第12話

 俺は強引に補助運転席からスクリーンを展開させた。百八十度に展開した正面のウィンドウが切り替わり、二機のステッパーの戦いぶりを映し出す。

 右半分がリアン中尉の、左半分がロンファの戦闘状況だ。ステッパー付属の小型カメラからの映像に、俺は見入った。


《こちらリアン! 敵戦車部隊に向け接敵中! 数は三、いえ、四! 遠方に熱源反応、対戦車ロケット砲の可能性あり!》

《こちらロンファ! 状況は同様だ! 旧式の戦車四台の後方に、ロケット砲を搭載した車両を視認!》


 なるほど。戦車はロケット砲車両の護衛、それを誤魔化す囮、そしてあわよくばステッパーの破壊という三つの役割を果たしているわけか。


「対戦車ロケットに砲撃を許したら勝ち目はありません! 急いで周辺の戦車を――」

《言われなくても、やってるさ!》


 最初に戦果を挙げたのはロンファだった。

 彼の駆るドラゴンフライは、言ってみればパワー馬鹿だ。左腕は超高硬度の特殊金属性のグローブで、装甲車を叩き潰すくらい容易なこと。

 ステッパー特有の低空飛行を経て、先頭の戦車を真上から叩き潰した。爆炎が上がり、あたりが急に明るくなる。


 砲塔をひしゃげさせながら、跳躍するドラゴンフライ。その右腕から何かが放り投げられた。

 鉄球だ。当然、ただの鉄球ではない。グローブと同じ素材の棘が無数に生えている。ドラゴンフライに砲塔を向けようとしていた戦車は、呆気なく前面をひしゃげさせた。装弾中だったのだろう、車内で砲弾が爆発し、空中へと舞い上がって、どしゃり、と落下した。


 砲撃をサイドステップで躱し、時折グローブでコクピットを防御しながら、ドラゴンフライは三台目へと猛進した。


 対して、ヴァイオレットの戦い方は実にスマートだった。右腕部に携行していた短機関銃(ステッパーサイズ)を戦車に浴びせかけ、それを撃破しながら素早く滑空。最も奥で待機していた戦車に切迫する。

 そこで突き出されたのは、これまたステッパーサイズのコンバットナイフだ。これもまた、超高硬度の特殊金属でできている。


 ほぼ零距離での砲撃を易々と躱し、ヴァイオレットは横合いから戦車を串刺しにした。

 その戦車を盾にしていれば、残る二台の戦車はこちらに攻撃できない――というのは素人考えだ。


 戦車の役割は、飽くまでもロケット砲を搭載した車両の護衛だ。その車両に最も近い位置に、愛機で乗りつけている。リアン中尉がこの機を逃すはずがない。

 未だロックオンに苦心しているらしいロケット砲の車両に向け、戦車を放った。それから短機関銃を取り出し、油断なく銃撃を繰り出す。


 ダンダンダンダン、という重い銃声が、画面越しに見聞きしている俺の胃袋の底を震わせる。

 戦車の残骸の直撃を受け、大きく損傷したロケット砲の車両は呆気なく爆発四散した。


 残る戦車二台が砲塔を回転させ、ヴァイオレットに狙いを定めたが、遅い。一台は砲塔を縦にぶつ切りにされ、そのまま蹴とばされた。その先にいたもう一台が砲撃し、結局二台まとめてお陀仏だ。


「す、すげえな……」


 とは、俺が思いがけず漏らした一言である。

 

「デルタ伍長、現在行動中の熱源はステッパー二機だけです。他はまだ熱を帯びていますが、戦車やロケット砲の牽引車の余熱と見て間違いないでしょう」

「……」


 運転手の言葉に、俺は素直に溜息をついた。ロンファの方も、片がついたらしい。


《こちらロンファ、ったくアイツら世話をかけさせやがる……。取り敢えず五台、全部仕留めたぜ》

《こちらリアン、状況終了。周囲に敵の増援や伏兵のいる気配はないわ。トラックに戻ります》


 運転手が顔を上げたのを見て、俺は身を乗り出した。


「こちらデルタ、了解しました。二人共、電力の残量は?」

《六十五パーセント。問題なーし》

《こちらは七十八パーセント、同じく問題なし。ただ、短機関銃の残弾が不安ね。どこかで調達できればいいんだけれど》


 ふむ、なるほど。


「では、途中の街に寄りましょう。メリドという、やや大きめの都市があります。そこで補給を――」


 と言いかけて、俺は自らの愚行を呪った。

 第三首都衛星都市・メリド――ロンファの生まれ故郷じゃないか。それはすなわち、彼が両親を喪った場所であることを意味している。


 それを悟ったのだろう、リアン中尉も黙り込んだ。

 しかし、この沈黙を破ったのは、意外な人物だった。


「ねーねー、あたしお腹空いたんだけど」


 かちん、と俺の脳内で何かが弾ける。


「おいリール! ……じゃない、リール軍曹、何を仰るんです?」

「だって、街に行けば食糧が手に入るでしょう?」

「我々が持参した固形食糧があります! それで我慢を――」

「いやよ、だってあれ、美味しくないんだもん」

「……」


 俺は運転席を抜け、拳を握り締めながらリールの下へと大股で歩いていく。

 この女、戦場の悲惨さを知らないからこんなことが言えるんだ……!


「ちょ、ちょっと待って、デルタ!」

「構うな、ルイス」

「構うって! 反逆罪で捕まっちゃうよ!」


 俺は思いっきり装甲車の内壁を蹴りつけ、荒い息をつきながらシートに座り込んだ。

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