許せる事も、許したくないだけで
俺が結望の連絡先を知らないと思い出すまで、そう時間はかからなかった。
彼女は、彼女が会いに来てくれないと会えない女の子、だったから。
とはいえ、今日、あのタイミングで会いに来たことは、なんともタイミングが悪いというか。
第一、結望の浮かべていたあの表情はなんだ?
自らの行為をさらけ出して、目の前に在る俺と千尋の関係性をぶち壊した意味は?
「……分かるか、んなこと」
俺より数段、数十段も頭の良い結望の考えることなんて、俺には理解することが出来ないのだろう。
許せない? そんなことはない。多分、同じ立場だったら、俺だって腹が立つ、と思う。
だからきっと、許せないんじゃない。
許したくないだけ、なんだ。
それでも、やっぱり。
一矢報いてやらないと気が済まないというか。
しかし俺の意識は、既に別のベクトルへと向いていた。
『まだ、なんとかなるかもしれない』という、自分でも呆れてしまう逃げの一手。
俺が、ユージンが瀬井幽人だとバレてしまったのは既に覆すことが出来ない事実。そこはどうしようもない。
のだが、まだ一つ、逆転の目はある。
結望が暴露したあの一連の事実を、事実でなかったという事実に塗り変えてしまえばいいのではないか?
中学時代の知り合いで、結望と千尋も店での知り合い。
だから、そんな二人が仲睦まじくしている風景を見て、いたずら心が湧いてしまったという事実に、改変。改ざん。
そうだ、それでいこう。それなら、まだなんとかなる。
そうすれば、ちょっと気恥ずかしくて言い出すタイミングがなかった、なんて言い訳だって通用するだろう。
さて、その為に必要なピースは、結望が素直に言うことを聞くか、ということだ。
が、無論、何の材料もなくそんな愚行に走るわけはない。
俺は、恐らく世間一般の奴ら、少なくとも俺をいじめていたゴミと比べれば、いくらか頭が回る。
千尋と同じ店で働いていて、名前が、結望。
源氏名を付けるなら、俺でもみゆにするよ、安易だ、結望。
つまり、逆転の鍵は、俺の国を守る為の武器は、お前だよ。
「もしもし、流星か? ちょっと話があんだけど」
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