第四章【波乱と憎悪の文化祭】
冷えたコーラと冷たい視線
人間は、案外小賢しい生き物みたいで、ツビッターで千尋とのやりとりを始めてからというもの、店に行こうという気力がどうにも薄くなったような、会いたいという感情の原液を水で二十倍くらいに希釈したような、そんな心持ちになっていた。
加えて、塾講師のバイトも再開したのだから、案外時間がない。おまけに、体力も。
挙げ句の果てには学園祭の準備だのなんだのと、思っていたより自由に使える時間が減っているのも事実だけれど。
「学園祭なんてさ、俺達みたいなはぐれ者は隅っこで見学してればいいんじゃないの?」
なんて、ふと思ったことを口走った。
少なくとも、はぐれものであるのは俺と、百歩譲ってリフレ通いの流星だけにとどまるような気がした。いささか、主語が大きい。
「ユートはそう言って去年もろくに参加してなかったもんね。まあ、私と舞も似たようなものだけど」
普段からさほど関わりがあるわけでもないのに、そういうお祭りごとの時にだけすり寄るのって、少々、というか、かなり気色の悪い行為に思えてしまう。
「俺も、なーんかああいう暑苦しいのはな」
俺はともかく、
「……みんな…………友達、いないのか?」
俺のそんな軽口に、流星と和は血相を変えた。
「少なくとも幽人に言われる筋合いはない!」
「流星に同じく!」
鬼の首を取ったように俺を責め立てる二人。とりわけ和は非常に心外であるとでも言いたそうだった。
「わかったわかった。俺が悪かったよ。で、学園祭っていつから?」
「明日」
「で、俺達は今何を?」
「準備に追われる学生を眺めてる」
「友達いる?」
「…………」
まぁ、つまりそういうことらしい。
友達の多寡なんて、別に大事なことじゃない。俺にとっては流星も、和も舞も大事な友達だ。俺は、それでいい。
多いことが大切であるわけじゃなくて、その一人一人との密度が大切だと、俺は思う。
思えば、和と初めて一夜を共にした日から、一ヶ月と少しが経過している。というのに、二人で快楽に溺れたのはあの晩だけだ。
もう少し、誘ってくれたりしてもいいんじゃないか、なんて、思わなくもない。
同じように、舞との進展も、一切と言い切って良いくらいにはない。
元来奥手な性格もあってか、俺から誘いをかけなければ、恐らくなんら進展はないだろう。
「まぁほら、私達は四人で一つみたいなところあるじゃん。それでいいでしょ」
「そうだよ。私もそう思う」
相も変わらず、和と舞は息がピッタリだ。それに対して俺と流星ときたら……。
「どこからどうみても悪友みたいな、そういう感じだろ」
「ん? なんか言ったか?」
「いや、なんも」
なんて具合。結論から述べれば、果たして親友と呼んで良いものか、些か不安感に駆られるのだ。
「ま、何はともあれ、だ。何もしないってのは如何せん寝覚めも悪いし、ちっとくらいは手伝いでもしようぜ」
流星は、首をポキポキと鳴らしながら、そんな至極真っ当な事を言ってのけた。
無論、俺達三人は顔を見合わせたさ。
だってそうだろう、マザーテレサが「ぶっ殺すぞ」なんて言えば、誰でも驚く。
とはいえ、発言に関しては概ね同意、他二名も同じくだった。
リフレ狂にも人の心があったんだなぁと少しばかりの感動を覚えながら、四人で仲良くそこら辺の学生に「何か手伝うことはないかい?」なんて聞いてやれば、返ってきた答えが「みんなへの差し入れの飲み物でも買ってきて欲しい」だった。
瞳は「君誰だっけ」と語っていた。冷ややかに。
パシリという言葉が脳裏をよぎったものの、何をするかも分かっていない俺達が今更出来ることなんてそれくらいのものだろうと納得し、俺達は足並みを揃えて買い出しへと向かった。
無論、それぞれの好みなんて分からなかったし、そもそもその費用はどこから出てくるのかも分からなかった。
じゃんけんで負けた俺が全額支払った訳なのだが、恐らく、いや、間違いなく、金輪際戻ってくることのないお金だろうということは、言うまでもなく明らかだった。
百円のドリンクを三十本、割かし手痛い出費だった。
それよりなにより、男二人でおよそ十五キロの液体を長らく運ぶことの方が、何にも増して大変であったことは、言うに及ばないだろうけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます