第18話:ジョイの役割
すでにアーリエ姫の部屋ではジョイが何か話しているようだった。扉を開けたはいいがジョイの泣き声が聞こえ、中に入るのを躊躇してしまった。今までの態度とのこの落差はなんなんだ!!
「アーリエ姫、呪いの話を聞きました。俺……ひいじいちゃんに色々言われていたのを思い出しました。国王陛下が願わなければ、今のこの国は存在しないどころか私たちすら生きていくことができなかったということを……申し訳ありませんでした」
「いえ、私の方こそあなたに辛い思いをさせたわ。治癒魔法がなくなったとしても、薬草があればなんとかなると簡単に考えていたの。しかし、実際は薬草だけでは限界があるということをあなたの祖祖父が亡くなられて実感したわ」
深刻そうに二人は話しているというのに、トーマスがあっけらかんと空気を一気に変える。
「でも、『アリア様』もせこくないですか? 国の繁栄のために膨大な魔力を欲するなら、何か1つ代償を払えとか」
「トーマス、あなたは本当に……」
「それに、1つとかいって結局は2つも代償を与えられたわけですよね? 治癒魔法禁止と国王の血を引くものの命を……」
「えぇ!!」
俺は驚きすぎて大声を上げてしまい、視線が俺に集中する。
「あら、ロイ盗み聞きなんかいい度胸しているわね?」
アーリエ姫はいたずらがバレた子供のようにおどけた表情をしながら、俺に話しかける。
「いや………これは……」
俺はどぎまぎしていると、頭の中に声が聞こえる。
(あなたって結構おしゃべりだったのね。意外だったわ)
(……すみません。みんな知っている内容かと……)
(私たちの秘密は、あのいかがわしい夜のことだけなのに)
いきなりのあの夜の話題に俺はその情景が思い出され顔を真っ赤にしていた。
「おい、お前はなぜそんなに顔が赤いんだよ。気持ち悪い」
ジョイに突っ込まれていると、今度はトーマスが言う。
「また、通信でいちゃいちゃしちゃって。俺がいるときはやめてもらっていいですか? 全部聞こえているんで気分悪いっす」
「あら、トーマスごめんなさいね。ロイこの話はまたあとでね。で本題に戻りましょう。でジョイは辞めたいのかしら?」
「いえ……その呪いのことで思い出したことがあって……このままではもう……」
ジョイが話し始めようとした時、部屋の雰囲気が一気に重くなる。なぜか胸が苦しい。トーマスが大きな声で詠唱した。
「エセレナ・ルナ・デルビサランビア」
トーマスが詠唱するなんて珍しいと思ったのも束の間だった。意識がだんだん保っていられなくなる。いつの間にかアーリエ姫は倒れかけた俺を支えてくれていた。大きな風船のようなものを作り出し、2人で中に入っていた。
そこの中に入ると、一気に空気が吸えるようになった。
「はぁ、はぁ。どういうことだ」
「ロイは魔力がないから……この偉大な魔力に耐えられないのよ」
「でも……他の人たちは?」
ミアや騎士たちを見ると、いつのまにやらカラフルな球体の中に入ってバリアをはっているようだった。
「アイツが……目覚めたみたいなの」
「アイツ……?」
「えぇ、ジョイの傀儡が解けたとき、アイツが目覚めるのよ……」
「もしかして、今まで不老不死の薬を作っていたジョイは操られていたってこと?」
「そうよ……こちらで管理して、いつか傀儡が解けたらと思って、それまでは好きにさせておいたのだけど……」
「なんでだよ……そんな危険なことするんだ!!」
俺は激怒してしまう。
「だって、ジョイの身内が亡くなられたのは王族の落ち度だし、それにジョイが呪いの解除方法を知っているはずだったしね。まぁ、私は正直自分の呪いなんてどうでもいいのだけど、周りがうるさくてね。ジョイの傀儡を解除して、アイツを倒す方がよっぽど大事なことなのに」
アーリエ姫は自分の命などどうでもよさそうに言った。ジョイを救ってあげたいという思いが伝わってくる。
嵐のような竜巻が起きたかと思えば、そこには黒いローブに身を包む男性が現れた。そいつの顔を見ると、病室にいたあの男だった。
「あっ……あの病室にいた……」
「ハハハ。ロイだったかな。ジョイの傀儡を解いてくれてありがとう。やはり、いつの時代も治癒士と名の持つ者が鍵となるようだな」
「おい……俺がジョイの傀儡を解いた……?」
「そうだ」
「ロイ、アイツの話を聞かないで。あなたまで傀儡させられてしまうわ。あなたまで失うのはもう嫌なの」
「アーリエ姫……」
「おいおい、この状況でいちゃつくつもりなのか?」
ローブ姿の男に突っ込まれていると、そこにジョイがやってきた。
「貴様、よくも俺を利用してくれたな」
「ハハハ。それはお前が弱いせいだろう」
「……俺は今まで……」
俺は話がよめなくて、ジョイに尋ねる。
「ジョイ、今は後悔してももう遅い。そいつはトーマスと近衛騎士たちに任せよう。アーリエ姫の呪いのことを教えてくれ」
「あぁ、あの呪いは……」
「させるか!!」
その男は、俺たちの入った球体にファイヤーボールを打って来る。
「おいおい、マジかよ。ここに来て一気にラノベ展開かよ。今までスローライフ的な感じで、俺が無双して終わりかと思ってたのに……」
「ロイ、そんな意味の分からないこと言ってないで、逃げるわよ。いくらトーマスが優秀でもアイツだけは無理よ」
「いや……でも。アイツって何者なんだ」
「以前、国を滅ぼそうとした魔族よ。アイツのせいでこの国は滅びそうになった。だか繁栄とは上手く言ったものね。実際は国を元に戻すために私たちは魔力を求めたの」
「そういうことだったんだ……って魔族?!」
「もう今はそんなこといいのよ、早く……」
トーマスはバチバチと魔力のぶつけあっているようだ。爆発音が響いている。
「ちょっと待って。アイツの顔をよく見ると俺の昔やっていたゲームの魔族に似ているんだよな。なんだっけな。キラ、クロ。コード、ゼウス、サーガだ」
俺がそう言うと、魔族の男はこちらにやってきた。
「なぜ、我の名前を知っているんだ?」
「いや……あの……」
俺は一か八か勝負に出ることにした。
「トーマス聖剣って出せたりしない?」
「えっ、聖剣。そんなの無理だ。あれは地下に埋まっている。アリア様の持ち物だからな」
「それだ!! ごめん、トーマス。もうちょっと頑張れるか? アーリエ姫そのアリア様はどこにいますか?」
「えっ……アリア様はこの城の地下に眠る神殿にある像のことよ」
「早く行きましょう」
「そうね。確かに今回もまたアリア様の力が必要だわね」
アーリエ姫の悲し気な表情が気にはなったが、俺たちは神殿へと向かうことにした。
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