第8話カキュカキュカキュ_これって何の音だぁ〜


 風呂は苦手じゃないけどシャワーって嫌いだ。

 最近はあればかり使ってる。

 湯舟に浸かってるなら蓋の上で見ててやるのにさ。 だから今も外で広輔コースケの出待ちしてる。

 そこに父さんトーサンがやって来た。


「ちょっといいかぁ。カランに切り替えてくれ」


「チョイ待って。水を停める」


 キュッと音がして扉が開いた。


「ナニ?」


「さっきはありがとな。流石、俺の息子。恵梨えりちゃんを泣かせなかったのは賞賛に値する。 詳しい話は今夜の夕飯時にするから、今から恵梨ちゃんを一緒に連れて行ってくれ」


「そんなの嫌だよ、女子なんて連れてけないよ」


「もうお兄ちゃんだから、小さい子の面倒くらいみなくちゃな」


「兄貴でもないのに何でだよ」


「兄貴じゃなくても恵理ちゃんよか、お兄ちゃんだよな。取り敢えずコーチには頼んでおいた。水筒も二つ用意してあるからな」


「昼はどうすんのよ?」


「それも弁当屋に恵梨ちゃんの分も注文して貰う段取りだ。夕方まで家に女の子一人、置いてけ堀はないだろう?」


「んー、他人の家ひとんちにひとりは可哀想かもだけど。だからってオレにも都合ってもんが……」


「じゃあ行くとき帽子かぶらせてくれな。先に出るから、父さんが火の元は確認しとく。あと鍵をかけるのだけ忘れるなよ」


 ひと通り言い渡して父さんトーサン、お湯を止めに台所に行った。

 唖然茫然あぜんぼうぜんとしてる広輔コースケ。 頭に泡つけたまま……。


「ミャ(ハッ! 父さんトーサンまだそれ切っちゃダメぇー)ミャミャミャ〜ァ」


 僕は颯爽さっそう父さんトーサンの後を追う。

 広輔コースケ、安心しろい。 僕が阻止して見せるっ! と、後ろで叫ぶ声が。

 

「オレまだ洗ってる途中じゃん! 風呂のガスは止めないでよね!」




 __カキュカキュカキュカキュ……


 何してるかって? 風呂場の扉を叩いてるのよ。

 広輔コースケをドアの外から呼んでるんだけど。 シャワーの音で聞こえないみたいだからさ。 こうやって爪を出したまま派手に叩くの。

 さっきこっそりゴハンを食べに行ったんだけどね。 まだお腹一杯になってないの。

 欠片が付いてないようキッチリ顔を洗ったし、器も綺麗に舐めて証拠隠滅したっ。

 フッフッフ……これで絶対盗み食いしたのはバレない。

 更なるカリカリの追加を待つのみなのだ。


「ゥワウ〜ン?(どうよオレ、完璧じゃない〜?)」


 駄菓子菓子だかしかし、これは女の子が告げ口しなければの話。 父さんトーサンが事務所ってとこに行ってから、女の子が僕にずっとついてくるんだ。

 敵が情報を洩らさないとは言い切れない。 見張っていないと不安。 ちょくちょく触られそうになるのは嫌なんだけど致し方あるまい。


「こ……こうすけさん……」


「(わわわ、バラしちゃダメ!)カプッ」


 僕は焦ってしまって女の子のくるぶしにカブりついてしまった。


「キャッ」


「どうしたの!」


 気付いて風呂の中から広輔コースケが訊いてる。

 ど、ど、どうしよう、全部バレて僕はもうお終いだァァァ。


「何でもない。ドラちゃんとぶつかっただけ」


「ア〜ン(噛みついたこと許して欲しいのだ)」


 そうお願いすると、女の子がしゃがんで僕の頭を撫でた。

 その膝っ小僧からミルクみたいな甘いニオイがして、思わず僕は耳と鼻先をこすりつけてしまった。

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