


 森に着くと探知魔法を使おうとするまでもなく、青矢印が出ている。どうしたのだろう。俺はその矢印の方向へと進んでいくことにした。分かれ道でその青印が大きくなり、ハテナマークに変わる。


「おい、ハテナとか初めてじゃないか。どうしたんだよ」


 俺は青矢印に話しかけるも、もちろん会話できるはずもない。青矢印は混乱しているかのようにはハテナのまま上下左右に揺れていた。


「ふむふむ。そうか。そうなのか」


トーマスが何か1人納得している。


「トーマスどうしたの?」


「アイレン花がお前を呼んでいるらしいが、あの子には場所が読み切れないらしい」


「えっ……トーマスってまさかのあの矢印と会話できるの?」


「会話という程でもないが、意思が伝わってくるんだ」


「そうなんだ……さすがは魔法士最強だね。うらやましいよ」


「そうか? 俺はアーリエ姫に愛されているお前の方がうらやましいがな」


「……そうかな?」


「一度アーリエ姫のことを考えて、探してみてはどうだ?」


「わかった。やってみる」


俺はアーリエ姫のことを考えていると、初めこそ患者として接していた、いや、初めから妙な感情があったのも確かである。胸の治療のことも思い出し、動悸が激しくなる。急激に心臓が締め付けられるように痛い。


「いたっ……」


「ロイどうした? 大丈夫か」


俺が苦しみ、しゃがみ込んだ場所には……そこにはアイレン花があったのだ。


「こんなバカな話があるかよ……」


 俺は胸を抑えつけながら思わず呟いた。その花はやはり美しく見ているだけで心が静まり、胸の痛みも緩和されていく。


「はぁ、治った。今の何だったんだろう?」


「これがアイレン花の正体なんじゃないか?」


「はい? どういうこと?」


「愛する人のために探すことで現れるみたいな?」


「なんだよそれ。トーマスって意外とロマンチストだったんだね」


「うっ……うるさい。小説の影響だ。ほら採集して持って行くぞ」


「そうだな」


 俺たちは急いで戻ることにした。帰りは途中から転移を使ってくれたので、すぐに城へと到着した。アーリエ姫の元へアイレン花を持って行くことにする。アーリエ姫は不安そうに俺に尋ねる。


「これで本当に呪いを解くことができるの?」


「先生が言っていたので間違いないと思いますが……正直どうやって使用するのかわかりません」


「そうね? お花を食べるとかかしら」


 俺たちが話し合っていると、部屋にはジョイがやってきたのであった。隣にはまさかの人物がいたのである。

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