第14話:トーマスと屈託

 俺はその勢いのまま、カフェの追加メニューについてや入院患者の情報をまとめることにした。確か入院患者は重傷者3人だったよな。あとは軽症者が10人だったか。先に重傷者の情報を調べるとしても、明日になんとか接触しなくては命が危ないような気がする。色々と書き出していると、朝日が差し込んできた。すでに朝になっていたようだ。


 それにしても俺、なんか超仕事できる男みたいなことしてねぇか? これがまさかチートなのだろうか。てか俺マジで何の仕事をしていたんだろう。薬に強そうだからやっぱり薬剤師とかかな。そんなことを考えていると、扉がノックされた。


トントン


「あー今行く」


 たぶんミアが食事の時間を知らせに来たのだろうと開けるとまさかのトーマスだった。


「なぁ、ロイ……昨夜のことだが?」


 俺は心臓が飛び出しそうになった。トーマスは眠っていたと思っていたのだけど……やっぱり起きていたのか。一応、とぼけることができそうならとぼけるに越したことはない。なかったことにした方がいいに決まっている。


「昨日って……?」


「本来ならお前は一国の王女の寝室に忍び込んだ罪で、ギロチン刑レベルだ。だが、俺のミスでもあるとはいえ、何よりもアーリエ姫が『辛い状況でロイに診てもらうために自分の部屋に転移させた』と言い張るので、これ以上は問い詰めない。そして、この件は秘密裏にかん口令が引かれた」


「え……俺が勝手に……それは違う」


「なんとなく俺も扉の開く音が寝ながらだが聞こえた気がする。眠気が勝ってしまい俺としたことが起きることができなかったようだ。今までこんなことはなかったのだが……けれどアーリエ姫がそう言うなら仕方あるまい」


 俺はその話を聞いてピーンときた。アーリエ姫が傀儡とかでトーマスを眠らせたに決まっている。だが、トーマスも気づいていないことをわざと教えてやる義理はないだろう。


「……そうだな。そうするよ。ところでアーリエ姫の容態はどうだい?」


「見に行けばいい」


「あーそうだな」


俺たちはアーリエ姫の寝室に行くことにした。


「ロイ、昨夜は夜中に呼び出しちゃって悪かったわね。もうこの通りピンピンしているわよ?」


「いえ……俺は……」


アーリエ姫がアイコンタクトで合わせろと視線で訴えてくる。どうしてこういうときに心に話しかけて来ないんだよ。


「それで、こんな朝早くからどうしたの?」


「あぁ、アーリエ姫の容態が気になったので」


「あら嬉しい。昨夜のことで絆が深まったみたいで何よりだわ」


 俺はその瞬間に昨日の出来事が呼び覚まされ、鼻血を出していた。


「おいロイ。鼻血が……」


「ごめん。止めるからちょっと待って」


 俺は小鼻の柔らかい部分を抑えながらアーリエ姫に尋ねる。


「あの……昨日の薬草って自由に使ってもいいですか?」


「もちろんよ。あなたは薬草管理士なのよ。好きにしなさい。では私は忙しいのよ。用がないなら出ていって」


あっけないアーリエ姫の態度に俺はなぜか心がざわつく。


(人間っておそろしいな。ずっと好意を示されていた人から突き放されるとなんか寂しく感じてしまうんだから)


俺はなぜか沈んだ気持ちのままアーリエ姫の部屋から出ると、トーマスがついてきてくれた。すでに鼻血も止まっていた。


「ロイ、今日のアーリエ姫雰囲気が違うような気がしたんだがお前はどう思う?」


「そうだよね。俺も思ったけど……なんかおとなしかった?」


「お前変な薬でも使ったんじゃないだろうな?」


「いやいや、そんなこと絶対にしない。心に話しかけて来なかったし」


「本当か……それはまずいぞ」


「どういうことだよ、トーマス」


トーマスは逃げるように俺のそばから離れようとしたので、腕を掴んだ。


「トーマスどういうことなんだよ」


「悪いが俺からは言えないんだ。言いたくても言えないように口止めされている。この話をした者は死ぬ」


「えっ……なんだよ。それ」


「わかったならアーリエ姫本人に聞いてくれ」


「わかった。じゃあさ、変わりにってわけではないんだけどトーマスなら入院病棟の鍵を持ってたりしない?」


「持ってはいないが、手に入るぞ」


トーマスは何やら悪そうな笑みを浮かべている。


「それってなんか悪だくみっぽいから聞くのが怖いんだけど?」


「俺の魔法で、ジョイから盗んだらいいだけだ」


「それって犯罪じゃないの?」


「いや、いらないならいいが?」


「いる。いります。なら薬草管理の部屋の鍵も一緒にいいかな? 預けているのを保管したいし」


「ロイの方こそ、策略家だと思うんだが……鍵を盗めとか盗賊の親分かよ」


「ひどいな。そんなことない……とは言い切れないかもな」


 自分は薬のことだと何でもやってしまいそうな気がして怖くなっていた。時たま出る暴走モードのようなアドレナリン出まくり仕事モードの俺ってなんか気味が悪いんだよな。自分じゃないみたいな感覚で……なんか童貞、ハーレム、おっぱいバンザイとか思っている方が自分らしい気がするのだ。けれど今の俺は薬草管理士として働く必要があるのだから、衣食住分は働く必要がある。


「……お願いできるかな?」


「あぁ」という言葉と同時にトーマスの手には二つの鍵が握られていた。


「はやっ、ありがとう。なら管理室まで運んでもらえる?」


「はいよ。お安い御用だ」


「……頼むよ」


 こうして無事に薬草管理室に薬草を運び終えたトーマスは帰っていった。


 それから、管理室の鍵を閉めて、前回気になっていた入院病棟の階まで行くことにした。なぜ、鍵で管理されているのだろう。モンスター化した患者とか吸血した患者がいるから危険なのか? 


 ドキドキとワクワクが淹れ混じった感情で恐る恐る入院病棟の鍵を開ける。そこには大、中、小といった病室が並んでいた。


 

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