第5話 さえずりじゃないピピピ、ピピ……


<__ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピ…………>



 朝のうるさい音で僕は起こされた。

 昨晩は広輔コースケが作戦会議してる途中で眠くなってきて、壁と枕のくぼみに挟まったまま寝ちゃったみたい。


 (ううーん)


 背伸びしたら広輔コースケも薄く目をあけた。

 丁度いいから顔を舐めてザリザリして部屋のドアを開けるようせがむ。

 広輔コースケがムクっと起き上がって、器用にも目をつむったままドアまで行って開けた。


「(僕用のドアつけてくれない?)ミャー」


 無駄と承知で言ってみたが、やはりスルーされた。 父さんトーサンにも言ってみたりしてるんだけど、なかなか通してくれないのよ、この要求。

 トイレを済ませに一階シタへ下りて、リビングの窓から庭を眺め天気を占いつつ顔を洗い、カーテンに頭からしっぽまで入念に擦りつけて朝の身支度は終了。

 ついでに台所で寄って口を潤す。

 隣に置いてあった餌皿ゴハンが気になったんだけどツイてない。 女の子がそ〜っと近付いてきたのが分かって、僕は階段を上がって逃げた。

 そしてそこに仁王立ちしてる広輔コースケ。 そして部屋に入るなり厳しいボディーチェック。


 (ぼ、僕まだ、何も悪いことしてないよ?)


 いやいや水だけにしといて良かった。 予感がしたのよ、女の子に撫でられそうなね。

 あれ嫌なんだよねー。


 子どもの手のニオイって強烈で、毛繕けづくろいしてもなかなか取れない。

 だから基本、子どもで触らせて良いは広輔コースケ大洋タイヨーだけってことにしている。

 大洋タイヨーってのは広輔コースケの友達のこと。 ヨコヤマとかタイヨーって呼ばれてるの。


 二年前に神戸から転校してきた広輔コースケのクラスメート。

 転校生として二年先輩の広輔コースケは一番に友達になってあげて、そっからふたりは大の仲良し。

 それというのも広輔コースケが、今の家へ越してきた時に喋り方をからかわれて、友達が出来なくて悲しい思いをしたから、大洋タイヨーに同じ思いをさせたくなかったんだって。


 (今じゃ一杯友達いるけどな)


 チームに入ってから友達増えたって言ってる、あ、ラグビーのチームね。

 東京弁はキモイ、とかって言ってくる意地悪い人間は一人もいなくて好き勝手に話せるのが嬉しいらしいんだよ。

 その面々は時々ゲーム機を持参して遊びにやって来る。

 ゲームが伯仲はくちゅうしてる時はいいんだけど、プロレスごっこしだすと迷惑をこうむりかねないので、僕は姿が見えない場所まで避難するの。

 これは、奴らの手汗が凄いことも知ってるから、外に何台も自転車が停った時点で実行する事と決めてる。 こっちの都合にお構いなく、問答無用で触ってくるんだもん。 人気者の宿命かなぁ。


 その点で大洋タイヨーの手はあんまりベトベトしてないくて、そこがいいんだ。

 大洋タイヨーも昨日のに入るかな?ええっと何だっけ? ええっとええっと……お腹が空いた。



<__ピピピ、ピピピ、ピピピ、ピピピ、……>


 その時、2回目の朝の煩い音が鳴りだした。 広輔コースケは二度目のフテ寝中で、まったく止める気なし。

 名案おもいついた!


 (腹にダイブだ♪)


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