第3話:隣国フール国
隣国フール王国に着いた。今まで暮らしていたルノニア国がもはやちっぽけなおもちゃの世界だったのかと思うくらい、近未来的な別世界が広がっていた。
街全体が魔法で包まれており、まるで青い猫型ロボットの未来の世界がそのまま描かれているような世界だった。。国民たちは歩くのではなく宙を浮きながら、ビューンと目的の場所まで行くつもりなのかノンストップで俺の横を通り過ぎていった。
俺はその漫画やアニメのような光景に唖然として開いた口が塞がらなかった。俺の反応を見たアーリエ姫は不思議そうに尋ねた。
「あなたは、この国が初めてですか?」
「はい。こんな魔法だらけで動いている国など初めて見ました。すごいですね」
「そうでしょ。このフール国は魔法がすべて原力となっているのです」
「でも、これほどまでの魔力量は、どのように得ているのですか」
「そうね……私たちマドラスカスという代々続く「王族遺伝」と言ったらいいのかしらね。こればかりは聖なる秘伝として伝わっているだけでどうしてかという理由はわかっていないのよ」
「そうだったんですね。ならここの治癒魔法士たちはかなり優秀なのでしょうね」
俺がそういうと、アーリエ姫は顔をしかめてしまった。何かまずいことでも言ってしまっただろうか。
トーマスがいきなり大声を出した。
「あぁ!! アーリエ姫、お城に着いたっす。やはり魔法は便利っすね」
俺はその発言でいつの間にか城に着いていたことに気づいたのだった。
(いつの間に移動したのだろう。俺フール国の国境までは歩いてきたよな。でここに着いてから見るものすべてに驚いて……それがなぜ?)
狐につままれたような気がしていた俺は、驚きすぎて間抜けな顔をしていたのだろう。
「ふふふ。あなた、面白い顔しているわね。素敵なお顔が台無しよ。あなたにもわかりやすく説明すると、他国での魔法は禁止されているでしょ。だから、このフール国に入った瞬間、トーマスが無詠唱で転移魔法をしてくれたのよ。さすがは、この国一番の魔法士よね」
「えっ、この人って騎士団長とかじゃないの? その筋肉マッチョで金髪でいかにも騎士って感じだったけど……」
俺はトーマスの見た目でてっきり騎士団長だと思っていたのだ。まさか魔法士だったなんて意外過ぎる。魔法士って知能的な雰囲気で銀髪が多いから、これまた珍しい。
「トーマスって色々桁違いなのよね。本当なら騎士団長でも務まるくらい優秀なのよ。でも、あの思ったことを全て言ってしまうから騎士たちがどんどんやめちゃってね。試しに魔法士の試験受けさせたら、1発合格どころか規格外の魔力量と予想しない魔法ばかりを生み出したものだから試験官がスカウトしたってわけ。で今ではナンバーワンよ」
「いやー、アーリエ姫にそんなに褒められるなんて、俺頑張ってきてよかったす!!」
「まぁちょっと、頭が悪いのは玉に傷だけどね」
「申し訳ないっす。頑張るっす」
トーマスはこの国に来てからなんか口調がおかしいのだがどうしてだろうか。
「ふふふ。トーマスの口調の変化が気になるのね」
「えっ、姫様はエスパーなのですか」
俺は驚いて、子供じみた発言をしてしまった。それにエスパーってこの国では通じないかもしれない。エスパーに変わる言葉を探していると、アーリエ姫に笑われてしまった。
「ふふふ、何でもあなたのことはお見通しよ。この国に来てしまえばこちらのものよ。読心術だって、傀儡だってなんでもできるもの」
「ちょっと……怖いんでそれはやめてもらえますか……そうだ。薬草管理士として契約していただけるのですよね? ちゃんと色々契約書を交わしましょう。そこに、読心術と傀儡、あと何があるだろう……きっと魅惑とかありますよね? あの心を惑わす系は俺に使用しないと誓ってください。そうしないと俺働きません」
やはりいつの時代は契約書は大事だ。いつどこで言った言ってない論争が始まるかわからない。
「チッ、私としたことがしくったわね。言うんじゃなかったわ。まぁ、トーマスはこの国だと魔力供給量が過多状態になっているから、魔力酔いしているのよ。だから気にしないで。彼の普通はこれが正常だから」
「そうなんですね。魔力の多いのも大変なんですね。まぁ、確かに俺の魔力量も若干増加している気がします。試してみてもいいですか」
なぜかわからないが今ならできる気がして普通に下心などなかったのだが、アーリエ姫は何を勘違いしたのか、なぜか浮き浮きと期待した目でこんなことを言い出す。
「えぇいいわよ。ベッドへ行きましょう」
「あの……そういう意味じゃなくて……治癒魔法をしたいと思っただけなのですが」
と言いつつも、そんなこと言われたら想像してしまうじゃないか。アーリエ姫がベッドであられもない姿で俺を求めるなんて最高過ぎる……やりたい。
「あら、あなたって意外に変態さんだったのね。それはこちらにとっては好都合だわ。色仕掛けで落ちるならもう落ちたも同然よ」
「ちょっと……もしかして、今俺の心読んだ?」
「まだ契約していないし、問題ないわよ」
(この……腹黒姫が……これは色々まずい。俺がてん……)
と考えようとしたところで、思考を停止させる。
「腹黒で結構よ。俺が何かしら?」
「ほらまた。あーもういい。早く契約書作ってくれよ!!」
俺はアーリエ姫との攻防に勝てる気がしない。思わず天を仰いだ。
アーリエ姫はそんな俺を見ながら、柔らかい笑みを浮かべていた。
「それで、治癒魔法は使わなくていいの?」
「あっ、そうだった。お願いします」
アーリエ姫はトーマスの背中から下ろしてもらっているのだが、なぜかお姫様抱っこの状態になっていた。それがまたお似合いである。絵本の国から飛び出してきたような王子様とお姫様のようだった。
「なに? 焼きもち妬いてくれたの? 嬉しいわ。いつでも結婚の返事待っているわよ」
「違います。早く足見せてもらっていいですか?」
なぜか俺は腹が立ち、少し語彙が強まってしまった。
「はい。どうぞ。さっきみたいに私の足をねっとりゆっくりやらしく撫で回してくれていいのよ?」
「ちょっと……誤解されるような言い方やめてください。あのときは無心で頑張った……じゃなくて、それではいきますよ」
思考が読まれていると思うと、変な想像ができない。これは下心をいかにうまく隠すかが勝負な気がする。俺は全身の神経を自分の右手に集中させた。手に温かい気が集まるのを感じた。今までこんなこと感じたこともなかった。そして、その熱くなった手を足首に当ててみる。
一瞬かすかに光ったような気がしたが、すぐにその灯は消えてしまった。
「やっぱり無理でした。すみません」
「いえ……いいのよ。素晴らしい薬草探知能力を持っているあなたなら、フール国の初めての治癒魔法士として誕生できるかもと思ったのだけど……無理だったか」
俺はその言葉に驚いてしまう。
「えっ? この国には治癒魔法士がいないのですか? こんなにも魔力が溢れているのに……」
「……そうよ。だから、私が自ら薬草を取りにあの国に行ってたのよ」
「なぜ治癒魔法だけ……?」
「魔力の秘伝があるなら、その反対の呪いもあるってことよ。それが便利さに伴い、私たちが失った大事な能力なの」
「なんか複雑ですけど……まぁ、薬草があればたいがいの病気は治りますからね」
「あなたならそう言ってくれる気がしたわ。ありがとう。ところで、名前を聞いていなかったわね」
「あーそうでしたね。俺はラパス・ロイと申します。改めてよろしくお願いします。ところで、俺の職場はどこになりますか?」
「このお城に併設されていた社交場『ロックメイカン』を改築して、作った薬草医院カフェよ」
「アーリエ姫……ロックメイカンって」
「鹿鳴館」とはあの有名な明治時代に建設された西洋館のことだよな。名前ほぼパクリじゃねぇか。まぁそんなことはどうでもいい。
「国賓や外国の外交官を接待するため、外国との社交場として使用される館を改装?マジか……だから、あの噂が広まったのか」
アーリエ姫が変わり者だと言われた理由の原因が分かった気がした。どこの姫が、政治経済として活発に利用していた場所を潰してしまうのか……しかも、できたのが薬草医院って国民は反発しなかったのかよと考えていると、また心を読まれていたようだ。
「民は逆に喜んだわよ。そんな自分たちに利益につながらない偉い方が賄賂やゴマすりばっかの無意味な場所よりも病気で治療してくれる場所を求めているもの」
「え……待ってください。心読まれているのはもう今は諦めますけど……ここって、国民、いや、庶民とかも通えるんですか……?」
「そうよ。この国は貴族とか庶民とかの階級をここ10年くらいで撤廃させたもの。多少の貧富の差はあるかもしれないけどね」
「そうなんですね。やっぱり、さすがは変わり者と呼ばれているだけありますね。
でも、薬草医院まではわかりますけど、カフェってどういう意味なんですか?」
念のためカフェの確認をすることにした。俺が知っているカフェと同じだったらもうパクリってかこれはだれかの小説やアニメの物語に転生した説が確定される。
「なんか今考えていたみたいだけど、知らない単語が出てきたから読み取れなかったわ。カフェってのはフール国の古い言葉で『飲食物を提供するお店』という意味があるのよ」
「やっぱり一緒だったか。でも、病人と飲食を一緒にするとか君バカなの?」
俺は病人にとってはそんな場所は地獄にしかならないと思いキレてしまった。今まで治癒院でも食べたくても食べられないと嘆いていた患者を思い出したのだ。
「……ロイだっけ? そんな大きい声出してキレられるのね。男らしくてますます好きになったわ。患者に対して真摯に向き合っているからこそ出た言葉よね。私の見る目は間違っていなかったわ。嬉しい」
「いや……大きな声を出してすまない。いや、病人の中にはアレルギーや食べ物に制限がある人とかたくさんいるから……つい」
「ふふふ。そうやってすぐに自分の非を認められるところも素敵よね。でも、大丈夫。5階は調合及び実験室、4階が薬草管理室、3階が病室、2階が診察、1階がカフェよ。それも魔力で一人ずつのデータを拾っているから、もし、3階の人が1階で食事しようとしたら見えないゲートにはじかれて、入ることすらできないわ」
「マジか……この国すごすぎるだろうっ」
俺はその話を聞き、驚いて眼を白黒させていた。
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