第9話:変態マイク
しまった。治癒術である「催眠」を使いやがったのかよ。もしかして、姫様にもこれを使うつもりなのか。「催眠」はそもそも痛みを軽減するために使用するらしいが……コイツもしかしたら、この手の類で女性に悪いこともしていたのかもしれない。許せないな。自分だけせこい。じゃなくて我が弟ながら、キモイ。
ここまで変態だとは思ってもいなかったが、アーリエ姫を組み敷きたい気持ちはわからないでもない。俺はキスさせにためにギブスを投げようとしたら、ミアに奪い取られてしまう。奪ったミアはマイクの顔にギブスを投げつけた。
痛々しいほど、マイクの顔面にヒットしていた。
「ロイ様、しっかりしてくださいませ。アーリエ姫の貞操の危機ですよ!! あなたを信用した私がバカでした」
「いや、すまない」
「ミアいいのよ。ロイは本当に優しいのよ。こんなでも仮にゲスな奴でも血がつながった兄弟だから、邪険にはできないのよ。許してあげて」
「いや……でも、このままでは」
ミアが言いかけたそのとき、トーマスが起きた。やはり、魔力が強いトーマスにはあまり効かなかったようだ。
「姫様無事ですか。今コイツを倒し……ってなぜコイツは鼻から血を出しているのですか? 姫様の色気にやられたのですか?」
「もう、トーマスったら。でも、ちょっと私も苛立っているのよね。とりあえず縄で縛っててくれる。私に近づかないようにして」
「ワン」
トーマスはあっという間にマイクを縄で縛りあげていた。縄が両手を広げた瞬間に出てくるのだから、魔法ってやっぱりすごい。俺は魔法に感心していると、縄で縛られたマイクが興奮気味に言う。
「おぉ。これはこれは……こういうプレイもいいな。俺もアーリエ姫の犬になりたいだ、ワン。もっと痛めつけてだ、ワン」
「マジか………お前にそんな趣味があったなんて兄ちゃんショックだわ」
「何と言われようがこんな美人姫最高だ、ワン、頭撫でてだ、ワン」
キモイ、キモ過ぎる。時に医師や治癒術士は変な性癖があると言われている。赤ちゃん言葉を使いたがるもの、そして、ドМ全開のブタ野郎、これに犬もあったのか。
ドМと犬の合わせ技とかこれは痛すぎる。俺がドン引きしていると、トーマスもなぜかワンワン言い出した。
この痛い惨劇に、気付けば俺が一番大きな声で叫んでいた。
「ワンワンワンうるさいっ!! さっさと治療しろよ」
「ロイはさすがね。私の一番はあなただから安心して。嫉妬なんて嬉しいわ。ありがとう」
「いや……そういう意味じゃなくて……」
俺は困惑していた。すると、アーリエ姫は意地の悪そうな笑みを俺に向けたかと思えば、マイクに冷たく低い声で治療を促した。
「それであなたは、私の治療をする気がないのかしら? そんな無能な治癒術士など必要ないので、今すぐあなたの国に転移させてもいいのだけど?」
焦ったように、マイクは答える。
「やります。やらせてください。そのかわり……」
なんでだろう。この「やらせてください」が違う意味に聞こえてしまうのはどうしてだろう。やばい。俺まで思考がエロ重視になってしまったのかと自分にうんざりしていると、アーリエ姫はマイクの口に人差し指を押し当て、片目を瞑って上目遣いで艶やかに言った。
「その続きは言っちゃダメよ。早く治して・ね?」
アーリエ姫は自分の武器の使い方を完全にわかっている。けれど、心の声が漏れているので俺は笑いを堪えるのが必至である。
(あーめんどくさいわね。コイツさっさと治せばいいのに。ワンワン言いやがって。トーマスは頭が悪いから100歩譲って許せるけど、頭が良くてワンワンとかひくわ。ないわ。ロイ責任取って)
最後の言葉で俺は笑うのをやめ、アーリエ姫を見るとふわっと微笑んだ。病人だし、たまには言うことを聞いても罰は当たらないだろう。
(そうよ。その勢いで私に優しくしてくれていいのよ。そして結婚しましょう)
(また、心読んでいるでしょ? 契約書は作りましたか)
(病人にどうやって作れって言うのよ)
(………そうですね。わかりました。早く治しましょう。熱は下がったようなので安心しました)
(えっ……あり……とう)
(えっ……?)
今までの心の通信のようなものがプツリと途切れた気がした。マイクはすでにアーリエ姫のギブスを装着していた。
「よしっ、できました。バカ兄行くぞ」
「結局薬草いるのかよ」
「いるとかじゃなくて、お代なんだろう。それではアーリエ姫、後日婚約話を正式に国の方から打診させていただきます」
「いえ、もう大丈夫よ。あんたみたいなキモイ犬なんかと誰が結婚するもんですか。二度と来ないで」
「またまた、アーリエ姫は恥ずかしがり屋なんだから」
「姫様、アイツ気色悪いことを言っています。姫様の言葉が通じていません」
「それはあなたも一緒よ。トーマス」
トーマスはガクリとうなだれていた。
「アーリエ姫、俺管理士なのにまたあの森に行ってもいいのですか?」
「なら管理士として、隣国への薬草採取を命じます。トーマスを護衛につけるわね」
「あ、ありがとうございます。それではアーリエ姫しっかり食事とお茶も召し上がってくださいね」
「わかったわ。トーマスの収納魔法があるからいくらでも採ってきても大丈夫よ」
「よかったです。まだメニューにない薬草があったので、ちょうどよかったです」
「ほら、バカ兄早くしろ」
俺たちはこうして、またあの国へと行くことになったのだった。アーリエ姫は俺に訴えてくる。
(このキモ犬への仕打ちはもっと後よ。このクズ野郎にふさわしい最高の手立てを考えてやるわ。だから、ロイあなたは何も考えずに薬草を採取してきてね。まぁ、さっきみたいに私を組み敷きたい衝動をぶつけてくれてもいいのよ?)
「げっ。そこまで読んでいたのかよっ……」
「ふふふ。楽しみにベッドをふかふかにして、あなたを受け入れる準備をして待っているわね」
その言葉に俺の妄想は膨らんでしまう。ネグリジェのようなサテン生地に包まれて豊満な胸を俺に押し寄せてくる。それを俺は……
「ワン。楽しみにしてるワン。最高だワン」
マイクの言葉によって、俺の妄想は止まってしまったが、アーリエ姫は真っ赤な顔をしている。ごめん。俺今結構考えちゃってたから、読んだんだよね。
「あんたは……せっかくのロイの素敵な妄想時間を邪魔して!! キモイのよ。ワンって言うならその口絞め殺すわよ」
「これはこれはアーリエ姫に嫌われたくないので、今後は紳士的に振る舞うことにしましょう」
なんだよ。マイクの奴、さっきから犬だったり、紳士って言ってみたり変わり身の早い奴だ。まぁこういう奴だよな。
「……アーリエ姫、行ってくるので、契約書の件お願いしますよ?」
「わかってるわよ。ロイのばかっ! イってくるなんて……エッチ!!」
「えっ? 俺何もしていないですよ。ちょっと想像しちゃっただけ……」
「バカ兄より俺の方がアーリエ姫を満足できます。だってコイツ童貞ですから」
「ふっ、そんなの初めての時に知ってるわよ」
「初めてって……まさかバカ兄、もうあの魅惑ボディを抱いたのか。嘘だろ?」
俺はあえて答えてやらなかった。アーリエ姫もわざとあんなややこしい言い方をしたんだろうな。初めての治療の触り方がって言えばいいのに。それでも童貞だとバレていたのは悔しいが仕方ない。これから俺は楽しめるはずだ。いざ、ハーレムの世界へ。
「ロイ、ハーレムなんか私が許すとでも思っているの? その腕輪監視付きなのを忘れたかしら?」
「えっ……あっ」
「わかったならいいわ。いってらっしゃい」
「いってきます」
「アーリエ姫、またお会いできる日を楽しみにしております」
マイクは仰々しい態度でお辞儀をして、部屋から出たのであった。
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