第3話 ゴハンじゃ無いカリカリカリカリ……


< カリカリカリカリカリ………>


 ドアの向こうに聞こえるように僕は合図を送る。

 こうすると、僕が来たよ、ってことが通じて寝てても跳び起きて広輔コースケはドアを開ける……いつもなら。

 さっき僕に、涙目してるのを見られてしまてることに気付いてるかもしれない。 今はこころの準備が要るかもしれないよね。

 だって、男の子なんだもんな、ウンウン僕には分かっちゃうよ。


(見ぬフリするのも武士の情けというもの、少し待ってみてからもう一回合図を……)


< カチャ__>


上の丸いのが回って少しだけ開いた。 えっとぉ、ノブってのね。 これは爪を立ててもツルツル滑って、僕にはどうやっても開けられないのよ。


「なんだよっ。 ドラは食べてこいよ。 オレに気を遣わないでもいいんだぞっ」


(そのつっけんどんないい様はナニ? 美味しそうなニオイを後目にして、話しを聞きに来た者に対して失礼じゃないか。 そういう所がお子ちゃま対応なんだよな)


 僕は何にも意に介せずの猫でていで無理矢理ドアの隙間に頭を突っ込む。


「(お邪魔しマース!)ゴロミャー」


「あっコラ入って来るな。 困った奴だな」


(バ〜カ、強がったってそんな鼻声、泣いてたのモロわかりなんだょ)


 そんなの名探偵ドラには通用しないのだ。 ホシはわれた。 アソコに見えてるのが動かぬ証拠品だ。

 ベットに跳びのって、枕の下からハミ出してるタオルをほじり出して、これ見よがしにクンクンしてやった。


(どうだい。僕の勘は間違ってないだろ)


「ハアー。 ドラには隠せないな」


 そう言って広輔コースケは隠してたタオルを引っ張り出して、両手でくにゅくにゅっと丸めてボールにして、ベッドに座ったまま上に放り投げた。

 天井に当たって、落ちてくるとき解けて、勉強机の上にふわっと舞落ちた。


「(当たり前のことだよ、照れるから褒めなくていいよっ)ミャッ」


 一切合切いっさいがっさいを聴いてあげようと思って、広輔コースケの側に陣取る。


「そうさ泣いてたさ。 だって父さんってあんまりだろう? オレはまだ認めたって言って無いのにさっ! 母さん以外の女の人に台所を使わせるなんて、絶対に駄目だ! 母さんが泣いてしまう、忘れたと思わせてしまう。 女子には優しくしろって、いつも人には言っといてだよ。 母さんは死んだ人だから優しくしなくても良いってのか?……」


 あわわわわ、聞いてるこっちが、どこで息つぎしていいものか目が回る。 それくらい、広輔コースケが喋りまくってる。

 いろんなモヤモヤで一杯いっぱいになってて、ものすごーくガマンしてたのが分かった。





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