第2話:隣国王女との出会い

 大勢の足音が聞こえてきた。なぜだかわからないが逃げなくてはいけない気がして急いで逃げようと試みたが、その女性が強く抱きしめていて離してくれなかった。


「あの……離してもらえませんか。あなたを助けに来たのですよね? 俺は面倒ごとには巻き込まれたくないので」


「いやっ。だめよ。せっかくのチャンスだもの。やっと出会えることができたのに」


 この女性はさっきから結婚してくれだの、チャンスだの、いったい何の話をしているのだろうか。そんなことを考えていると、兵士と思われる集団が10人ほど、俺たちを取り囲んでいたのだった。


「姫様がいたぞ」

「おいっ、アイツが姫様を手籠めにしようとしているではないか……殺せっ!」

「おうぅ!!」


 確かにこの態勢は俺がこの女性を襲っているように見えるかもしれない。だがしかし、よく見てくれよ。俺の方ががっつりホールドされて、動けないのだが……

 この女性、見た目によらず力が強い。背中がミシミシと今にも骨の1本は折れそうなくらいの力で俺を抱きしめている。


「おいっ、俺は何もしていない」


「何を? 嘘をつけ。顔が真っ赤ではないか。興奮している証拠だ。下半身も……」


「トーマスやめなさい。下品ですっ!」


「申し訳ございません。アーリエ様。しかし……」


「お黙りなさい。この方は私の足を治療してくださっただけです。そして、今先程私が結婚を申し込みました」


「えっ? アーリエ様、もしや頭をお打ちになったのですか? とうとうアーリエ様がおかしくなってしまった」


「トーマス、あなたはなぜそんなにすぐ思ったことを口走るのですか! 少しは我慢してから話をしなさい」


「申し訳ございません……ですが姫様はあれほど男性には興味がないと、何度も見合い話を断ってきたではないですか」


「そうよ。私は好きな男性がいるもの。この方よ。私の運命の人!」


「「えっ?」」


 俺と兵士たちの声が重なった。それもそうであろう。初めて会った男性を運命と言ってしまえるのは本当に頭を打った証拠かもしれない。心配になった俺は、女性の後頭部を手で撫でて確認する。


「おい、貴様、なぜ今になって、頭撫で撫で攻撃を姫様にするのだ。姫様が本気になってしまうではないか」


「違うっ! マジで頭打ってたら、処置が遅れると死ぬこともあるんだ。姫様でしたっけ? 気分は悪くないですか。どこか違和感のある場所はありませんか」


突然質問されたお色気な女性は戸惑いながら、答えた。


「……ご心配ありがとうございます。でも、私は頭は打ってもおりません。至って正常でございます」


 俺はそのことが確認でき、ホッと安心した。頭だけは本当に怖いのだ。


「なら、どうしてそんなわけのわからないこと言うのですか?」と軍服を着ている男は心配そうにしている。けれども、二人の会話を聞いていると、このトーマスと呼ばれる男はこの姫様が好きなのだろうか。


でも、姫様って……俺の国は第一王子しかいないよな。姫様とはどういうことだろうか。それに、兵士がついているということは公爵令嬢でもなさそうである。ふと、トーマスの隊服を見ると胡蝶蘭の紋章が入っていた。


「もしかして、隣国フール王国の美女だけど変わり者と評判のアーリエ・マドラスカス?」


「おいっ、姫様に対して呼び捨てとは失礼だぞっ」


「トーマスうるさいわねっ。犬みたいにキャンキャン言わない! お座り」


「ワン」


 トーマスは本当に犬のようにお座りしていた。この男プライドと言うものはないのだろうか。


「失礼しました。あなた様がおっしゃった通り私隣国のアーリエ・マドラスカスと申します。結婚をお受けいただけますか?」


「ちょっと待って。俺簡単な治療しただけだよ? それだけで結婚ってやっぱりどこか……」


「ふふふ。そう思われても仕方ないですわね。私この森にはよく薬草を取りに参りますの。でここに来るたびあなたが面白い方法で薬草を見つけているのを影ながら見ていたのですわ……まぁ、こういうのは一目惚れというのでしょうけど……で、今回足を滑らせてしまった私を助けていただき、この人ならと思った次第です。これでご理解いただけました?」


「お話はわかりましたが……でも、俺実家の治癒院を追い出された上に、除籍処分まで食らったので、身分もない上に無一文ですのであなたのような身分の高い方には釣り合わないかと思います」


「いえ、あなた様にはあなた様に見合った役職を与えます。というよりすでに準備は済ませてありますの。だって、ずっと機会を伺いあなたを口説くタイミングを待っていたのですから。足は痛いけどちょうどよかったですわ。身分など問題ありません。それに、私と結婚すれば身分どうのこうのと誰が言おうと殿下ですからね? 誰にも文句は言わせないわ。オーホッホッホ」


姫様は高笑いし始めた。


「結婚は……申し訳ないですかお断りさせていただきます。では」


 さすがに中身がおっさんの俺とこの美女では相手がかわいそうすぎる。いくらテンプレ展開だからといって、ここで靡くような真似はしたくない。変な謎のプライドが俺を引き留めさせた。


「ちょっと待ちなさいよ。わかったわ。なら結婚は保留でいいわ。私が今後落とせばいいだけの話だもの。なら薬草管理士として、うちで働く気はない?」


「それなら喜んでお受けさせていただきます。ありがとうございます。アーリエ姫」


 さすがの俺もそこまで言われれば引き下がる他ない。とはいえ、今後どうしようか悩んでいたので職場を確保できたのはありがたかった。


「なんなのよ。その変わり身の早さ、なんだか腹が立つわね。基本的に私の美貌になびかない男なんか今までいなかったのに……だからこそ、男は顔だけで私を判断するから嫌なのよね。ますます気に入ったわ。っていつまでトーマスは座っているのよ。行くわよ。私をおぶりなさい。歩けないんだからっ」


「あっ、はい」


 アーリエ姫はトーマスにおんぶされていた。トーマスは背中に柔らかいものが当たるせいか、ニヤニヤと気持ち悪い顔をして、幸せそうに歩いていた。普通はそうなるよな。俺だって油断すれば、あの胸からポロリしないかと期待してしまうもん。


 とはいえ、なんだかこの姫様のキャラがすごいな。でも、職が見つかったのは俺にとっては好都合だが、どうして既に準備していたのだろうか。別の人の役職に穴が開いたのかもしれないなとあまりは深く考えなかった。


こうして、隣国で薬草管理士として働くことが決まったのだった。

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