おっさん転生者は実家から「無能」だと追放されるも、隣国王女に愛され最強の力を手に入れる

tira

第1話:実家追放からの美女との出会い

 俺は今父に勘当され、家であるラパス治癒院を追い出されることになってしまった。


「役立たずな無能な息子などいらん。お前はラパス家の恥だから除籍し、次男のマイクを継がせる。今すぐ出ていけ」

 

このルノニア国で長い間ラパス治癒院で国のために働いてきた侯爵家の長男ラパス・ロイは全く治癒魔法が使えなかった。なぜだか理由はわかっている。それは俺は転生者だからである。普通なら転生者といえばチートとかあるはずなのだが、幾分俺の年齢には無理があったのだろう。これといって素晴らしい魔法が使えるわけではない。誰でも使える探知魔法だけである。


 45歳のおっさんだからこそ、転生できただけでもありがたい思うことにして、ずっと家族に虐げられても俺の居場所はここしかないと我慢して働いていた。いくら出来損ないとはいえ、働いていたので薬草の管理や一般的な処置くらいは当然できるようになっていた。


 しかし、転生者なのに、残念なのは年齢と田中秀一という名前しか思い出せないということである。なぜ死んだのかすらわからない。まぁそんなことは今はどうでもよかったのだ。


 この実家追放が父との最後の会話である。言い訳すらお情けもない。身一つで放り出されてのだ。父は昔ながらの頭が固い頑固親父である。まさにラーメン屋の「黙って食べてスープまで飲まないと帰さないからな」みたいなタイプの頑固親父にそっくりなのだ。こういうわけもわからないところだけの記憶を思い出せるのが不思議なのだが、肝心なことは一向に思い出せなかった。


 正直あの家族からの俺への扱いはひどいものだった。こいつが初めて男として成長したときに俺は転生者だと言うことを思い出した。どんなタイミングだよと自分でも笑ってしまったが、元のロイは本当に気の小さい優しい性格だった。だから、俺自身があまりでしゃばってはいけないとずっと我慢していた。


 けれど、こうなった親父はだれも止められない。母が謝るような目で見つめているがこの父に逆らえるはずもなく、そのまま父の後を追った。追い出された俺は、 何しろ一文無しの上に荷造りもさせてもらう時間もなかった。このままでは野垂れ死にすることになるだろう。とりあえず、川や獣を狩れば生活できるであろう森へと向かうことにした。最悪野草を食べても生き延びることができそうだ。あてもなく歩き続けることにした。


 そもそも治癒魔法は人からは気持ち悪いと蔑まれている。それに、貴族から特別扱いを受けているラパス家を恨んでいるのだ。いわゆる王族とずぶずぶの関係で優遇されているからと嫌われていたのだ。それなら治癒院にも来るなよと思ったが、そこは違うらしい。死にたくないという思いから治癒魔法をかけてくれと頼みに来るのである。所詮はみんな自分がかわいいようだ。どこの世界もこれは変わらないようだった。


 考えながら歩いていたが、何時間歩いていたのだろうか。喉も乾いて限界だった時、ちょうど川が見えてきた。川のそばで倒れこみ、川の水を直飲みしていた。


 「はぁ、美味しい。相変わらずここの水は新鮮でうめぇっ!!」


 一人満足していると、女性の苦しそうな声が聞こえてきた。治癒魔法が使えないといえ、一応これでも治癒院の端くれである。苦しい人を放置すると言う選択肢など俺にはなかった。その声が妙に色っぽかったとかが理由ではない。声のする方へと向かうと、この国では珍しい緑髪の長い髪の女性がうずくまっていたのである。


「大丈夫ですか」

「……足が……」


 足首から血が出ており、足の向きがおかしな方向へ向いている。きっと骨折したのだろう。本当なら処置した後に治癒魔法ですぐに直せればいいのだが、何せ俺は治癒魔法が使えない。とりあえず持っていたハンカチで止血した。


「ちょっと、痛むかもしれませんがこのままだと一生足を動かせなくなるので少し我慢してください」

「……はい」


 俺は女性の足首を持ち、ぐきっと大きな音が鳴らせ本来あるべき場所へと戻す。その女性は顔をしかめただけで泣かなかった。多くの人が泣き叫ぶのに珍しい。それにしても綺麗な女性だなと俺は見惚れてしまっていた。


 いや、そんな見つめている場合ではなかった。とりあえず痛み止めを探して、あと、冷やさなければならない。着ていたシャツの裾を破り、簡易的な包帯を作り出し、足を固定させていく。


「ちょっとこのまま動かさないでくださいね。あとこれ持っててください。俺ちょっと薬取ってきます」


 俺は綺麗な女性に告げ、薬草を取りに行くことにした。治癒院としての素質なのか、俺の下心なのか本当のことはわからない。


 しかし、ただ治癒魔法が使えぬと言うだけでなぜ今さら追い出されなければいけなかったのだろうか。アイツら、他の業務はもっぱら全部俺にさせていたくせに。今頃後悔してたりしてな。今さら後悔してももう遅いって奴だな。


 またこんなどうでもいいことは覚えているんだから、俺ってきっとニートとか引きこもりおじさんとかとんでもない人生を送っていたのではないだろうか。不安しかない。思い出すのも怖い気がする。まぁ、そんなことはいい。


 今はこの綺麗なおねえちゃんが優先である。お近づきになりたい、何しろ彼女の胸はボインちゃんだった。あの有名な○○ちゃ~んといつも裏切るあの色気たっぷりの女性のようである。


 俺は痛み止めに効くニワトコとキハダを探しに行くことにした。この森は薬草の宝庫と呼ばれているからきっとどこかにあるに違いない。薬草を覚えるのは簡単だった。絵を一度見れば覚えることができたのだった。これはきっと、ロイが幼少期から行われていた英才教育のたまものなのだろう。


 先日も取りに来たはずなのだがどこだったか忘れてしまった。いくら薬草を取りにかなりの回数をこなしているとはいえ、森の中は入り組んでいて、見るところ全て同じような景色なので覚えることが不可能なのだ。これがこの森の特徴と言えばそうなのかもしれないが……どこを見ても緑なのだからわかるはずもない。けれども、俺には治癒魔法こそ使えないが、探知魔法が使える。だが、薬草限定らしい。エッチな本を探そうとしたら、ブッブーと大きな赤矢印が出て探すのを拒否されるのだ。


 いつものように探知魔法をかけると、いつもの矢印が出た。これさえあれば、探し出すのは簡単である。俺の魔法は俺のおバカ知能に合わせてくれているのか北や南など方位で示すのではなく、矢印で教えてくれる。それでも間違えるときは、普段は青色の矢印が大きくなって赤色に変化し、矢印が怒っているのか動きだすのだ。あれはあれでぴょんぴょん跳ねてかわいいものがあるのだが……と自分語りをしている場合じゃなかった。


 俺は矢印の方向へ走っていく。ニワトコには消炎・鎮痛の効能があり、打撲やねんざの時に利用する。キハダの幹の皮をはぐと、あざやかな黄色が現れる。このキハダに含まれるベルベリンは強い苦味があるが、今回は外用薬として用いるので問題ないだろう。


 ニワトコもキハダも近い場所にあったので助かった。落ちていた大きなヤシの実の殻を器に使いキハダの樹皮をナイフで削り、ニワトコの茎を粉末にして混ぜる。ペースト状のものが出来た。これで簡易的な塗り薬が完成というわけだ。俺は帰り際に被っていた帽子の中に水を入れて持ち帰ることにした。


 あの女性のことを考えると驚くことばかりである。普通骨折をしていれば涙の1つや2つ見せるはずなのに、痛さを必死でこらえているのか、俺が合流してからは苦しい声すら上げなかった。なんと美しくて逞しい女性なのだろうか。俺はその女性の強さに心を打たれるものがあった。決しておっぱいに釣られたわけではない。きっと……


 俺は急いで戻り、女性にその塗り薬を足首に塗ることにする。


「ちょっと今は塗るための刷毛がないので俺の素手ですみません。決してやましい気持ちではないのでそこのところ勘違いしませんように……」

「ふふふ。大丈夫です。お願いします」

「あっ、はい」


 初めて見せた笑顔があの強さからは想像もつかないほどの可愛さでドキリとしてしまう。やばい。これは不埒な気持ちで触ってしまいそうだ。


 俺は恐る恐る触り方がエロくならないように彼女の足首に薬を塗っていく。女性の足のすべすべしていた感触にどぎまぎしながらも、自分を戒めるが……変なことばっか考えてる自分がいる。頭の中ではこんなことやあんなことを想像してしまっている。きっとこの感じは童貞決定だわ。


 俺はショックから大きな深呼吸を1つして、心を落ち着かせることができた。でも、いかがわしいことをしているようでドキドキを止めることはできなかった。なんとか薬を塗り終えることができた。再度足首を固定し直して、水入り帽子で冷やす。


「よしっ、終わりました。でも、どなたか助けがきますか?」

「えぇ。もうすぐ来ます」

「なら、このまま固定していてください。あとちゃんと治癒院もしくは病院で見てもらってください。たぶん骨が折れていると思うので……では」


 俺はこのまま一緒にいれば自分自身が何をしでかすかわからないと急いで立ち去ろうとした。何しろ童貞の俺にとっては、すでにキャパオーバーなのだ。鼻血が出なかっただけでも偉かったと自分では思っているくらいである。


 俺は自分の中に高ぶっている感情が抑えられずに、彼女に襲い掛からないためにもその方がいい。さすがに犯罪者にはなりたくない。そんな俺の心境などお構いなしに、その女性は俺の腕を掴み抱き着いてくる。


「私と結婚してください」

「ちょっと……えぇ!!」


 急展開すぎるまさかの発言に俺は大声をあげてしまっていると、なんだか周囲が騒がしくなっていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る