第16話:塗り薬の完成

 薬草管理室に行くと、アダムか何かを探しているようだった。


「アダムどうしたの?」


驚いたように、何かを背中に隠しているのが見える。


「ロイこそ……どうしたんだい? ここは鍵がないと入れないはずだけど?」

「……あっ、えっ、鍵空いてたと思うけど?」


 俺はすっとぼけてみることにした。怪しげに俺を見てくるがその間にも何かソワソワしているようだった。俺は背中から見えている緑の葉っぱのことを尋ねることにした。


「ねぇ、それってビワの葉だよね?」

「……なぜそう思う?」

「さっき、患者さんとあってアダムが診察に来なくなったって聞いたからもしかしてアダムもうつったのかなと思って」


真っ青な顔になるアダム。


「てかそれで治せるって知っているならなぜあの患者に処方しないの?」

「このビワの葉に効果があるのは知っているがどのようにすればいいかわからない」

「そうだったんだ。なら俺が教えようか?」

「はぁ? ロイが知っているというのか?」

「あぁ、早く作って患者さんにも塗りたいんだけど?」


アダムは一瞬むすっとした顔をしたが、俺にビワの葉を渡した。


 俺はまず、その中でもなるべく厚みがあってごわごわしていて、色が濃い古い葉を探す。そしてその葉を、裏の毛をこすり取るようによく洗う。本当なら水気が無くなるまで干したいけど、今は時間がないからこのまま乾燥させることにしたが、乾燥させるのにこのままでは時間がかかり過ぎるので何かいい方法がないか悩んでいると、アダムが小さな声で言う。


「なぁ、これって乾燥させるんだよな? 魔力で乾かそうか?」


俺は思わぬアダムの言動に感動してしまい、お礼を述べた。


「ありがとう。アダムって若いのに本当にいい子だよね。患者さんの面倒も見てあげてたみたいだし」


「……いや、気になるから。俺の母は病気で亡くなったからな……じゃあ乾かすぞ」


 そういうと、ビワの葉は完璧に乾いていた。乾いた葉を3センチ角くらいに切り、瓶に詰めホワイトリカーを注ぐ。葉がしっかりと浸るくらいしっかりと入れる。茶色になるまで放置なんだけど、だいたい1年かかるんだよな。


俺はアダムにおねだりするように見つめて、期待をこめて拝んでみることにした。


「なんだよ……今度はなんだ? 気持ち悪いからやめろよ。次は発酵か。時間を進めればいいのか?」


「さすがはアダム、察しがいいね。できるかな?」


「あぁ、やってみる」。


 アダムは先程と違って、汗をかきながら瓶に力を入れている。さすがに1年という時間を早送りするには魔力の消費量も違うのかもしれない。


「はぁ、できたぞ」

「おぁ、すげぇ。本当になってる」


瓶の中身は完全に茶色に変色していた。俺はそのままエキスと葉を別々に保存することにした。アダムはずっとその様子を興味深々に見ているようだ。


「アダムほら、これ塗ってみて」


俺はアダムにエキスの方を渡す。


「……いいのか?」


「それでよくなるようだったら、明日くらいに見に行ってあげて、あの患者たちに塗ってあげてほしいんだ。頼めるかな?」


「あぁ、ありがとう」


アダムは恐る恐るエキスを刷毛につけ、手に塗った。


「あっ、そうそうアルコール使ってるから肌が弱かったり、小さい子には気を付けて」


「おぉ」


アダムはその後、もぞもぞとすることはなくなりそのまま帰っていった。


 俺は誰もいなくなったのをいいことに、青梅、へびいちご、ドクダミ、カリン、キキョウ、センブリ、ウドの根など一般的な病気に効きそうな薬草の確認を済ませていた。


(よし、これなら大丈夫だ)


 俺は一通りの確認ができたので、そのままとびひ患者の元へと戻った。5人ほどがお風呂を終えていたようだった。俺はそのエキスを塗り、掻きむしらないようにガーゼを張った。


「おう、なんかスースーして痒くないぞ」

「そうですか。よかったです。アダムのおかげですよ」


「やっぱり、アダム先生は俺らを見捨てていなかったのか」

「アダムはちゃんと薬を調べていたみたいですよ。今後はアダムに診てもらってください」


「おぉ」


こうして、次の患者に塗るという作業を繰り返していると、残りの5人も風呂から帰ってきたようだ。全員の顔に塗り終えることができた。


よし。これで問題ないだろう。


「あとは寝不足とかで身体が弱っていると細菌に負けやすく、治りにくいということがあるのでしっかり寝てください」


「「はーい」」


 年配なおじさんたちが子供のように素直に返事しているのを見ると、なんだかむず痒くなった。


※※※


 次は、大きな部屋に行くことにした。その部屋はなぜか病室の電気がつけられておらず、まるで幽霊屋敷のようだった。患者たちも静かでみな目が虚ろ気な状態で各自がベッドで寝ているようだった。一番近くにいた20代の男性に声を掛ける。


「あの……すみません?」


「……」


俺の顔を一瞬見たかと思えば、悪魔でも見たかのようにギョッと驚いて、白目を向いて意識を失ってしまったようだ。


「え……うそでしょ」


 俺はその男性の熱や体を確認したか全く異常はなかった。驚いたせいなのか脈が少し高かったが異常のないレベルであった。


 仕方がないので、次は寝ている女性に話しかけようと試みたが、俺を怖がってしまったようで、シーツに包まってしまった。


(この病室の症状が全く読めない。これはアダムに聞く気がなさそうだ)


俺はそう判断し、もう一度アダムがいるであろう実験室へと行ってみることにした。


 実験室では、相変わらずジョイが実験をしているようだ。効能の高いS級の薬草ばかり使用しているのを見て、俺はだんだん腹が立っていた。薬草の無駄遣いじゃないか!!」


「おい、ジョイいつまでそんなできもしないことをするつもりだ。もっとガンヤクの開発とかやることはたくさんあるだろう!!」


「またお前か……お前には関係ない。これは俺の大事な人との約束なんだ」


「約束だとしても、今救うべき患者がたくさんいるのに医療に携わる者として、それを放置するなんておかしいだろうが!!」」


「ふっ。1人の命も大事にしないような国の奴らのことなど知らない」


「おいっ、どういう意味だよ」


俺はジョイに掴みかかろうとしてしまう。それをアダムが止める。


「ロイやめろっ! ジョイ様申し訳ありません。俺がこいつをつまみ出してきます」


俺はアダムにその部屋から追い出されてしまう。


「ロイ、ジョイ様には逆らうな」


「なんでだよ。こんなのおかしいだろう。せっかくこんなにも充実した施設が整っているのに機能していないなんてもったいなさすぎる」


「……そうだな。なぜ治癒士がいないか聞いたか?」


「あっ? アーリエ姫の呪いって聞いたが……」


「まぁ、言ってしまえばそうなんだろうが……」


「なんだよ。言えよ。気になるだろ」


 アダムが一瞬迷って話すのをためらっていると、そこにカーターがやってきた。カーターは少し顔色が良くなっているようだ。俺はその様子に安心する。


「なぁ、ロイお前は入院患者を治療して回っているようだが、大きな暗い部屋は行ったのか?」


俺は、アダムから呪いの話について詳しく知りたがったが、患者第一主義な完璧主義な俺は、患者のことで頭がいっぱいになっていた。


「あぁ、あそこなんであんなに暗いんだ?」


「あそこは死を待つ者の部屋なんだよ」


「はぁ? どういうことだ?」


「何かわからない黒い影に襲われたり、自分を殺そうとしているなどの理由からいきなり逃げ回ったりするんだ。実際にはいないにもかかわらずだ。それはまるで何かに呪われているかのようなのだ。俺たちはあそこを呪われた病室と呼んでいる」


 カーターの話を聞いて、俺はそれって幻聴の一種じゃないかと考える。それとも悪魔に取りつかれたとか呪いなどの魔力的なのもの影響ならエリスが診断しているはずである。


「エリスはなんて言ってるの?」


「あの女か? 何もないと言っていたぞ」


「そう。ならやっぱり幻聴じゃないかな。この人たちはそもそもどんな症状で入院していたの?」


「こやつらか? この病室の患者ってそういえばだれが許可出したんだっけ。見た目は普通だったから不思議に思ったんだが……」


「確かに俺もここの診察だけは、ジョイ様に絶対にするなと言われていたので全く分かりません」


俺は二人の話を聞いて、不審な点が多いことに疑問を抱く。


「ねぇ、ここの人は何か薬草は処方されているの?」


アダムは考え込むように下を向いている。


「あっ、なんか瓶に入ったエキスを飲んでいたのを見たことあるかも」


 その言葉で俺は1つの推理をしてしまう。ヤバイ。俺探偵ごっこもできるのかよ。すごくねぇか。


って今はそんなおチャラけている場合ではなかった。俺の推理が正しければ、そんなことが絶対にあってはならない。


 きっと違ってくれという望みを胸に急いで大きな部屋に戻ることにしたのだった。 


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